マナビング情報セキュリティマネジメント

問合せフォームへの大量投稿を検知する監視指標の選び方

情報セキュリティマネジメント試験 令和元年度秋期 午後 問13 / セキュリティ › 情報セキュリティ対策

過去問にチャレンジ

令和元年度秋期 午後 問13

問問1の共通の文

ECサイトの情報セキュリティの改善に関する次の記述を読んで,設問1~5に答えよ。 J社は,従業員数90名の生活雑貨販売会社であり,店舗とECサイト(以下,J社のECサイトをJサイトという)で生活雑貨を販売している。Jサイトでの販売は5年前に開始され,現在はJ社の売上の7割を占めている。Jサイトに登録されたアカウント数は現在100万を超えている。Jサイトの顧客は幅広い年齢層にわたることから,ECサイトに不慣れな顧客でも容易に利用できるように,顧客からの問合せへの対応に力を入れており,問合せをJサイトの問合せフォーム及び電話で受け付けている。Jサイトに投稿された問合せは,カスタマサポート部に電子メール(以下,電子メールをメールという)で送信される。問合せには,通常,1日以内に対応している。 J社には,総務部,商品企画部,店舗営業部,EC営業部,情報システム部,カスタマサポート部の六つの部があり,EC営業部はJサイトの利用者の管理及び商品登録(以下,サイト運営という)並びにJサイトの情報セキュリティ対策を担当している。 J社では,3年前に最高情報セキュリティ責任者(CISO)を委員長とする情報セキュリティ委員会を設置し,情報セキュリティポリシー及び情報セキュリティ関連規程を整備した。J社のCISOは副社長である。情報セキュリティ委員会の事務局は,情報システム部が担当している。また,各部の部長は,情報セキュリティ委員会の委員,及び自部における情報セキュリティ責任者を務め,自部の情報セキュリティを確保し,維持,改善する役割を担っている。各情報セキュリティ責任者は,自部の情報セキュリティに関わる実務を担当する情報セキュリティリーダーを選任している。EC営業部のCさんは,同部の情報セキュリティリーダーに任命されている。 〔Jサイトの情報セキュリティ対策〕 Jサイトはインターネットからの通信を監視・制御するためにファイアウォール(以下,FWという),IPS及びWAFを導入している。Jサイトには,次の2種類のアカウントがある。 管理者がハードウェア,OS,ミドルウェア及びアプリケーションソフトウェアの運用管理,並びにサイト運営を行う際に用いる管理用アカウント顧客がJサイトで商品を購入する際に用いる顧客用アカウント 管理用アカウントでのログインには2要素認証を実装しており,パスワード及び携帯用トークンを使った時刻同期式ワンタイムパスワードを採用している。一方,顧客用アカウントとその認証の仕様は顧客の利便性を考慮し,次のようになっている。 利用者IDとパスワードの組み(以下,利用者IDとパスワードの組みを認証情報という)を採用パスワードは8文字以上で英数字混在が必要顧客が登録している情報を確認又は変更する際には認証情報の再入力が必要新規にアカウントを登録する際に,既に使われている利用者IDを指定すると,使用されている旨を画面に表示顧客用アカウントをもっていない者でも問合せを投稿できるようにするために,問合せを投稿する際には利用者認証が不要 〔Jサイトの顧客情報〕 J社の情報セキュリティリスクアセスメントの結果では,Jサイトの顧客の個人情報が,情報セキュリティ上,J社で最も重要な情報となっている。この個人情報には,顧客の氏名,配送先住所,連絡先電話番号,認証情報,メールアドレスが含まれており,それらは,Jサイト内のデータベースに保存されている。 なお,クレジットカード番号及びクレジットカード会員名は,外部の決済サービスを用いて非保持化を実現しており,Jサイトでは取り扱っていない。 〔情報セキュリティインシデントの発生〕 2018年11月7日,カスタマサポート部からCさんに連絡があった。偽ブランド品の販売サイトと思われるサイトに誘導するメッセージ(以下,誘導メッセージという)が書かれた問合せが数万件投稿されたので,通常の問合せへの対応が遅延しているとのことだった。Cさんが情報システム部にJサイトの調査を依頼したところ,誘導メッセージ以外にも,不正アクセスと思われるログイン試行があり,既に調査を開始しているとのことだった。この一連の情報セキュリティ事象を受けて臨時の情報セキュリティ委員会が開催され,情報セキュリティインシデント(以下,インシデントという)が宣言された。不正ログインが成功した顧客用アカウントについて更に詳細に調査したところ,購入していないものが届いたとか,購入していないのに請求が来たといった被害はなかった。顧客への影響は顧客用アカウントの認証情報を攻撃者に知られてしまったことだけであることが確認できたので,顧客への連絡とパスワードのリセットを実施した。不正ログインへの対応が完了した後に開催された情報セキュリティ委員会で,今回のインシデントについて,情報システム部のU部長及びカスタマサポート部のM部長から調査結果が表1のとおり報告された。

表1 調査結果

情報セキュリティ委員会は,EC営業部のE部長に対し,表1の攻撃について,対策を検討するよう指示した。E部長はCさんと協力し,対策を検討した。 〔攻撃1への対応〕 次は,攻撃1についてのE部長とCさんの会話である。 E部長: 攻撃1には,Jサイトから漏えいした顧客用アカウントの認証情報が利用されているとは考えられませんか。 Cさん: 考えられません。もし,漏えいした顧客用アカウントの認証情報が利用されているとしたら,ログインが全て成功しているはずです。しかし,ログインの9割は失敗しています。 E部長: 攻撃1では,どのような方法が使われたと考えられますか。 Cさん: 攻撃1では,最近よく聞く,[a]という方法が使われたと考えています。その方法を使った攻撃は,一般的に[b]場合に成功しやすいといわれています。 E部長: 攻撃1を防ぐにはどのような対策が考えられますか。 Cさん: 攻撃1の対策には複数ありますが,利用者本人かどうかを確認するために,認証情報による利用者認証に加え,[c1]を導入する方法が一般的だと考えます。この方法は,攻撃1の被害を未然に防ぐことができるというメリットがあり,かつ,他の多数のECサイトでも利用されています。 E部長: その対策には,[c2]という特有の課題があるのではないでしょうか。 Cさん: 可能性はありますが,多くの実績があるので問題はないでしょう。 Cさんは,攻撃1が成功したのは,顧客側にも問題があるので,その問題も解決する必要があると考え,顧客に①自衛のための対策を促すことを考えた。 〔攻撃2への対応〕 次は,攻撃2についてのE部長とCさんの会話である。 E部長: 攻撃2では何が行われたのでしょうか。 Cさん: アカウント新規登録画面へのアクセスのログを確認した範囲では,Jサイトに対して[d]が行われたと考えています。同様の事例が最近,他サイトでもあったという情報がありました。 E部長: 攻撃2を防ぐにはどのような対策が考えられますか。 Cさんは対策を説明した。 〔攻撃3への対応〕 Cさんは,今回,攻撃3は防ぐことができたものの,[e]場合には成功しやすいと考え,連続ログイン失敗回数の上限を超えたアカウントをロックする(以下,アカウントロックという)という対策をE部長に提案した。E部長は,対策としてはよいが,顧客に影響があるのでM部長に意見を求めるようにと指示した。次はCさんとM部長の会話である。 Cさん: アカウントロックは広く使われている技術です。 M部長: Jサイトの顧客は幅広い年齢層にわたるので,[f]状況が多数発生し,顧客がカスタマサポート部に電話をして対応を依頼するでしょう。問合せが大幅に増えるのは困ります。 Cさん: ②問合せがなるべく増えないよう,適切に対応します。 〔攻撃4への対応〕 Cさんは,攻撃4は,問合せフォームに自動で大量の投稿を試みる攻撃であり,大量の投稿が成功してしまった原因は[g]ことであると考え,対策について,U部長及びM部長に相談した。次はU部長,M部長及びCさんの会話である。 U部長: 問合せを投稿する際に,利用者認証をしてはどうでしょうか。 M部長: 問合せフォームは既存の顧客以外からも広く意見を集める重要な手段なので,誰でも投稿できるようにする必要があり,利用者認証をするのはよい方法とは言えません。 U部長: それでは,利用者本人かどうかを確認する代わりに,[h1]のはどうでしょうか。 Cさん: [h1]のは,利用者によっては[h2]という問題が起こる可能性があるので実装には十分注意する必要がありますね。 攻撃1から攻撃4への対応について検討した対策(以下,検討済対策という)をE部長は情報セキュリティ委員会に諮り,実施について承認を得た。ただし,検討済対策を実施したとしても,攻撃1から攻撃4を防ぐことができないこともあり得るので,追加の対策として,今回と同様のインシデントが発生したらすばやく対応できるようにするための対策を検討するよう指示があった。 〔追加の対策の検討〕 Cさんは,追加の対策として,表1の攻撃を検知するために監視することにし,監視すべき値を表2にまとめた。これらの値が単位時間当たり一定数以上となった場合,EC営業部の情報セキュリティ責任者と情報セキュリティリーダーにメールで通知する。

表2 監視すべき値と空欄i・j・k

J社は,検討済対策及び追加の対策を全て完了させた。その後,Jサイトは表1と同様の攻撃を受けたが,検討済対策が有効に機能していたので,攻撃が成功することは少なかった。また,攻撃が成功した場合でも,追加の対策が有効に機能したので,被害を最小限に抑えることができた。Jサイトの情報セキュリティは大きく向上した。

設問5表2中の[i]~[k]に入れる字句はどれか。解答群のうち,最も適切なものをそれぞれ選べ。この問題では空欄[k]について回答してください。

  1. ア

    WAFが検知した攻撃のうちJサイトの脆弱性を悪用した攻撃の数

  2. イ

    カスタマサポート部に入った電話での問合せ数

  3. ウ

    同一IPアドレスからの問合せフォームへのアクセス数

  4. エ

    同一の顧客用アカウントについて一定数以上のIPアドレスから試行したログイン数

  5. オ

    同一の顧客用アカウントについて失敗したログイン数

  6. カ

    複数の顧客用アカウントについて同一のIPアドレスから試行したログイン数

会話形式の解説

講師講師
今回は表2の攻撃4の欄です。この空欄には、攻撃4を早く見つけるための監視値が入ります。まず表1で攻撃4の特徴を確かめて、次に監視する値の単位がその特徴と合っているかを見ていきます。
受験者受験者
攻撃4は、誘導メッセージ付きの問合せが50,000件投稿された攻撃でした。件数がとても多いので、ログイン関係の数字もどこかで増えているのではないかと思ったのですが、どうでしょうか。
講師講師
そこが大事なところです。本文の顧客用アカウントの仕様をもう一度見てください。問合せの投稿には利用者認証が要らない、と書かれています。
受験者受験者
アカウントを持っていない人でも投稿できるようにするため、という理由でした。そうすると、攻撃4の投稿ではログインそのものが起きていないことになりますね。
講師講師
そのとおりです。なので、ログイン数を数える選択肢は三つとも外れます。同一の顧客用アカウントで失敗したログイン数は、1つのアカウントへのログイン失敗が続いた攻撃3の検知に向く値です。同一のIPアドレスから複数のアカウントへのログイン試行数は、1つのIPアドレスから980件のアカウントへのログインが試された攻撃1に向きます。
受験者受験者
同一アカウントに一定数以上のIPアドレスからログインが試された数、という選択肢もありました。これは、いろいろな場所から分散して狙う攻撃の指標に見えますが、攻撃4に当てはまらない理由も同じでよいですか。
講師講師
はい。分散型かどうかに関係なく、ログイン試行を数える指標です。ログインを伴わない問合せ投稿は、どれだけ増えてもこの数字には表れません。
受験者受験者
では、WAFが検知した脆弱性悪用の攻撃数はどうでしょうか。WAFはWebアプリケーションを守る装置なので、問合せフォームへの攻撃も見ていそうに思えます。
講師講師
紛らわしいところです。WAFは、脆弱性(ソフトウェアの弱点)を突く通信を見つけるのが得意です。攻撃4は弱点を突いたわけではなく、通常の形式の投稿を大量に繰り返しただけでした。このような投稿はWAFが攻撃として検知しない場合があるので、監視値としては適切ではありません。
受験者受験者
電話での問合せ数も違いますね。攻撃4はWebの問合せフォームへの投稿なので、電話の件数を見てもフォームへの集中は分かりません。
講師講師
そうです。残るのは、同一IPアドレスからの問合せフォームへのアクセス数です。表1では、攻撃4の投稿は海外のある1つのIPアドレスから来ていました。この値が単位時間当たりで急に増えれば、異常として通知できます。
受験者受験者
3件目以降はフォームを閲覧せずに投稿されていた、とも書かれていました。閲覧していないとアクセス数に数えられないのではないかと少し気になります。
講師講師
問題文には集計の範囲までは書かれていません。ただ、この選択肢はフォームへの要求、つまり閲覧と投稿の両方を数える指標と考えるのが自然です。そう読めば、直接投稿してくる場合も捉えられると考えられます。
受験者受験者
整理すると、攻撃4はログインを伴わず、1つのIPアドレスからフォームへの要求が集中した攻撃です。だから、IPアドレスごとのフォームへのアクセス数を監視するのが合っている、ということですね。
講師講師
はい、それで大丈夫です。監視値は、攻撃の発信元と狙われた機能に合わせて選びます。この設問では、i〜kの三つの空欄を同じ解答群から選びます。各選択肢がどの攻撃の特徴に合うかを表1と照らし合わせれば、消去法でも解けます。ログイン関係の値は攻撃1や攻撃3向けなので、攻撃4の欄に入れないように気をつけてください。

まとめ

この問題は、認証なしで使える問合せフォームに大量の自動投稿があった攻撃4について、検知のために監視すべき値を選ぶものです。攻撃4はログインを伴わないので、アカウントやログイン試行を数える指標では捉えられません。また、正常な形式の投稿の繰り返しなので、脆弱性の悪用を検知するWAFの値も適しません。投稿は1つのIPアドレスから集中していたため、同一IPアドレスからの問合せフォームへのアクセス数を単位時間当たりで監視するのが適切です。i〜kは同じ解答群から選ぶので、各指標がどの攻撃に対応するかを表1と照らし合わせると消去法で解けます。

解答・解説

正解はウです

この問題のテーマ

表1の攻撃4(問合せフォームへの大量自動投稿)を早く見つけるために、表2で監視すべき値を選ぶ問題です。攻撃の特徴と、監視する値の単位(IPアドレス単位か、アカウント単位か)が合っているかが問われています。

解き方の考え方

まず表1で攻撃4の特徴を確かめます。誘導メッセージ付きの問合せが50,000件、海外のある1つのIPアドレスから投稿されました。3件目以降はフォームを閲覧せずに投稿されています。また本文から、問合せの投稿には利用者認証が要らないことが分かります。この攻撃はログインを伴わず、同じIPアドレスからフォームへの要求が集中する点に特徴があります。そのため、この集中を数えられる値を選びます。

選択肢ごとの解説

  1. ×ア  WAFが検知した攻撃のうちJサイトの脆弱性を悪用した攻撃の数
    WAFが検知した脆弱性悪用攻撃の数を監視する案です。攻撃4は脆弱性を突いたものではなく、通常の投稿を大量に繰り返しただけです。このような投稿はWAFで攻撃として検知されない場合があるため、監視値として適切ではありません。
  2. ×イ  カスタマサポート部に入った電話での問合せ数
    カスタマサポート部への電話問合せ数を監視する案です。攻撃4はWebの問合せフォームへの大量投稿なので、電話の件数を見てもフォームへの要求の集中は直接分かりません。
  3. ○ウ  同一IPアドレスからの問合せフォームへのアクセス数
    同一IPアドレスからの問合せフォームへのアクセス数を監視する案です。攻撃4では1つのIPアドレスから50,000件が投稿されたので、この値が単位時間当たりで急に増えたときに異常として検知できます。フォームへのアクセスには投稿処理も含まれるため、閲覧せずに直接投稿してくる場合も数えられます。
  4. ×エ  同一の顧客用アカウントについて一定数以上のIPアドレスから試行したログイン数
    同一の顧客用アカウントへ一定数以上のIPアドレスから試行されたログイン数を監視する案です。問合せの投稿には顧客用アカウントでの認証が不要なので、アカウントを単位にした値では攻撃4の大量投稿を捉えられません。
  5. ×オ  同一の顧客用アカウントについて失敗したログイン数
    同一の顧客用アカウントでログインに失敗した回数を監視する案です。攻撃4の投稿はログインを伴わないため、ログイン失敗の数は増えません。この値は、1つのアカウントへのログイン失敗が続いた攻撃3の検知に向く指標です。
  6. ×カ  複数の顧客用アカウントについて同一のIPアドレスから試行したログイン数
    同一のIPアドレスから複数の顧客用アカウントへ試行されたログイン数を監視する案です。攻撃4は顧客用アカウントへのログインを試す攻撃ではないので、当てはまりません。1つのIPアドレスから多数のアカウントへのログインが試された攻撃1の検知に向く指標です。

補足

設問5は、空欄i〜kに同じ解答群から選ぶ形式です。そのため、各選択肢がどの攻撃の特徴に合うかを表1と照らし合わせると、消去法で解きやすくなります。「同一IP×複数アカウント」「同一アカウント×失敗」のようなログイン関係の選択肢は攻撃1や攻撃3向けの値で、攻撃4の空欄に入れると誤りになります。

POINT

  • 監視する値は、攻撃の「発信元」と「狙われた機能」に合わせて選びます。
  • 攻撃4は認証の要らない問合せフォームへの大量投稿なので、ログインやアカウントに関する値では検知できません。
  • 1つのIPアドレスからの要求が集中する攻撃は、IPアドレスごとのアクセス数を単位時間当たりで監視すると見つけられます。
  • WAFは脆弱性を悪用する通信の検知が得意で、正常な形式の要求を大量に送る攻撃は見逃すことがあります。

※出典:令和元年度秋期 情報セキュリティマネジメント試験 午後 問1 設問5(一部改変)