マナビング情報セキュリティマネジメント

乗っ取られたアカウントへの本人確認を同じチャットで行う危険

情報セキュリティマネジメント試験 令和元年度秋期 午後 問14 / セキュリティ › 情報セキュリティ

過去問にチャレンジ

令和元年度秋期 午後 問14

問問2の共通の文

アカウント乗っ取りによる情報セキュリティインシデントに関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 P社は,従業員数300名の食品メーカーである。東京に本社があり,関東に営業所と工場が点在している。本社には,製造部,流通管理部,営業部,情報システム部などがある。営業所は,営業部の管轄であり,担当地域の取引店への営業,配送管理などを担当している。Q県を担当するR営業所には,所長と副所長のほかに,15名の営業担当者,2名の流通担当者,2名の事務担当者が配置されている。 P社では,最高情報セキュリティ責任者(CISO)を委員長とする情報セキュリティ委員会(以下,P社委員会という)を設置し,情報セキュリティポリシー及び情報セキュリティ関連規程を整備している。P社委員会の事務局は,情報システム部が担当し,情報システム部のL課長が情報セキュリティインシデント(以下,インシデントという)発生時のインシデント対応責任者を務めている。さらに,本社の各部の部長,各営業所の所長,及び各工場の工場長は,P社委員会の委員,及び自部署における情報セキュリティ責任者を務めている。各情報セキュリティ責任者は,自部署の情報セキュリティを確保,維持及び改善する役割を担っており,自部署の情報セキュリティに関わる実務を担当する情報セキュリティリーダーを選任している。R営業所の情報セキュリティ責任者はA所長であり,情報セキュリティリーダーはB副所長である。 P社では,全従業員が基盤情報システムを利用して日々の業務を行っている。基盤情報システムは,サーバ,ネットワーク及び各従業員に貸与される端末から構成され,設定と運用管理は,情報システム部が行っている。貸与される端末にはノートPC(以下,NPCという),デスクトップPC(以下,DPCという),及びスマートフォン(以下,スマホという)がある。図1にサーバの概要を,表1に端末の概要を示す。

図1 基盤情報システムのサーバの概要(抜粋)
表1 基盤情報システムの端末の概要(抜粋)と注1

〔チャットサービス〕 P社では,製造した食品の取引店への配送を,配送業者に委託している。交通事情などによって配送が遅延する場合,配送業者は,各営業所の流通担当者に電子メール(以下,電子メールをメールという)で連絡する。配送業者から連絡を受けた流通担当者は,メールで営業担当者に連絡し,営業担当者が各顧客に連絡している。 R営業所が担当する地域では,交通事情による遅延の頻度が高いので,流通担当者が営業担当者にメールを見たかどうかを電話で確認することも多く,連絡の煩雑さが問題となっている。R営業所の流通担当者であるKさんは,この問題を解決するために,V社が提供しているSaaS形式のチャットサービス(以下,Vサービスという)を配送の連絡に利用すること,及び業務効率化のためにVサービスをR営業所におけるその他の連絡にも利用することをA所長に提案した。A所長はこの提案をP社委員会に諮り,承認を得た。Vサービスのサービス仕様を図2に示す。

図2 Vサービスのサービス仕様(抜粋)1〜3
図2 Vサービスのサービス仕様(抜粋)続き・4

B副所長は,A所長の指示を受け,図3に示すR営業所でのVサービスの利用ルール(以下,Vサービス利用ルールという)を策定した。

図3 Vサービス利用ルール(抜粋)

A所長は,Vサービスの利用開始をB副所長に指示した。B副所長は,VサービスでR営業所用のWSを作成し,R営業所の全従業員をWSに参加させ,自身のほか事務担当者だけにWSの管理者権限を付与した。また,表2に示すGCを作成した上で,R営業所の全従業員に,Vサービス利用ルールを周知した。次に,R営業所の全てのNPC,DPC及びスマホのWebブラウザのブックマークにVサービスのURLを登録してもらった上で,6月1日に利用を開始した。

表2 R営業所で利用するGC

〔インシデント発生〕 7月3日の15時5分,B副所長のもとにKさんが報告に来た。報告内容は次のとおりであった。 営業担当者であるDさんから,表3に示すGCメッセージが送られてきた。不審に思ったので,Dさん本人が送信したGCメッセージであるかどうかを同日15時に①Dさんに電話で確認したところ,本日は,社外研修を受講しており,当該GCメッセージは送信していないとの回答であった。

表3 Dさんのアカウントから送信されたGCメッセージ

B副所長は,Dさんになりすました何者か(以下,なりすまし者という)がDさんのアカウントに不正にログインしたおそれがあると考え,A所長に報告した。 報告を受けたA所長は,インシデントの発生を宣言し,VサービスのGCを利用しないようR営業所の全従業員に通知するとともに,このインシデントについてCISO及びL課長に報告した。B副所長はL課長と協力し,②被害拡大の防止策を実施した。 〔被害状況の把握と影響範囲の調査〕 次は,インシデントの被害状況と影響範囲に関するL課長とB副所長の会話である。 L課長: 表3のGCメッセージ中のURL(以下,URL-Pという)はVサービスのURLではありません。悪意のあるサイトのURLと考えられるので,URL-Pへのアクセスの成功が記録されている可能性のある[a]のログについて調査しましたが,該当する記録はありませんでした。[a]のログだけでは確認できないので,③R営業所の従業員のうち,必要がある者に対してURL-Pにアクセスしたかどうかをヒアリングしましたが,全員がアクセスしていないという回答でした。Dさんのアカウントへの不正ログインによる情報漏えいの有無についてはどうでしたか。 B副所長: 事務担当者からの報告によると,なりすまし者がアクセスした可能性のある[b]のGCメッセージを調査した結果,P社の業務に関する情報はありましたが,会社が秘密と規定した情報(以下,秘密情報という)は含まれていませんでした。しかし,④現時点で確認可能なGCメッセージの調査だけでは十分な調査とはいえません。 L課長: [b]を利用していた利用者にヒアリングが必要ですね。ところで,GCに送信されたファイルはどうでしたか。 B副所長: 10ファイルありましたが,全てVサービス利用ルールを満たしたパスワードで保護されていました。 L課長: 今回の場合,パスワードで保護されていても,⑤なりすまし者が短時間にパスワードを入手又は特定して,ファイルの内容を閲覧できたと思われます。ファイルにはどのような情報が含まれていたのでしょうか。 B副所長: 業務に関する情報は含まれていましたが,秘密情報は含まれていませんでした。 L課長: 分かりました。調査結果をA所長及びCISOに報告しましょう。 〔原因調査〕 次は,原因に関するB副所長とL課長の会話である。 B副所長: Dさんにヒアリングしたところ,Vサービスにアクセスしてアカウントの確認をするように求めるメールがVサービスから来たので,すぐにNPCでメール中のURL(以下,URL-Rという)にアクセスし,メールアドレスとパスワードを入力したとのことでした。調べてみると,メールの時刻は7月3日11時22分でした。 L課長: URL-Rはフィッシングサイトと考えられます。URL-PとURL-Rは,DさんがURL-Rにアクセスした時点では,URLフィルタリングサービスに悪意のあるサイトのURLとして登録されていませんでした。しかし,現在は登録されていますし,フィッシング対策協議会のサイトに緊急情報として掲載されています。他の従業員が同様のメールを受信し,URL-Rにアクセスしていないかも調査します。念のため,Dさんが利用していたNPC(以下,NPC-Dという)は,証拠として保全し,詳細に調査します。詳細調査には,1週間掛かります。 B副所長: 1週間掛かると,⑥Dさんの業務に影響があります。 L課長: NPC-Dを初期化し,セキュリティ修正プログラムを適用してから,文書作成ソフトなどのアプリケーションソフトウェアを再インストールするという対応も考えられます。しかし,NPC-Dを初期化すると,⑦詳細調査に影響があります。⑧Dさんの業務への影響を軽減する策を講じれば大丈夫ですか。 B副所長: それなら大丈夫です。 〔対策の検討〕 B副所長及びL課長は,詳細調査の結果を基に,R営業所でのVサービス利用における問題点と対策を表4のように整理した。

表4 R営業所でのVサービス利用における問題点と対策(抜粋)

次は,表4に関するB副所長とL課長の会話である。 B副所長: 番号2の対策では,ログインが煩雑になり利便性が低下してしまうことを懸念しています。 L課長: それでは,[d]ことにすれば,利便性も保てます。 B副所長とL課長は,詳細調査の結果と今後の対策をA所長に報告し,承認を得た。また,A所長はP社委員会に報告し,承認を得た。その後,必要な対策を実施し,Vサービスの業務利用を再開した。今回のVサービス活用による業務効率化は,高く評価された。その後,VサービスはP社全体に導入され,業務効率向上に貢献した。

設問1〔インシデントの発生〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) 本文中の下線①について,Kさんが,電話ではなく,VサービスでDさんに連絡した場合に想定される被害はどれか。解答群のうち,最も適切なものを選べ。

  1. ア

    Kさんが,なりすまし者とのやり取りの結果,表3のGCメッセージがDさんからのものと信じ,URL-Pにアクセスすることによって,Kさんのパスワードが窃取される。

  2. イ

    Kさんが,なりすまし者にGCメッセージを送ることによって,Vサービスで利用しているB副所長のアカウントが,なりすまし者によって不正に利用される。

  3. ウ

    Kさんがなりすまし者への連絡のために送ったGCメッセージが,なりすまし者以外の第三者に盗聴され,内容が第三者に漏えいする。

  4. エ

    Kさんが連絡した直後に,なりすまし者によって証拠隠滅が図られ,Dさんのアカウントが利用されてGCメッセージが削除される。

会話形式の解説

講師講師
この問題では、チャットのアカウントが乗っ取られた疑いがあるときに、本人確認をどの手段で行うかが問われます。電話ではなく同じVサービスで連絡していたら、どんな被害が考えられるかを選びます。
受験者受験者
営業担当者のDは送信していないと答えています。ということは、Dのアカウントを本人以外のだれかが操作している、ということですか。
講師講師
そのとおりです。Dを装う「なりすまし者」(他人のふりをする者)がアカウントを操作している状態です。そのため、Vサービスで確認を送ると、返事をするのはD本人ではなく、なりすまし者だと考えられます。
受験者受験者
なりすまし者は「私が送りました。アクセスしてください」と返しそうです。流通担当者のKがそれを信じてしまう、という流れでしょうか。
講師講師
そこがこの問題の核心です。表3のメッセージは、アカウントの確認を名目にURLへアクセスさせる内容です。L課長は、このURL-PはVサービスのURLではなく、悪意のあるサイトのURLだと判断しています。
受験者受験者
URLにv-serviceという文字が入っているので、私なら正規のサイトだと思ってしまいそうです。
講師講師
正規のサービスを装ってIDやパスワードを入力させる手口を、フィッシングといいます。Kが本人の依頼だと信じて偽サイトでIDとパスワードを入力すれば、パスワードを盗まれます。これが「URL-Pにアクセスしてパスワードを窃取される」という選択肢で、正解です。
受験者受験者
B副所長のアカウントが不正に使われるという選択肢も、被害が広がるイメージがあって気になりました。
講師講師
Kがなりすまし者にメッセージを送っても、相手に伝わるのはKが書いた内容だけです。B副所長の認証情報(IDやパスワード)が相手に渡る仕組みは、本文にも図2にもありません。そのため、この被害は想定できません。
受験者受験者
メッセージが第三者に盗聴されるという選択肢はどうですか。盗聴もよく聞く攻撃なので迷います。
講師講師
盗聴が想定されない理由は2つあります。1つ目は、Kの連絡を受け取るのはなりすまし者で、通信経路上の第三者ではないことです。2つ目は、図2の4.1で、接続にHTTP over TLS(通信を暗号化する仕組み)を使うと決まっていることです。
受験者受験者
証拠隠滅のためにメッセージが削除されるという選択肢は、いかにも犯人がやりそうに見えます。
講師講師
Dのアカウントで削除できるかを、図2で確かめます。3.6によると、GCメッセージを削除できるのはWS管理者(ワークスペースの管理者権限を持つ利用者)です。R営業所のWS管理者はB副所長と事務担当者だけです。
受験者受験者
営業担当者のDはWS管理者ではないので、Dのアカウントではメッセージを削除できません。だから証拠隠滅の選択肢は起こらないのですね。
講師講師
そのとおりです。このように、被害を想定するときは、図2の仕様で決まっている権限や通信の保護に照らして判断します。見た目がもっともらしい選択肢でも、仕様上できないことは起こりません。
受験者受験者
まとめると、同じチャットで確認すると、なりすまし者の返事を信じてURL-Pにアクセスし、パスワードを盗まれるおそれがある、ということですね。
講師講師
はい。乗っ取りが疑われる相手への本人確認は、電話や対面など、乗っ取られた経路とは別の手段で行います。同僚のアカウントから届くメッセージは信用されやすく、そこから被害が他の従業員へ広がるからです。
講師講師
また、正規サービスに似たURLでも、正規のURLかを確かめてからアクセスします。D自身も、Vサービスを装ったメールのURLからパスワードを入力して、アカウントを乗っ取られていました。

まとめ

チャットサービスのアカウントが乗っ取られた疑いがあるとき、同じチャットで本人確認をすると、返事をするのは本人ではなくなりすまし者になります。なりすまし者に言いくるめられて、正規サービスを装ったURLにアクセスすると、IDとパスワードを盗まれるおそれがあります。ほかの選択肢は、別の利用者の認証情報が渡る仕組みがない、通信はTLSで保護されていて受け取るのも第三者ではない、メッセージを削除できるのはWS管理者だけ、という理由で当てはまりません。乗っ取りが疑われる相手への本人確認は、電話や対面など別の経路で行うことが大切です。

解答・解説

正解はアです

この問題のテーマ

チャットサービスのアカウントが乗っ取られた疑いがあるときに、本人確認を同じチャットで行うとどんな被害が起こり得るかを問う問題です。

解き方の考え方

最初に、Dさんのアカウントを今だれが操作しているかを確かめます。Dさんは送信を否定しているので、Vサービス上のDさんのアカウントは、なりすまし者(他人を装う者)が操作している状態です。そのため、Vサービスで確認の連絡をすると、返事をするのはDさんではなく、なりすまし者だと考えられます。次に、各選択肢の被害がこの状況から本当に起こるかを、図2のサービス仕様と表2・表3に照らして確かめます。

選択肢ごとの解説

  1. ○ア  Kさんが,なりすまし者とのやり取りの結果,表3のGCメッセージがDさんからのものと信じ,URL-Pにアクセスすることによって,Kさんのパスワードが窃取される。
    アは、なりすまし者に言いくるめられたKさんがURL-Pへアクセスし、パスワードを盗まれるという被害です。Vサービスで確認すると、返信するのはDさんのアカウントを操作するなりすまし者です。表3のメッセージはアカウント確認を名目にURL-Pへ誘う内容で、URL-PはVサービスのURLではありません。Kさんが本人の依頼だと信じて偽サイトでIDとパスワードを入力すれば、パスワードを盗まれます。したがって、アが正解です。
  2. ×イ  Kさんが,なりすまし者にGCメッセージを送ることによって,Vサービスで利用しているB副所長のアカウントが,なりすまし者によって不正に利用される。
    イは、KさんがGCメッセージを送るとB副所長のアカウントが不正に使われるという被害です。Kさんがなりすまし者にメッセージを送っても、伝わるのはKさんが書いた内容だけです。B副所長の認証情報(IDやパスワード)が相手に渡る仕組みは、本文にも図2にもありません。そのため、イの被害は想定できません。
  3. ×ウ  Kさんがなりすまし者への連絡のために送ったGCメッセージが,なりすまし者以外の第三者に盗聴され,内容が第三者に漏えいする。
    ウは、Kさんのメッセージが第三者に盗聴され、内容が漏れるという被害です。図2の4.1では、Vサービスへの接続にHTTP over TLS(通信を暗号化する仕組み)を使います。しかも今回の問題は、Dさんを装った投稿であって、通信の盗聴ではありません。したがって、ウは今回の状況から想定される被害ではありません。
  4. ×エ  Kさんが連絡した直後に,なりすまし者によって証拠隠滅が図られ,Dさんのアカウントが利用されてGCメッセージが削除される。
    エは、なりすまし者がDさんのアカウントでGCメッセージを削除するという被害です。図2の3.6では、GCメッセージを削除できるのはWS管理者(ワークスペースの管理者権限を持つ利用者)です。R営業所のWS管理者はB副所長と事務担当者だけで、営業担当者のDさんは含まれません。そのため、Dさんのアカウントではメッセージを削除できず、エは起こりません。

補足

表3のURLはVサービスの名前を含む見た目ですが、L課長は、Vサービスのものではない悪意のあるサイトのURLだと判断しています。このように正規のサービスを装ってIDやパスワードを入力させる手口をフィッシングといいます。Dさん自身も、Vサービスを装ったメールのURLからパスワードを入力し、アカウントを乗っ取られました。

POINT

  • 乗っ取りが疑われるアカウントへの本人確認は、電話や対面など、乗っ取られた経路とは別の手段で行います。
  • 乗っ取られた同僚のアカウントから届くメッセージは信用されやすく、そこから被害が他の従業員へ広がります。
  • 正規サービスに似たURLでも、正規のURLかどうかを確かめてからアクセスします。
  • 被害を想定するときは、図2の仕様で決まっている権限(削除できるのはWS管理者だけ)や通信の保護(TLS)に照らして判断します。

※出典:令和元年度秋期 情報セキュリティマネジメント試験 午後 問2 設問1(1)(一部改変)