マナビング情報セキュリティマネジメント

不正ログインを早く見つける監視値は何を単位に数えるか

情報セキュリティマネジメント試験 令和元年度秋期 午後 問11 / セキュリティ › 情報セキュリティ対策

過去問にチャレンジ

令和元年度秋期 午後 問11

問問1の共通の文

ECサイトの情報セキュリティの改善に関する次の記述を読んで,設問1~5に答えよ。 J社は,従業員数90名の生活雑貨販売会社であり,店舗とECサイト(以下,J社のECサイトをJサイトという)で生活雑貨を販売している。Jサイトでの販売は5年前に開始され,現在はJ社の売上の7割を占めている。Jサイトに登録されたアカウント数は現在100万を超えている。Jサイトの顧客は幅広い年齢層にわたることから,ECサイトに不慣れな顧客でも容易に利用できるように,顧客からの問合せへの対応に力を入れており,問合せをJサイトの問合せフォーム及び電話で受け付けている。Jサイトに投稿された問合せは,カスタマサポート部に電子メール(以下,電子メールをメールという)で送信される。問合せには,通常,1日以内に対応している。 J社には,総務部,商品企画部,店舗営業部,EC営業部,情報システム部,カスタマサポート部の六つの部があり,EC営業部はJサイトの利用者の管理及び商品登録(以下,サイト運営という)並びにJサイトの情報セキュリティ対策を担当している。 J社では,3年前に最高情報セキュリティ責任者(CISO)を委員長とする情報セキュリティ委員会を設置し,情報セキュリティポリシー及び情報セキュリティ関連規程を整備した。J社のCISOは副社長である。情報セキュリティ委員会の事務局は,情報システム部が担当している。また,各部の部長は,情報セキュリティ委員会の委員,及び自部における情報セキュリティ責任者を務め,自部の情報セキュリティを確保し,維持,改善する役割を担っている。各情報セキュリティ責任者は,自部の情報セキュリティに関わる実務を担当する情報セキュリティリーダーを選任している。EC営業部のCさんは,同部の情報セキュリティリーダーに任命されている。 〔Jサイトの情報セキュリティ対策〕 Jサイトはインターネットからの通信を監視・制御するためにファイアウォール(以下,FWという),IPS及びWAFを導入している。Jサイトには,次の2種類のアカウントがある。 管理者がハードウェア,OS,ミドルウェア及びアプリケーションソフトウェアの運用管理,並びにサイト運営を行う際に用いる管理用アカウント顧客がJサイトで商品を購入する際に用いる顧客用アカウント 管理用アカウントでのログインには2要素認証を実装しており,パスワード及び携帯用トークンを使った時刻同期式ワンタイムパスワードを採用している。一方,顧客用アカウントとその認証の仕様は顧客の利便性を考慮し,次のようになっている。 利用者IDとパスワードの組み(以下,利用者IDとパスワードの組みを認証情報という)を採用パスワードは8文字以上で英数字混在が必要顧客が登録している情報を確認又は変更する際には認証情報の再入力が必要新規にアカウントを登録する際に,既に使われている利用者IDを指定すると,使用されている旨を画面に表示顧客用アカウントをもっていない者でも問合せを投稿できるようにするために,問合せを投稿する際には利用者認証が不要 〔Jサイトの顧客情報〕 J社の情報セキュリティリスクアセスメントの結果では,Jサイトの顧客の個人情報が,情報セキュリティ上,J社で最も重要な情報となっている。この個人情報には,顧客の氏名,配送先住所,連絡先電話番号,認証情報,メールアドレスが含まれており,それらは,Jサイト内のデータベースに保存されている。 なお,クレジットカード番号及びクレジットカード会員名は,外部の決済サービスを用いて非保持化を実現しており,Jサイトでは取り扱っていない。 〔情報セキュリティインシデントの発生〕 2018年11月7日,カスタマサポート部からCさんに連絡があった。偽ブランド品の販売サイトと思われるサイトに誘導するメッセージ(以下,誘導メッセージという)が書かれた問合せが数万件投稿されたので,通常の問合せへの対応が遅延しているとのことだった。Cさんが情報システム部にJサイトの調査を依頼したところ,誘導メッセージ以外にも,不正アクセスと思われるログイン試行があり,既に調査を開始しているとのことだった。この一連の情報セキュリティ事象を受けて臨時の情報セキュリティ委員会が開催され,情報セキュリティインシデント(以下,インシデントという)が宣言された。不正ログインが成功した顧客用アカウントについて更に詳細に調査したところ,購入していないものが届いたとか,購入していないのに請求が来たといった被害はなかった。顧客への影響は顧客用アカウントの認証情報を攻撃者に知られてしまったことだけであることが確認できたので,顧客への連絡とパスワードのリセットを実施した。不正ログインへの対応が完了した後に開催された情報セキュリティ委員会で,今回のインシデントについて,情報システム部のU部長及びカスタマサポート部のM部長から調査結果が表1のとおり報告された。

表1 調査結果

情報セキュリティ委員会は,EC営業部のE部長に対し,表1の攻撃について,対策を検討するよう指示した。E部長はCさんと協力し,対策を検討した。 〔攻撃1への対応〕 次は,攻撃1についてのE部長とCさんの会話である。 E部長: 攻撃1には,Jサイトから漏えいした顧客用アカウントの認証情報が利用されているとは考えられませんか。 Cさん: 考えられません。もし,漏えいした顧客用アカウントの認証情報が利用されているとしたら,ログインが全て成功しているはずです。しかし,ログインの9割は失敗しています。 E部長: 攻撃1では,どのような方法が使われたと考えられますか。 Cさん: 攻撃1では,最近よく聞く,[a]という方法が使われたと考えています。その方法を使った攻撃は,一般的に[b]場合に成功しやすいといわれています。 E部長: 攻撃1を防ぐにはどのような対策が考えられますか。 Cさん: 攻撃1の対策には複数ありますが,利用者本人かどうかを確認するために,認証情報による利用者認証に加え,[c1]を導入する方法が一般的だと考えます。この方法は,攻撃1の被害を未然に防ぐことができるというメリットがあり,かつ,他の多数のECサイトでも利用されています。 E部長: その対策には,[c2]という特有の課題があるのではないでしょうか。 Cさん: 可能性はありますが,多くの実績があるので問題はないでしょう。 Cさんは,攻撃1が成功したのは,顧客側にも問題があるので,その問題も解決する必要があると考え,顧客に①自衛のための対策を促すことを考えた。 〔攻撃2への対応〕 次は,攻撃2についてのE部長とCさんの会話である。 E部長: 攻撃2では何が行われたのでしょうか。 Cさん: アカウント新規登録画面へのアクセスのログを確認した範囲では,Jサイトに対して[d]が行われたと考えています。同様の事例が最近,他サイトでもあったという情報がありました。 E部長: 攻撃2を防ぐにはどのような対策が考えられますか。 Cさんは対策を説明した。 〔攻撃3への対応〕 Cさんは,今回,攻撃3は防ぐことができたものの,[e]場合には成功しやすいと考え,連続ログイン失敗回数の上限を超えたアカウントをロックする(以下,アカウントロックという)という対策をE部長に提案した。E部長は,対策としてはよいが,顧客に影響があるのでM部長に意見を求めるようにと指示した。次はCさんとM部長の会話である。 Cさん: アカウントロックは広く使われている技術です。 M部長: Jサイトの顧客は幅広い年齢層にわたるので,[f]状況が多数発生し,顧客がカスタマサポート部に電話をして対応を依頼するでしょう。問合せが大幅に増えるのは困ります。 Cさん: ②問合せがなるべく増えないよう,適切に対応します。 〔攻撃4への対応〕 Cさんは,攻撃4は,問合せフォームに自動で大量の投稿を試みる攻撃であり,大量の投稿が成功してしまった原因は[g]ことであると考え,対策について,U部長及びM部長に相談した。次はU部長,M部長及びCさんの会話である。 U部長: 問合せを投稿する際に,利用者認証をしてはどうでしょうか。 M部長: 問合せフォームは既存の顧客以外からも広く意見を集める重要な手段なので,誰でも投稿できるようにする必要があり,利用者認証をするのはよい方法とは言えません。 U部長: それでは,利用者本人かどうかを確認する代わりに,[h1]のはどうでしょうか。 Cさん: [h1]のは,利用者によっては[h2]という問題が起こる可能性があるので実装には十分注意する必要がありますね。 攻撃1から攻撃4への対応について検討した対策(以下,検討済対策という)をE部長は情報セキュリティ委員会に諮り,実施について承認を得た。ただし,検討済対策を実施したとしても,攻撃1から攻撃4を防ぐことができないこともあり得るので,追加の対策として,今回と同様のインシデントが発生したらすばやく対応できるようにするための対策を検討するよう指示があった。 〔追加の対策の検討〕 Cさんは,追加の対策として,表1の攻撃を検知するために監視することにし,監視すべき値を表2にまとめた。これらの値が単位時間当たり一定数以上となった場合,EC営業部の情報セキュリティ責任者と情報セキュリティリーダーにメールで通知する。

表2 監視すべき値と空欄i・j・k

J社は,検討済対策及び追加の対策を全て完了させた。その後,Jサイトは表1と同様の攻撃を受けたが,検討済対策が有効に機能していたので,攻撃が成功することは少なかった。また,攻撃が成功した場合でも,追加の対策が有効に機能したので,被害を最小限に抑えることができた。Jサイトの情報セキュリティは大きく向上した。

設問5表2中の[i]~[k]に入れる字句はどれか。解答群のうち,最も適切なものをそれぞれ選べ。この問題では空欄[i]について回答してください。

  1. ア

    WAFが検知した攻撃のうちJサイトの脆弱性を悪用した攻撃の数

  2. イ

    カスタマサポート部に入った電話での問合せ数

  3. ウ

    同一IPアドレスからの問合せフォームへのアクセス数

  4. エ

    同一の顧客用アカウントについて一定数以上のIPアドレスから試行したログイン数

  5. オ

    同一の顧客用アカウントについて失敗したログイン数

  6. カ

    複数の顧客用アカウントについて同一のIPアドレスから試行したログイン数

会話形式の解説

講師講師
今回は、表2で攻撃1を検知するための「監視すべき値」を選びます。見るべきなのは表1の攻撃1の記録です。接続元のIPアドレスがいくつあるか、狙われたアカウントがいくつあるか、1アカウントあたり何回試行されたか、の3点に注目してください。
受験者受験者
不正ログインなので、同じアカウントで失敗したログイン数を数えればよいと考えました。ログインの9割は失敗していましたよね。
講師講師
失敗が多かったのは確かです。ただ、表1をよく読むと、海外の一つのIPアドレスから、実在する980件の顧客用アカウントにそれぞれ1件ずつ試行されています。アカウント単位で失敗数を数えると、どうなりますか。
受験者受験者
1アカウントにつき多くても1回の失敗にしかなりません。それでは、一定数以上でメールを送るしきい値にはまず届きませんね。
講師講師
そのとおりです。アカウント単位の失敗数が向いているのは、国内の複数のIPアドレスからそれぞれ一つのアカウントに平均1,000件程度試行した攻撃3のほうです。攻撃1と攻撃3は、接続元と対象の数の関係が逆になっています。
受験者受験者
では、同じアカウントに一定数以上のIPアドレスから試行したログイン数はどうでしょうか。こちらも不正ログインの監視らしく見えます。
講師講師
それは、多数の接続元から一つのアカウントを狙う形を捉える値です。攻撃1は接続元が一つで、各アカウントへの試行も1回なので、この条件には当てはまらず見逃してしまいます。
受験者受験者
そうすると、接続元のIPアドレスごとに数えるのがよいのですね。複数のアカウントに同じIPアドレスから試行したログイン数なら、980件という数がそのまま表れます。
講師講師
はい、それが正解です。各アカウントへの試行が1回だけでも、一つのIPアドレスに集計すれば大きな値になるので、攻撃1を早く検知できます。
受験者受験者
WAF(Webアプリケーションへの攻撃を検査する仕組み)が検知した、脆弱性を悪用した攻撃の数はどうでしょうか。
講師講師
攻撃1は脆弱性を突くものではなく、正しい形式のログイン要求を送っているだけです。そのため、この値にはほとんど表れません。電話での問合せ数も、顧客が被害に気付いてから増える事後の値なので、すばやい検知には向きません。
受験者受験者
同一IPアドレスからの問合せフォームへのアクセス数は、問合せフォームに大量投稿した攻撃4向けの値ということですね。ログイン試行は数えていません。
講師講師
よく整理できています。この設問の選択肢は、どれも監視値としてもっともらしく見えます。表1の「IPアドレスの数」「アカウントの数」「1件あたりの試行回数」と照らし合わせて、どの攻撃に対応する値かを見分けるのがポイントです。一つの接続元から多数のアカウントを狙うならIPアドレス単位、一つのアカウントに集中するならアカウント単位で数える、と覚えておきましょう。

まとめ

表1の攻撃1は、海外の一つのIPアドレスから、実在する980件の顧客用アカウントに1件ずつログインを試みた攻撃です。1アカウントあたりの試行は1回なので、アカウント単位の失敗数や、アカウントごとの接続元IPアドレス数では検知できません。接続元のIPアドレスごとに、複数のアカウントへのログイン試行数を集計すると、攻撃の集中がそのまま大きな値として表れます。アカウント単位の失敗数は攻撃3向け、問合せフォームへのアクセス数は攻撃4向けの値です。WAFの検知数や電話での問合せ数は、攻撃1をすばやく見つける監視値にはなりません。

解答・解説

正解はカです

この問題のテーマ

表1の攻撃1(他所で入手した認証情報のリストを使う不正ログイン)を早く見つけるには、何を監視すればよいかを問う問題です。攻撃の手口を表すログの特徴を、監視値の集計単位に置き換えられるかがポイントです。

解き方の考え方

まず表1で攻撃1の特徴を確認します。海外の一つのIPアドレスから、実在する980件の顧客用アカウントに1件ずつログインが試みられ、そのうち90件が成功していました。「接続元は一つ」「狙うアカウントは多数」「1アカウントあたりの試行は1回」という3点を押さえ、この形をはっきり数字に出せる集計方法を選びます。同じ不正ログインでも、攻撃3(複数のIPアドレスから1アカウントへ大量に試行)とは形が逆になっている点に注意してください。

選択肢ごとの解説

  1. ×ア  WAFが検知した攻撃のうちJサイトの脆弱性を悪用した攻撃の数
    WAFが検知した脆弱性悪用の攻撃数を数える案です。攻撃1は脆弱性を突くものではなく、正しい形式のログイン要求を送っているだけなので、この値には表れにくくなります。
  2. ×イ  カスタマサポート部に入った電話での問合せ数
    電話での問合せ数を数える案です。顧客が被害に気付いてから増える事後の値なので、攻撃の要求そのものを捉えられず、すばやい検知にはつながりません。
  3. ×ウ  同一IPアドレスからの問合せフォームへのアクセス数
    同一IPアドレスから問合せフォームへのアクセス数を数える案です。これは問合せフォームへ大量投稿した攻撃4向けの値で、ログイン試行は集計の対象に入りません。
  4. ×エ  同一の顧客用アカウントについて一定数以上のIPアドレスから試行したログイン数
    同一アカウントに一定数以上のIPアドレスから試行したログイン数を数える案です。攻撃1は接続元が一つで、各アカウントへの試行も1回なので、この条件には当てはまらず見逃してしまいます。
  5. ×オ  同一の顧客用アカウントについて失敗したログイン数
    同一アカウントで失敗したログイン数を数える案です。1アカウントに試行が集中する攻撃3には向いていますが、攻撃1は各アカウントに1回ずつしか試行しないため、アカウント単位では失敗数がほとんど増えません。
  6. ○カ  複数の顧客用アカウントについて同一のIPアドレスから試行したログイン数
    複数の顧客用アカウントに同一IPアドレスから試行したログイン数を数える案です。接続元ごとに集計するので、一つのIPアドレスから980件のアカウントへ試行が集中したことがそのまま大きな値として表れます。各アカウントへの試行が1回だけでも検知できるため、攻撃1の監視値として最も適切です。

補足

設問5の解答群では、オのアカウント単位の失敗数が攻撃3向け、ウの問合せフォームへのアクセス数が攻撃4向けの値になっています。どれも「不正アクセスを監視する値」としてはもっともらしく見えるので、表1の数字(IPアドレスの数、アカウントの数、1件あたりの試行回数)と照らし合わせて、どの攻撃に対応する値かを区別することが大切です。

POINT

  • 監視値は、攻撃の「接続元」と「対象アカウント」の数の関係に合わせて、集計の単位を決めます。
  • 1つの接続元から多数のアカウントへ1回ずつ試行する攻撃は、IPアドレス単位で試行数を集計すると見つけやすくなります。
  • 1つのアカウントに大量に試行する攻撃は、アカウント単位の失敗数で見つけるのが向いています。
  • WAFは脆弱性を突く要求の検知が得意で、正しい形式のログイン要求を使う攻撃は捉えにくいことを押さえておきましょう。

※出典:令和元年度秋期 情報セキュリティマネジメント試験 午後 問1 設問5(一部改変)