マナビング情報セキュリティマネジメント

暗証番号の入退管理で、入室権限の不備を見抜く

情報セキュリティマネジメント試験 令和元年度秋期 午後 問28 / セキュリティ › 情報セキュリティ管理

過去問にチャレンジ

令和元年度秋期 午後 問28

問問3の共通の文

業務委託先への情報セキュリティ要求事項に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 X社は,携帯通信事業者から通信回線設備を借り受け,データ通信サービス及び通話サービス(以下,両サービスを併せてXサービスという)を提供している従業員数70名の企業である。X社には,法務部,サービスマーケティング部,情報システム部,利用者サポート部(以下,利用者サポート部をUS部という)などがある。X社では,最高情報セキュリティ責任者(CISO)を委員長とした情報セキュリティ委員会(以下,X社委員会という)を設置している。X社委員会では,情報セキュリティ管理規程の整備,情報セキュリティ対策の強化などが審議される。X社委員会の事務局長はUS部のS部長である。各部の部長は,X社委員会の委員及び自部における情報セキュリティ責任者を務め,自部の情報セキュリティに関わる実務を担当する情報セキュリティリーダーを選任している。US部の情報セキュリティリーダーはG課長である。 US部には,25名の従業員が所属している。主な業務は,Xサービスを利用している顧客,及びXサービスへの新規の申込みを検討している潜在顧客(以下,Xサービスを利用している顧客及び潜在顧客を併せてX顧客という)からの問合せへの対応業務(以下,X業務という)である。 〔US部が利用しているコールセンタ用サービスの概要〕 US部では,X業務を遂行するためにクラウドサービスプロバイダN社のSaaSのコールセンタ用サービス(以下,Nサービスという)を利用している。NサービスはISMS認証及びISMSクラウドセキュリティ認証を取得している。Nサービスには,会社から貸与されたPCのWebブラウザから,暗号化された通信プロトコルである[a]を使ってアクセスする。Nサービスは,図1の基本機能及びセキュリティ機能を提供している。

図1 Nサービスの基本機能及びセキュリティ機能

Nサービスのデータベース(以下,NDBという)に,氏名,年齢,住所,利用中のサービスプラン,問合せ対応記録その他のX顧客に関する情報(以下,X情報という)は暗号化されて,また,検索用キーは平文で保存されている。①X情報は,US部の従業員に貸与しているPCにだけ格納した暗号鍵を用いて,US部の従業員が復号できる仕組みになっている。PCへのログインには利用者IDとパスワードが必要である。 X社では,Nサービスのセキュリティ機能のうち手動実行機能は,管理者アカウントをもつUS部の特定の従業員だけが実行できる。X社利用分の監査ログは,X社の情報システム部が常時監視している。 US部では,業務効率化の一環として,2019年10月にX業務の3割を外部に委託し,残りの業務は継続してNサービスを利用しながらUS部内で遂行することにした。その委託先の第一候補がY社である。Y社を選んだ理由は,次の2点である。 他の候補と比較してサービス内容に遜色がなく,しかも低価格であること秘密保持契約を締結した上で,業務委託に関わる範囲を対象とした,情報セキュリティ対策の評価に協力してくれること 〔Y社の概要〕 Y社は,次のコールセンタサービス(以下,Yサービスという)を提供する従業員数200名の企業である。 委託元に代わって顧客からの製品やサービスに関する様々な問合せや苦情などを受け付ける。委託元の製品やサービスの評判を新聞,雑誌などのメディア,インターネット上のSNS,掲示板などを基に調査し,委託元に報告する。著作物を複製する場合は,著作権者の許諾を得て行う。 Y社はコールセンタシステム(以下,Yシステムという)を構築し,通常はそれを利用してYサービスを提供している。 Y社の組織の主な業務及び体制を表1に示す。

表1 Y社の組織の主な業務及び体制(抜粋)、注記・注1

Y社は,従業員を対象に,原則4月及び10月の1日に社内の定期人事異動がある。また,これらの時期以外でも組織再編,業務の見直しなどの理由で人事異動がある。Y-CS部のパートタイマは,1年間で約2割が退職する。人事総務部は,欠員補充のために,ほぼ同数を新規に採用している。 〔Y社の情報セキュリティ対策〕 Y社は,東京都内の7階建てビルの3~5階に入居しており,他の階には別の企業が入居している。ビルの出入りは誰でも可能であり,階段やエレベータを使用して,各階に移動できる。Y社の入退管理を図2に示す。

図2 Y社の入退管理

3階はY-CS部の,また,4階及び5階は他部の業務エリアである。 Y-CS部の管理職及び一般従業員は,5階の会議室で営業部の従業員と会議をすることが多いので,3階及び5階への入室権限が与えられている。 3~5階には,複合機が2台ずつ設置されており,コピー,プリント,スキャンの機能が使用できる。Y-CS部はスキャンの機能を使用して,新聞,雑誌などに紹介された委託元の製品やサービスに関する記事をPDF化し,委託元に報告している。スキャンしたPDFファイルは電子メール(以下,電子メールをメールという)にパスワードなしで添付されて,スキャンを実行した本人だけに送信される。PDFファイルの容量が大きい場合は,PDFファイルを添付する代わりにプリントサーバ内の共有フォルダに自動的に保存され,保存先のURLがメールの本文に記載されて送信される。その際,メールの送信者名,件名,本文及び添付ファイル名の命名規則などは,複合機の初期設定のまま使用している。そのため,誰がスキャンを実行しても,メールの送信者名などは同じになる。複合機のマニュアルはインターネットに掲載されている。 管理職にはデスクトップPC及びノートPCが,その他の従業員にはデスクトップPCが貸与されている。ノートPCは,社内会議での資料のプロジェクタによる投影,在宅での資料作成などに利用する。Y社が貸与しているPC(以下,Y-PCという)の仕様及び利用状況を表2に示す。

表2 Y-PCの仕様及び利用状況(抜粋)

プロキシサーバには次の機能があるが,現在は使用していない。 指定されたURLへのアクセスを許可又は禁止する機能(以下,プロキシ制御機能という)利用者ID及びパスワードによる認証機能(以下,利用者認証機能という) プロキシサーバのログ(以下,プロキシログという)はログサーバに転送され,3か月間保存される。プロキシログは,ネットワーク障害,不審な通信などの原因を調査する場合に利用する。プロキシログには,アクセス日時及びアクセス先IPアドレスが記録されるが,利用者認証機能を使用すると,Webサイトにアクセスした従業員の利用者IDも記録される。 VPNサーバにはパケットフィルタリングの機能及びあらかじめ設定したドメインへの通信を禁止する機能(以下,両機能を併せてVPN制御機能という)があるが,現在は使用していない。 〔Y社からの提案〕 Y社がX業務に利用するシステム又はサービスは表3に示す2案がある。X社から特段の要求がなければ,Y社は案1を採用する。

表3 Y社がX業務に利用するシステム又はサービス

〔X社委員会における案1及び案2の検討〕 X社委員会は,案2では,案1のもつ[b]できるので,案2の採否について議論した。X社委員会では,業務委託後の残留リスクを受容できると判断できた場合は,Y社に委託することにした。そこで,CISOは,業務委託に関わる範囲を対象としてY社の情報セキュリティ対策を確認し,X社委員会に報告するようS部長に指示した。 S部長は,G課長にY社の情報セキュリティ対策を確認して報告するよう指示した。S部長は,情報システム部に技術面での協力を依頼し,同部のH主任がG課長に協力することになった。 〔X社の情報セキュリティ要求事項と評価〕 G課長とH主任は,自社の情報セキュリティ管理規程を基に,X業務の外部への委託における情報セキュリティ要求事項(以下,X要求事項という)を取りまとめた。 X社とY社間で秘密保持契約を締結した後,G課長は,Y社を訪問した。G課長はY社の承諾を得た上で,X要求事項を基に,Y-CS部従業員へのヒアリング及び設備状況の目視による確認などを行った。その際,T部長及びF課長に同行を依頼した。その後,表4のとおり評価結果と評価根拠をまとめてY社に事実確認を依頼したところ,"事実だ"との回答があった。評価結果は次のルールに従って記入した。 要求事項を満たす場合:"OK"要求事項を満たさない場合:"NG"

表4 X要求事項に対するY社の対策の評価結果と評価根拠(抜粋)、空欄c・d・e・下線②

〔評価結果に対する対応案の検討〕 後日,G課長はT部長とF課長に,Y社と業務委託契約をしたいと伝え,その前提として,評価結果が"NG"の要求事項への対応を依頼した。Y社はG課長に③対応案を伝えた。G課長はH主任と相談の上,対応案をS部長に報告した。 S部長が表4及び対応案をX社委員会に報告したところ,Y社にX業務を委託することが承認され,無事に業務が開始された。X社はY社への業務委託によって業務の効率化を進めることができた。

設問3〔X社の情報セキュリティ要求事項と評価〕について,(1)~(4)に答えよ。 (2) 表4中の[d],[e]に入れる評価根拠として適切なものを,解答群の中から選べ。二つ選んでください(順不同)。

  1. ア

    Y-CS部の従業員が3階の業務エリアに入室できる。

  2. イ

    Y-CS部のパートタイマが5階の業務エリアに入室できる。

  3. ウ

    営業部の従業員が3階の業務エリアに入室できる。

  4. エ

    システム管理部の従業員が5階の業務エリアに入室できる。

  5. オ

    退職者の一部が3階の業務エリアに入室できる。

  6. カ

    元Y-CS部の従業員が,他部門に異動した後も,3階の業務エリアに入室できる。

会話形式の解説

講師講師
委託先のY社が、X業務を行う業務エリアへの入室を、入室権限を与えた従業員だけに制限できているか。この問題では、その要求事項で見つかった不備を二つ選びます。
受験者受験者
X業務を行う業務エリアは、Y-CS部がいる3階ですよね。まず3階に誰が入れるかを確かめればよいですか。
講師講師
そのとおりです。図2の仕組みを見ると、各業務エリアの扉は6桁の暗証番号で開きます。番号はエリアごとに異なり、入室権限を与えた従業員だけに知らされます。
受験者受験者
番号を知らない人は入れないのなら、しっかり管理できているように見えます。
講師講師
注目してほしいのは更新時期です。暗証番号の更新は4月と10月の1日、年2回だけです。番号を一度覚えた人は、次に更新されるまでその番号で入れます。
受験者受験者
更新の間に権限がなくなる人がいると困る、ということでしょうか。退職する人とか。
講師講師
はい。本文では、Y-CS部のパートタイマが1年で約2割退職します。更新の間に退職した人も番号を覚えているので、3階に入れてしまいます。これが退職者の一部が入室できるという選択肢の根拠です。
受験者受験者
異動についても同じですか。定期の人事異動は4月と10月で、更新時期と重なっていますが。
講師講師
定期異動だけなら重なります。ただ本文には、組織再編や業務の見直しで、その時期以外にも異動があると書かれています。時期外に他部門へ移った元Y-CS部の従業員は、前の番号で3階に入れます。
受験者受験者
では、Y-CS部の従業員が3階に入れるという選択肢は、本来の権限者が入るだけなので不備ではないですね。
講師講師
そうです。3階はY-CS部の業務エリアなので、正当な入室です。営業部の従業員が3階に入れるという選択肢も、営業部に3階の番号を知らせる運用は本文にないので、導けません。
受験者受験者
Y-CS部のパートタイマが5階に入れるという選択肢は迷いました。Y-CS部の人は5階の会議室を使うので、入れそうに思えます。
講師講師
5階への入室権限があるのは、Y-CS部の管理職と一般従業員です。表1の注記で、一般従業員は管理職とパートタイマを除く従業員と定義されています。つまりパートタイマは含まれません。
受験者受験者
注記の定義が決め手なのですね。それに、5階はX業務のエリアではないので、そもそも今回の要求事項とは関係が薄いです。
講師講師
そのとおりです。システム管理部の従業員が5階に入れるという選択肢も同じ考え方です。仮に業務上5階に入る権限があったとしても、3階への不要な入室の話とは別なので、評価根拠には当たりません。
受験者受験者
まとめると、対象は3階で、更新の間に権限を失った退職者と異動者が番号で入れてしまう、という二点が不備ですね。
講師講師
はい。暗証番号方式は番号を知る人なら誰でも入れるので、権限を失った人が番号を覚えている状態が弱点になります。更新時期と、退職・異動の時期がずれていないかを確かめるのが着眼点です。

まとめ

この問題では、委託先Y社で、X業務を行う3階の業務エリアへの入室が入室権限者だけに制限されているかを評価し、その不備を二つ選びます。暗証番号の更新は4月と10月の年2回だけです。一方で、パートタイマは年に約2割が退職し、人事異動もその時期以外に行われることがあります。そのため、更新の間に退職した人や他部門へ異動した元Y-CS部従業員は、覚えている番号で3階に入れてしまいます。正解は、退職者の一部と元Y-CS部の従業員が3階に入室できるという二つです。Y-CS部の従業員が3階に入るのは正当な入室で、5階に関する選択肢は対象のエリアが違うため外れます。

解答・解説

正解はオ、カです

※順不同

この問題のテーマ

業務委託先のY社で、X業務を行う3階の業務エリアへの入室を権限者だけに制限できているかを問う問題です。図2の暗証番号の運用と、人事異動・退職の状況を照らし合わせて不備を見つけます。

解き方の考え方

まず表4の項番8を読みます。X業務を行う業務エリア(3階のY-CS部エリア)への入室を、入室権限が与えられた従業員だけに制限することが要求事項です。次に図2で入室の仕組みを確かめます。暗証番号は業務エリアごとに異なり、更新は4月と10月の1日だけです。一方、本文では人事異動がこの2回以外にもあり、パートタイマは1年で約2割が退職します。したがって、更新と更新の間に権限を失った人が、覚えている番号で3階に入れるかどうかを基準に各肢を判断します。

選択肢ごとの解説

  1. ×ア  Y-CS部の従業員が3階の業務エリアに入室できる。
    アは、Y-CS部の従業員が3階に入室できると述べています。3階はY-CS部の業務エリアなので、Y-CS部の従業員は正当な入室権限者です。そのため、項番8の不備には当たりません。
  2. ×イ  Y-CS部のパートタイマが5階の業務エリアに入室できる。
    イは、Y-CS部のパートタイマが5階に入室できると述べています。本文では、5階の入室権限を持つのはY-CS部の管理職と一般従業員です。一般従業員にはパートタイマが含まれないため、パートタイマが5階に入れるとは本文から導けません。また、5階はX業務を行うエリアではないので、項番8の不備にも当たりません。
  3. ×ウ  営業部の従業員が3階の業務エリアに入室できる。
    ウは、営業部の従業員が3階に入室できると述べています。暗証番号は入室権限を与えた従業員だけに通知されます。営業部に3階の番号を知らせる運用は本文にありません。そのため、営業部の従業員が3階に入れるとは導けません。
  4. ×エ  システム管理部の従業員が5階の業務エリアに入室できる。
    エは、システム管理部の従業員が5階に入室できると述べています。項番8が対象とするのは、X業務を行う3階の業務エリアです。5階への入室は3階への不要な入室ではないため、この評価根拠には当たりません。
  5. ○オ  退職者の一部が3階の業務エリアに入室できる。
    オは、退職者の一部が3階に入室できると述べています。3階の暗証番号は年2回しか更新されません。一方、パートタイマは年に約2割が退職します。そのため、更新の間に退職した人は、覚えている番号で3階に入れてしまいます。したがって、オは不備の一つです。
  6. ○カ  元Y-CS部の従業員が,他部門に異動した後も,3階の業務エリアに入室できる。
    カは、他部門へ異動した元Y-CS部従業員が3階に入室できると述べています。人事異動は4月と10月以外にも、組織再編や業務見直しで行われます。番号の更新は年2回だけなので、時期外に異動した人は以前の番号で3階に入れます。したがって、カも不備の一つです。

POINT

  • 暗証番号方式の入退管理では、番号を知る人なら誰でも入れるため、権限を失った人が番号を覚えている状態が不備になります。
  • 番号の更新時期が限られていると、更新の間に生じた退職者や異動者の入室を防げません。
  • 評価根拠は、要求事項が対象とするエリア(ここではX業務を行う3階)に関わるものかで絞り込みます。
  • 本文で「一般従業員」がパートタイマを含まないなど、表の注記の定義も正誤の決め手になります。

※出典:令和元年度秋期 情報セキュリティマネジメント試験 午後 問3 設問3(2)(一部改変)