マナビング情報セキュリティマネジメント

証拠保全した機器の調査はどのセキュリティ活動か

情報セキュリティマネジメント試験 平成31年度春期 午後 問4 / セキュリティ › 情報セキュリティ対策

過去問にチャレンジ

平成31年度春期 午後 問4

問問1の共通の文

サイバー攻撃を想定した演習に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 W社は,自動車電装部品,ガス計測部品及びソーラシステム部品を製造する従業員数1,000名の企業である。経営企画部,人事総務部,情報システム部,調達購買部などのコストセンタ並びに自動車電装部,ガス計測部,及び昨年新規事業として立ち上げられたソーラシステム部の三つのプロフィットセンタから構成されている。ソーラシステム部は現在30名の組織であるが,事業を拡大させるために,毎月,3~4名の従業員を採用しており,組織が拡大している。 W社では,7年前に最高情報セキュリティ責任者(CISO)を委員長とする情報セキュリティ委員会を設置し,情報セキュリティポリシー及び情報セキュリティ関連規程を整備して,ISMS認証を全社で取得した。経営企画部が,情報セキュリティ委員会の事務局を担当している。また,各部の部長が,情報セキュリティ委員会の委員,及び自部における情報セキュリティ責任者を務めている。各情報セキュリティ責任者は,自部の情報セキュリティに関わる実務を担当する情報セキュリティリーダーを選任している。 W社は年に1回,人事総務部が主管となり,大規模な震災などを想定した事業継続計画の演習を実施している。サイバー攻撃を想定した演習は実施したことがないものの,サイバー攻撃などの情報セキュリティインシデント(以下,インシデントという)の対応手順はあり,これまで,事業に深刻な影響を与えるようなサイバー攻撃は受けていない。 〔ソーラシステム部の状況〕 ソーラシステム部では,省エネルギーを推進しており,部で使用する全てのPCには,消費電力の少ないノートPC(以下,NPCという)を選定している。省エネルギー対策の一つとして,全てのNPCは,カバーを閉じると自動的にスリープモードに切り替わるように設定されている。また,情報セキュリティ対策の一つとして,全てのNPCでは,USBストレージなどの外部記憶媒体を使用できないように技術的対策を講じている。 ソーラシステム部の情報セキュリティ責任者はE部長で,情報セキュリティリーダーはFさんである。Fさんは,最近,競合他社がサイバー攻撃を受け,その対応に手間取って大きな被害が発生したとのニュースを聞いた。そこで,Fさんは,ソーラシステム部内でサイバー攻撃を想定した演習を行うことを提案した。E部長は提案を承認し,Fさんに演習を計画するように指示した。 〔演習の計画〕 サイバー攻撃を想定した演習は,年1回行うことにした。演習は,一般的に表1に示すような机上演習と機能演習の2種類に大別される。機能演習の具体的な形式には,実際のサイバー攻撃に近い形で疑似的なサイバー攻撃を行う[a]が含まれる。

表1 サイバー攻撃を想定した演習の種類と注記

Fさんは,机上演習と機能演習を比較検討した結果,今回は,参加者に気付きを与えられる机上演習として,ワークショップを実施することにした。演習終了後には,参加者からの意見を集めて次回の演習に反映することにした。 Fさんは,机上演習のシナリオを検討するに当たり,サイバーキルチェーンを参考にすることにした。サイバーキルチェーンとは,サイバー攻撃の段階を説明した代表的なモデルの一つである。サイバー攻撃を7段階に区分して,攻撃者の考え方や行動を理解することを目的としている。サイバーキルチェーンのいずれかの段階でチェーンを断ち切ることができれば,被害の発生を防ぐことができる。サイバー攻撃のシナリオをサイバーキルチェーンに基づいて整理した例を表2に示す。

表2 サイバーキルチェーンに基づいて整理した例、下線①・注記・注1/2

Fさんは,次の二つの演習のシナリオを取り上げることにした。 シナリオ1 標的型メール攻撃のシナリオである。W社の取引先をかたった者から,W社の公開Webサイトが停止しておりアクセスできない旨の報告をメールで受信した。メールの本文には,W社の公開Webサイトを模した偽サイトのURLが記載されている。この場合の対応を行う。 シナリオ2 標的型メール攻撃を受けた結果,マルウェア感染したというシナリオである。従業員のNPCのマルウェア対策ソフトからアラートが画面に表示された。アラートは,マルウェア感染らしき異常が認められたというものである。この場合の対応を行う。 シナリオ1は,表2の"[b1]"の段階での対応であり,シナリオ2は,表2の"[b2]"の段階での対応である。 〔演習の実施〕 演習にはソーラシステム部の全メンバーが参加した。Fさんは,メンバーを会議室に招集し,参加者を三つのグループに分けて,ワークショップを実施した。ワークショップでは,Fさんは,ファシリテータとして,参加者に対して二つのシナリオを提示した。参加者はグループごとに,W社のインシデント対応手順に従って取るべきアクションを議論し,発表した。W社のインシデント対応手順は,図1のとおりである。

図1 インシデント対応手順(抜粋)、下線②・注1

各グループのワークショップの発表結果は,表3のとおりである。

表3 ワークショップの発表結果

Fさんは,シナリオ1及びシナリオ2について,適切な対応方法を参加者に解説した。その中で,参加者から,なぜ,通常のOS終了処理ではいけないのかと質問を受けたので,③その理由について説明した。また,演習後に,参加者にアンケートを実施した。 こうして,Fさんは,無事にワークショップを終えた。 〔演習結果の振り返り〕 Fさんが演習中に参加者から受けた質問とFさんの回答は表4のとおりであった。

表4 参加者からの質問及びFさんの回答(抜粋)、空欄c1・c2・d1・d2

〔演習結果の報告〕 Fさんは,演習結果,参加者からの質問及び意見,インシデント対応手順の改善案並びに次回の演習に向けての改善案をまとめ,E部長に報告した。また,Fさんは,④ソーラシステム部の組織の状況などを考慮すると,年1回の演習だけでは十分とはいえないと考えて,演習の頻度を上げることをE部長に提案した。E部長は,Fさんからの提案を受け,演習結果とあわせて提案内容を情報セキュリティ委員会に提出した。 情報セキュリティ委員会は,E部長からの提案を受けて,全社としても,サイバー攻撃を想定した演習を実施することにした。 その後,ソーラシステム部は,大きなインシデントの被害もなく順調に事業を拡大し,W社全体としても,更なる情報セキュリティの強化を図ることができた。

設問2〔演習の実施〕について,(1)~(4)に答えよ。 (1) 図1中の下線②を表すものはどれか。解答群のうち,最も適切なものを選べ。

  1. ア

    Webアプリケーションの脆弱性診断

  2. イ

    技術動向の監視

  3. ウ

    従業員の情報セキュリティ教育や啓発

  4. エ

    セキュリティ製品やソリューションの評価

  5. オ

    セキュリティツールの開発

  6. カ

    ディジタルフォレンジックス

会話形式の解説

講師講師
今回はW社のインシデント対応手順の図が題材です。手順5「証拠保全」の中にある下線部の作業が、どのセキュリティ活動に当たるかを選ぶ問題です。
受験者受験者
下線部は「証拠保全した機器の調査」で、情報システム部が外部のセキュリティ専門業者に頼むことがある、と書かれていますね。
講師講師
そうです。手順の流れを見ると、一次対応の後に関係するコンピュータなどを操作せずに保管し、その保管した機器を調べます。何を、いつ調べる作業だと言えそうですか。
受験者受験者
インシデントが起きた後に、そのインシデントに関わった機器を調べる作業だと思います。
講師講師
その2点が判断の軸になります。選択肢の中で「事後」に「保管した機器」を調べる活動を探します。まず、Webアプリケーションの脆弱性診断はどうでしょう。
受験者受験者
脆弱性診断も調べる作業なので、少し迷います。
講師講師
脆弱性診断は、システムの弱点(攻撃に悪用されうる欠陥)を前もって探す活動です。被害を防ぐための事前の対策で、起きた出来事の跡を追う作業ではありません。
受験者受験者
なるほど。セキュリティ製品やソリューションの評価も、導入前に機能を比べるので事前側ですね。
講師講師
その通りです。技術動向の監視は新しい技術や脅威の動きを継続して追う活動で、特定の機器を調べるものではありません。セキュリティツールの開発は、ソフトウェアを作る仕事です。
受験者受験者
従業員の情報セキュリティ教育や啓発は、対象が機器ではなく人なので外れますね。
講師講師
はい。残るのはディジタルフォレンジックスです。電子的な記録を証拠として集めて保管し、分析して、何が起きたのかを突き止める調査のことです。
受験者受験者
保管した機器を専門業者が分析して事実を確かめるので、調べる時期も対象も下線部と合いますね。
講師講師
正解はディジタルフォレンジックスです。証拠が書き換わらないように先に保全し、その後で専門家が原因や影響範囲を調べる、という順番も手順5の内容と一致しています。
受験者受験者
機器を操作せずに保管するのは、後の分析で証拠として使えるようにするためなのですね。
講師講師
そう考えてよいです。補足すると、IPAのガイドではフォレンジックの流れを収集、検査、分析、報告の4段階に分けています。保全と調査が別の段階だと押さえておくと迷いにくくなります。

まとめ

この問題は、インシデント対応手順の「証拠保全」で、保全した機器を外部の専門業者が調べる作業を何と呼ぶかを問うものです。正解はディジタルフォレンジックスで、電子的な証拠を集めて保全し、分析して起きた事実を明らかにする調査を指します。脆弱性診断や製品評価は被害を防ぐための事前の活動で、教育・啓発は人を対象とする活動なので当てはまりません。「インシデントの後か」「保全した機器を調べるか」の2点で選択肢を見分けると判断しやすくなります。

解答・解説

正解はカです

この問題のテーマ

インシデント対応手順の「証拠保全した機器の調査」が、どのセキュリティ活動に当たるかを問う問題です。

解き方の考え方

まず、図1の手順5「証拠保全」で下線②がどこにあるかを確かめます。下線②は、保全した機器の調査を情報システム部が外部のセキュリティ専門業者に頼むことがある、という部分です。調べる対象は、インシデントに関係して保全したコンピュータやデバイスです。次に、各選択肢が「保全した機器から、起きた事実を調べる活動」に当たるかを照らし合わせます。

選択肢ごとの解説

  1. ×ア  Webアプリケーションの脆弱性診断
    アのWebアプリケーションの脆弱性診断は、システムの弱点(脆弱性)を見つけ出す活動です。一方、下線②の調査は、インシデントの後に保全した機器を調べるものです。したがって、アは下線②に当たりません。
  2. ×イ  技術動向の監視
    イの技術動向の監視は、新しい技術や脅威の動きを追い続ける活動です。保全した特定の機器を調べる作業ではありません。そのため、イは下線②に当たりません。
  3. ×ウ  従業員の情報セキュリティ教育や啓発
    ウの情報セキュリティ教育や啓発は、従業員の知識や行動を良くするための活動です。対象は人であり、保全した機器ではありません。したがって、ウは下線②に当たりません。
  4. ×エ  セキュリティ製品やソリューションの評価
    エのセキュリティ製品やソリューションの評価は、導入に向けて機能や性能を比べる活動です。インシデントの証拠を調べる作業ではありません。そのため、エは下線②に当たりません。
  5. ×オ  セキュリティツールの開発
    オのセキュリティツールの開発は、ソフトウェアを作る活動です。保全した機器から事実を調べる作業を指す語ではありません。したがって、オは下線②に当たりません。
  6. ○カ  ディジタルフォレンジックス
    カのディジタルフォレンジックスは、電子的な証拠を集めて保全し、解析して事実を明らかにする調査です。下線②は、証拠として保全した機器を専門業者が調べるという内容です。調べる対象も目的も一致するので、カが正解です。

補足

IPAのガイドでは、フォレンジックの工程を収集・検査・分析・報告の4段階に分けています。図1の注にある電源の強制切断も、通常のOS終了処理をせずに機器を止める手順です。

POINT

  • ディジタルフォレンジックスは、原因究明や法的手続に必要なデータを収集・保全・解析する一連の作業です。
  • フォレンジックでは、証拠を改変しないように保全してから、専門家が原因や影響を調べます。
  • 図1の手順では、まず機器を操作せずに保全し、その後に必要に応じて外部の専門業者に調査を依頼します。
  • 脆弱性診断や製品評価は事前の対策であり、インシデント後の証拠調査とは目的が異なります。

※出典:平成31年度春期 情報セキュリティマネジメント試験 午後 問1 設問2(1)(一部改変)