退職者による内部不正対策をガイドラインで見分ける
情報セキュリティマネジメント試験 令和元年度秋期 午前 問4 / セキュリティ › 情報セキュリティ対策
過去問にチャレンジ
退職する従業員による不正を防ぐための対策のうち、IPA “組織における内部不正防止ガイドライン(第4版)”に照らして、適切なものはどれか。
- ア
在職中に知り得た重要情報を退職後に公開しないように,退職予定者に提出させる秘密保持誓約書には,秘密保持の対象を明示せず,重要情報を客観的に特定できないようにしておく。
- イ
退職後,同業他社に転職して重要情報を漏らすということがないように,職業選択の自由を行使しないことを明記した上で,具体的な範囲を設定しない包括的な競業避止義務契約を入社時に締結する。
- ウ
退職者による重要情報の持出しなどの不正行為を調査できるように,従業員に付与した利用者IDや権限は退職後も有効にしておく。
- エ
退職間際に重要情報の不正な持出しが行われやすいので,退職予定者に対する重要情報へのアクセスや媒体の持出しの監視を強化する。
会話形式の解説
講師今回は、退職する従業員の内部不正への対策を扱います。IPAの「組織における内部不正防止ガイドライン」に照らして、どの対策が適切かを選ぶ問題です。秘密保持誓約、競業避止義務、IDの扱い、監視の4つの論点が並んでいるので、一つずつ確かめていきましょう。
受験者どの選択肢にも「不正を防ぐため」という理由が付いていて、全部正しそうに見えました。中でも、調査のためにIDを残しておくというものは、理にかなっている気がしています。
講師そこはよく迷うところです。退職者の利用者IDや権限は、不要になった時点で速やかに削除するのが原則です。IDが残っていると、退職者が不正にアクセスする入口になりかねません。
受験者では、退職後に不正がなかったかを調べたいときは、どうするのですか。
講師調査に必要なのは、ログなどの記録を保全しておくことです。アクセス権限を残しておく必要はありません。調査の材料は記録で、権限ではないと分けて考えてください。
受験者分かりました。秘密保持誓約書で対象を明示しないという選択肢は、範囲を広く取っておけば何でも守れる、というねらいでしょうか。
講師そう読めてしまいますが、誤りです。ガイドラインでは、秘密保持の対象となる重要情報を客観的に特定できるように書くことが求められます。対象があいまいだと、何が秘密なのかの判断が人によって分かれ、かえって漏えいのリスクが高まります。
受験者競業避止義務の選択肢も同じように考えられそうです。範囲を決めない包括的な契約は、強すぎるということですか。
講師そのとおりです。競業避止義務は、退職後に同業他社で働くことなどを制限する約束です。ただ、職業選択の自由は日本国憲法第22条で保障された権利です。そのため、期間・場所・職種の範囲や代償の有無といった合理的な限定が必要です。範囲が広すぎる契約は、無効と判断されるおそれがあります。
受験者そうすると残るのは、退職予定者のアクセスや媒体の持出しの監視を強めるという選択肢ですね。
講師はい、これが正解です。退職間際は重要情報の不正な持出しが起きやすい時期なので、この時期に監視を強めることには合理性があります。一般に、監視していると知らせておけば不正を思いとどまらせる効果も期待でき、不正が起きた場合も早く気づけます。
受験者整理すると、誓約書は対象を明確にする、競業避止は合理的な範囲に限定する、IDは速やかに削除する、退職間際は監視を強める、ということですね。
講師よくまとまっています。誤りの選択肢は、対象をあいまいにする、範囲を限定しない、権限を残すといった、明確さや合理性を欠く内容でした。もっともらしい理由が付いていても、中身がこの方向なら疑ってください。なお、ガイドラインは出題後に改訂されて現在は第5版が公開されていますが、退職者対策の基本的な考え方は変わっていません。
まとめ
退職間際は重要情報の不正な持出しが起きやすい時期です。そのため、退職予定者によるアクセスや媒体の持出しの監視を強めることが、内部不正防止ガイドラインに沿った対策になります。秘密保持誓約書では、対象となる重要情報を客観的に特定できるように明示します。競業避止義務は職業選択の自由との兼ね合いがあるため、期間・場所・職種などを合理的な範囲に限定します。退職者のIDや権限は速やかに削除し、調査にはログなどの記録の保全で対応します。
解答・解説
正解はエです
この問題のテーマ
退職予定者や退職者による内部不正について、IPAの「組織における内部不正防止ガイドライン(第4版)」に合う対策を選ぶ問題です。秘密保持誓約、競業避止義務、ID管理、監視という退職時の代表的な論点をまとめて問うています。
解き方の考え方
退職間際は重要情報の不正な持出しが起きやすい時期だという前提を、まず押さえます。そのうえで、各選択肢の対策が「漏えいリスクを下げるか」「法的に有効で合理的か」の2点を確かめます。ほかの3つの選択肢は、対象をぼかす、範囲を限定しない、IDを残すといった、かえってリスクや無効の可能性を生む内容です。これらを除けば、監視強化が残ります。
選択肢ごとの解説
- ×ア 在職中に知り得た重要情報を退職後に公開しないように,退職予定者に提出させる秘密保持誓約書には,秘密保持の対象を明示せず,重要情報を客観的に特定できないようにしておく。秘密保持の対象を明示しない誓約書の説明は誤りです。ガイドラインでは、対象となる重要情報を客観的に特定できるように書くことが求められます。対象があいまいだと、何が秘密なのかの判断が人によって分かれ、かえって漏えいのリスクが高まります。
- ×イ 退職後,同業他社に転職して重要情報を漏らすということがないように,職業選択の自由を行使しないことを明記した上で,具体的な範囲を設定しない包括的な競業避止義務契約を入社時に締結する。職業選択の自由を行使しないと明記し、範囲を限定しない包括的な競業避止義務契約を結ぶという説明は誤りです。職業選択の自由は日本国憲法第22条が保障する権利です。そのため競業避止義務には、期間・場所・職種の範囲や代償の有無といった合理的な限定が必要です。範囲が広すぎる契約は、無効と判断されるおそれがあります。
- ×ウ 退職者による重要情報の持出しなどの不正行為を調査できるように,従業員に付与した利用者IDや権限は退職後も有効にしておく。調査のために利用者IDや権限を退職後も有効にしておくという説明は誤りです。退職者のIDや権限は、不要になった時点で速やかに削除するのが原則です。残したIDは、退職者が不正にアクセスする入口になりかねません。調査に必要なのはログなどの記録を保全することであり、権限を残しておく必要はありません。
- ○エ 退職間際に重要情報の不正な持出しが行われやすいので,退職予定者に対する重要情報へのアクセスや媒体の持出しの監視を強化する。退職予定者による重要情報へのアクセスや媒体の持出しの監視を強化するという説明は、ガイドラインに沿った対策です。退職間際は不正な持出しが起きやすいため、この時期に監視を強めることには合理性があります。監視していると知らせておけば不正を思いとどまらせる効果があり、不正が起きた場合も早く気づけます。
補足
誤りの選択肢は、どれも「不正を防ぐため」というもっともらしい理由が付いています。それでも中身は、対象をあいまいにする、範囲を限定しない、権限を残すといった、管理を緩める方向です。「明確にする」「合理的に限定する」「速やかに削除する」が正しい方向だと覚えておくと、似た問題でも見分けやすくなります。
※出題時は第4版が参照されていましたが、IPAの「組織における内部不正防止ガイドライン」はその後改訂され、現在は第5版が公開されています。退職者への対策の基本的な考え方(監視の強化、秘密保持の対象の明確化、IDの速やかな削除など)は、引き続き有効です。
POINT
- 退職間際は重要情報の不正な持出しが起きやすい時期なので、アクセスや媒体の持出しの監視を強めます。
- 秘密保持誓約書では、対象となる重要情報を客観的に特定できるように明示します。
- 競業避止義務は職業選択の自由との兼ね合いがあるため、期間・場所・職種などを合理的な範囲に限定します。
- 退職者の利用者IDや権限は、不要になった時点で速やかに削除します。
