トランザクション署名はMITB攻撃をどう防ぐのか
情報セキュリティマネジメント試験 令和元年度秋期 午前 問13 / セキュリティ › 情報セキュリティ対策
過去問にチャレンジ
インターネットバンキングでのMITB攻撃による不正送金について,対策として用いられるトランザクション署名の説明はどれか。
- ア
携帯端末からの送金取引の場合,金融機関から携帯端末の登録メールアドレスに送金用のワンタイムパスワードを送信する。
- イ
特定認証業務の認定を受けた認証局が署名したディジタル証明書をインターネットバンキングでの利用者認証に用いることによって、ログインパスワードが漏えいした際の不正ログインを防止する。
- ウ
利用者が送金取引時に,送金処理を行うPCとは別のデバイスに振込先口座番号などの取引情報を入力して表示された値をインターネットバンキングに送信する。
- エ
ログイン時に,送金処理を行うPCとは別のデバイスによって,一定時間だけ有効なログイン用のワンタイムパスワードを算出し,インターネットバンキングに送信する。
会話形式の解説
講師今回はMITB攻撃への対策として、トランザクション署名がどういう仕組みかを問う問題です。ログイン時の認証を強くする対策と、取引内容そのものを守る対策を見分けられるかがポイントです。
受験者MITB攻撃は名前は聞いたことがありますが、具体的にどういう攻撃なのかはあいまいです。
講師MITBは「Man-in-the-Browser」の略です。PCに潜んだマルウェアがブラウザの通信内容を盗み見たり書き換えたりする攻撃です。利用者は正規の手順でログインして送金操作をしますが、その途中で送金先や金額が書き換えられてしまいます。
受験者ログインそのものは本人がしているのですね。そうすると、ログインの認証を強くしても防げないということですか。
講師そのとおりです。そこで必要になるのが、取引内容と結び付いた確認の仕組みです。選択肢は「取引情報を材料にした値か」「PCとは別のデバイスで作られる値か」の2点で見てみてください。
受験者別のデバイスに振込先口座番号などを入力して、表示された値を送る選択肢は、両方を満たしていそうです。
講師はい、それがトランザクション署名です。サーバは、送られてきた取引情報と署名値が対応しているかを検証します。ブラウザ内で送金先が書き換えられると署名値と合わなくなるので、不正な取引として処理を拒否できます。
受験者私は、別のデバイスでログイン用のワンタイムパスワードを作る選択肢とも迷いました。こちらも別のデバイスを使っていますよね。
講師そこが一番の引っかけです。別のデバイスを使う点は同じですが、作られる値はログイン認証用で、取引内容とは関係がありません。ログインした後に送金先や金額を書き換えられると、サーバは気付けません。
受験者では、送金のときにメールでワンタイムパスワードが届く選択肢はどうですか。送金時なので取引に関係がありそうに見えます。
講師送金時に使うものではありますが、これは二要素認証の説明です。届くパスワードは取引情報から作られた値ではないので、ブラウザ内で内容を書き換えられても、サーバ側は改ざんに気付けません。
受験者認証局が署名したディジタル証明書を使う選択肢は、「署名」という言葉が入っているので少し気になりました。
講師これはクライアント認証、つまり利用者が本人であることを証明書で確かめる方式です。不正ログインを防ぐ効果はありますが、署名の対象は送金先などの取引情報ではありません。ログイン後の書き換えには対抗できません。
受験者整理すると、ポイントは別のデバイスを使うかどうかではなく、その値が取引情報から作られているかどうか、ということですね。
講師そうです。「送金時」「署名」といった言葉だけで判断すると、今回のように取り違えやすくなります。似た問題でも、その値が取引情報から作られ、サーバが取引情報と照らし合わせて検証できるかどうかを基準にすると、判断しやすくなります。
まとめ
MITB攻撃は、PCに潜んだマルウェアがブラウザ内で送金先や金額を書き換える攻撃で、利用者が正規にログインした後に起こります。そのため、ログイン用ワンタイムパスワードやクライアント証明書のように認証を強くする対策だけでは防げません。トランザクション署名は、振込先口座番号などの取引情報をPCとは別のデバイスに入力して署名値を作り、サーバが取引情報と署名値の対応を検証する仕組みです。書き換えられた取引は署名値と合わなくなるので、拒否できます。見分けるポイントは、別のデバイスを使うかどうかではなく、その値が取引情報から作られているかどうかです。
解答・解説
正解はウです
この問題のテーマ
インターネットバンキングで送金内容を書き換えるMITB攻撃への対策のうち、「トランザクション署名」がどういう仕組みかを問う問題です。ログイン時の認証を強くする対策と、取引内容そのものを守る対策を見分けられるかが問われています。
解き方の考え方
まず、MITB攻撃の特徴を押さえます。MITB攻撃では利用者が正規の手順でログインして送金操作をしますが、その途中でブラウザ内のマルウェアが送金先や金額を書き換えます。そのため、ログイン時の認証を強くするだけでは防げず、取引内容と結び付いた確認の仕組みが必要になります。選択肢を「取引情報(振込先口座番号や金額)を材料にした値か」「PCとは別のデバイスで作られる値か」の2点で見ると、両方を満たすのはウだけです。
選択肢ごとの解説
- ×ア 携帯端末からの送金取引の場合,金融機関から携帯端末の登録メールアドレスに送金用のワンタイムパスワードを送信する。アの、登録メールアドレスに送金用のワンタイムパスワードを送る方式は、二要素認証の説明です。届くパスワードは取引内容と結び付いた署名ではありません。そのため、ブラウザ内で送金先や金額を書き換えられても、サーバ側は改ざんに気付けません。
- ×イ 特定認証業務の認定を受けた認証局が署名したディジタル証明書をインターネットバンキングでの利用者認証に用いることによって、ログインパスワードが漏えいした際の不正ログインを防止する。イの、認証局が署名したディジタル証明書で利用者を認証する方式は、クライアント認証の説明です。不正ログインを防ぐ効果はありますが、ログインした後の取引内容の書き換えは防げません。利用者を確かめる技術であり、送金先などの取引情報に署名するものではありません。
- ○ウ 利用者が送金取引時に,送金処理を行うPCとは別のデバイスに振込先口座番号などの取引情報を入力して表示された値をインターネットバンキングに送信する。ウの、送金するPCとは別のデバイスに振込先口座番号などの取引情報を入力し、表示された値を送る方式がトランザクション署名です。サーバは送られた取引情報と署名値が対応しているかを検証します。ブラウザ内で内容が書き換えられると署名値と合わなくなるので、不正な取引として処理を拒否できます。
- ×エ ログイン時に,送金処理を行うPCとは別のデバイスによって,一定時間だけ有効なログイン用のワンタイムパスワードを算出し,インターネットバンキングに送信する。エの、別のデバイスで一定時間だけ有効なログイン用ワンタイムパスワードを作る方式は、トークンを使ったワンタイムパスワードの説明です。別のデバイスを使う点はウと同じですが、作られる値はログイン認証用で、取引内容とは関係がありません。そのため、ログインした後に送金先や金額を書き換えられると対抗できません。
補足
エは「PCとは別のデバイス」を使う点がウと同じなので、引っかかりやすい選択肢です。見分けるポイントは「別のデバイスを使うか」ではなく、「その値が取引情報から作られているか」です。似た問題では、選択肢に「ログイン時」「利用者認証」とあれば認証の強化、「取引情報を入力」とあれば取引の正当性の確認、と読み分けると判断しやすくなります。
POINT
- MITB攻撃は、PCに潜んだマルウェアがブラウザの通信内容を盗み見たり書き換えたりして、正規のログイン後に送金先や金額を改ざんする攻撃です。
- トランザクション署名は、振込先口座番号や金額などの取引情報から、PCとは別のデバイスで署名値を作る仕組みです。
- サーバは取引情報と署名値が合っているかを検証し、ブラウザ内で書き換えられた取引を見つけて拒否します。
- ログイン用ワンタイムパスワードやクライアント証明書は認証を強くする対策で、取引内容の改ざんには対抗できません。
