マナビング情報セキュリティマネジメント

ランサムウェア感染の疑い、OSを終了せず電源を切る理由

情報セキュリティマネジメント試験 平成31年度春期 午後 問7 / セキュリティ › 情報セキュリティ管理

過去問にチャレンジ

平成31年度春期 午後 問7

問問1の共通の文

サイバー攻撃を想定した演習に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 W社は,自動車電装部品,ガス計測部品及びソーラシステム部品を製造する従業員数1,000名の企業である。経営企画部,人事総務部,情報システム部,調達購買部などのコストセンタ並びに自動車電装部,ガス計測部,及び昨年新規事業として立ち上げられたソーラシステム部の三つのプロフィットセンタから構成されている。ソーラシステム部は現在30名の組織であるが,事業を拡大させるために,毎月,3~4名の従業員を採用しており,組織が拡大している。 W社では,7年前に最高情報セキュリティ責任者(CISO)を委員長とする情報セキュリティ委員会を設置し,情報セキュリティポリシー及び情報セキュリティ関連規程を整備して,ISMS認証を全社で取得した。経営企画部が,情報セキュリティ委員会の事務局を担当している。また,各部の部長が,情報セキュリティ委員会の委員,及び自部における情報セキュリティ責任者を務めている。各情報セキュリティ責任者は,自部の情報セキュリティに関わる実務を担当する情報セキュリティリーダーを選任している。 W社は年に1回,人事総務部が主管となり,大規模な震災などを想定した事業継続計画の演習を実施している。サイバー攻撃を想定した演習は実施したことがないものの,サイバー攻撃などの情報セキュリティインシデント(以下,インシデントという)の対応手順はあり,これまで,事業に深刻な影響を与えるようなサイバー攻撃は受けていない。 〔ソーラシステム部の状況〕 ソーラシステム部では,省エネルギーを推進しており,部で使用する全てのPCには,消費電力の少ないノートPC(以下,NPCという)を選定している。省エネルギー対策の一つとして,全てのNPCは,カバーを閉じると自動的にスリープモードに切り替わるように設定されている。また,情報セキュリティ対策の一つとして,全てのNPCでは,USBストレージなどの外部記憶媒体を使用できないように技術的対策を講じている。 ソーラシステム部の情報セキュリティ責任者はE部長で,情報セキュリティリーダーはFさんである。Fさんは,最近,競合他社がサイバー攻撃を受け,その対応に手間取って大きな被害が発生したとのニュースを聞いた。そこで,Fさんは,ソーラシステム部内でサイバー攻撃を想定した演習を行うことを提案した。E部長は提案を承認し,Fさんに演習を計画するように指示した。 〔演習の計画〕 サイバー攻撃を想定した演習は,年1回行うことにした。演習は,一般的に表1に示すような机上演習と機能演習の2種類に大別される。機能演習の具体的な形式には,実際のサイバー攻撃に近い形で疑似的なサイバー攻撃を行う[a]が含まれる。

表1 サイバー攻撃を想定した演習の種類と注記

Fさんは,机上演習と機能演習を比較検討した結果,今回は,参加者に気付きを与えられる机上演習として,ワークショップを実施することにした。演習終了後には,参加者からの意見を集めて次回の演習に反映することにした。 Fさんは,机上演習のシナリオを検討するに当たり,サイバーキルチェーンを参考にすることにした。サイバーキルチェーンとは,サイバー攻撃の段階を説明した代表的なモデルの一つである。サイバー攻撃を7段階に区分して,攻撃者の考え方や行動を理解することを目的としている。サイバーキルチェーンのいずれかの段階でチェーンを断ち切ることができれば,被害の発生を防ぐことができる。サイバー攻撃のシナリオをサイバーキルチェーンに基づいて整理した例を表2に示す。

表2 サイバーキルチェーンに基づいて整理した例、下線①・注記・注1/2

Fさんは,次の二つの演習のシナリオを取り上げることにした。 シナリオ1 標的型メール攻撃のシナリオである。W社の取引先をかたった者から,W社の公開Webサイトが停止しておりアクセスできない旨の報告をメールで受信した。メールの本文には,W社の公開Webサイトを模した偽サイトのURLが記載されている。この場合の対応を行う。 シナリオ2 標的型メール攻撃を受けた結果,マルウェア感染したというシナリオである。従業員のNPCのマルウェア対策ソフトからアラートが画面に表示された。アラートは,マルウェア感染らしき異常が認められたというものである。この場合の対応を行う。 シナリオ1は,表2の"[b1]"の段階での対応であり,シナリオ2は,表2の"[b2]"の段階での対応である。 〔演習の実施〕 演習にはソーラシステム部の全メンバーが参加した。Fさんは,メンバーを会議室に招集し,参加者を三つのグループに分けて,ワークショップを実施した。ワークショップでは,Fさんは,ファシリテータとして,参加者に対して二つのシナリオを提示した。参加者はグループごとに,W社のインシデント対応手順に従って取るべきアクションを議論し,発表した。W社のインシデント対応手順は,図1のとおりである。

図1 インシデント対応手順(抜粋)、下線②・注1

各グループのワークショップの発表結果は,表3のとおりである。

表3 ワークショップの発表結果

Fさんは,シナリオ1及びシナリオ2について,適切な対応方法を参加者に解説した。その中で,参加者から,なぜ,通常のOS終了処理ではいけないのかと質問を受けたので,③その理由について説明した。また,演習後に,参加者にアンケートを実施した。 こうして,Fさんは,無事にワークショップを終えた。 〔演習結果の振り返り〕 Fさんが演習中に参加者から受けた質問とFさんの回答は表4のとおりであった。

表4 参加者からの質問及びFさんの回答(抜粋)、空欄c1・c2・d1・d2

〔演習結果の報告〕 Fさんは,演習結果,参加者からの質問及び意見,インシデント対応手順の改善案並びに次回の演習に向けての改善案をまとめ,E部長に報告した。また,Fさんは,④ソーラシステム部の組織の状況などを考慮すると,年1回の演習だけでは十分とはいえないと考えて,演習の頻度を上げることをE部長に提案した。E部長は,Fさんからの提案を受け,演習結果とあわせて提案内容を情報セキュリティ委員会に提出した。 情報セキュリティ委員会は,E部長からの提案を受けて,全社としても,サイバー攻撃を想定した演習を実施することにした。 その後,ソーラシステム部は,大きなインシデントの被害もなく順調に事業を拡大し,W社全体としても,更なる情報セキュリティの強化を図ることができた。

設問2〔演習の実施〕について,(1)~(4)に答えよ。 (4) 本文中の下線③の理由について,次の(ⅰ)~(ⅴ)のうち,該当するものを二つ挙げた組合せを,解答群の中から選べ。 (ⅰ) 通常のOS終了処理を行うと,記憶媒体に異常が生じることがあるから (ⅱ) 通常のOS終了処理を行うと,その間にもファイルが暗号化され,被害が拡大することがあるから (ⅲ) 通常のOS終了処理を行うと,調査に必要な情報の一部が失われることがあるから (ⅳ) 通常のOS終了処理を行うと,バッテリやマザーボードが故障することがあるから (ⅴ) 通常のOS終了処理を行うと,メーカのサポートを受けられなくなることがあるから

  1. ア

    (ⅰ),(ⅱ)

  2. イ

    (ⅰ),(ⅲ)

  3. ウ

    (ⅰ),(ⅳ)

  4. エ

    (ⅰ),(ⅴ)

  5. オ

    (ⅱ),(ⅲ)

  6. カ

    (ⅱ),(ⅳ)

  7. キ

    (ⅱ),(ⅴ)

  8. ク

    (ⅲ),(ⅳ)

  9. ケ

    (ⅲ),(ⅴ)

  10. コ

    (ⅳ),(ⅴ)

会話形式の解説

講師講師
今回は、ランサムウェアへの感染が疑われるノートPCの扱いがテーマです。通常のOS終了処理ではなぜいけないのか、その理由を2つ選ぶ問題です。ランサムウェアは、ファイルを勝手に暗号化して身代金を求めるマルウェアのことです。
受験者受験者
W社の手順の図1に、電源を強制的に切ると書いてありました。でも、普通にシャットダウンするほうが安全な気がします。
講師講師
図1の注記を見てみましょう。通常のOS終了処理やスリープへの切替えはせず、電源ケーブルを抜くと書いてあります。ノートPCなら、ケーブルを抜いたうえでバッテリも外します。
受験者受験者
バッテリまで外すのは、ケーブルを抜いてもバッテリで動き続けてしまうからですね。
講師講師
そのとおりです。では、通常のOS終了処理をすると何が困るかを考えます。終了処理には時間がかかりますよね。その間、ランサムウェアはどうしているでしょうか。
受験者受験者
終了処理を待つ間も、ファイルの暗号化を続けていそうです。だから、被害が広がるという(ⅱ)は当てはまると思います。
講師講師
正しいです。(ⅱ)は理由の1つ目です。2つ目は、後で行う調査に関わります。図1でも、証拠を保全した機器を調べることになっていますね。
受験者受験者
終了処理をすると、調査に使う情報が消えてしまうのですか。
講師講師
そうです。終了処理で一時ファイルなどが削除されると、原因や経緯を調べる手がかりが失われ得ます。そのため(ⅲ)も該当します。
受験者受験者
記憶媒体に異常が生じるという(ⅰ)も、もっともらしく見えて迷いました。
講師講師
通常のOS終了処理は、むしろ安全な終わらせ方です。記憶媒体に異常が出やすいのは、電源を強制的に切るほうです。なので、(ⅰ)は通常終了を避ける理由になりません。
受験者受験者
(ⅳ)のバッテリやマザーボードの故障、(ⅴ)のメーカーサポートを受けられなくなる、というのはどうでしょうか。
講師講師
どちらも通常のOS終了処理では起きません。普段どおり終了しても部品は壊れませんし、サポートが受けられなくなることもありません。
受験者受験者
理由は、暗号化が進む(ⅱ)と、調査情報が消える(ⅲ)の2つですね。正解はオだと分かりました。
講師講師
そのとおりです。補足すると、ここでいう調査はデジタルフォレンジックス、つまり証拠を保全して原因や経緯を分析することです。ただし、強制的に切ってもメモリ上の情報は失われ得るので、証拠がすべて残るわけではありません。

まとめ

ランサムウェア感染が疑われるノートPCについて、W社の手順は、通常のOS終了処理やスリープへの切替えをせず、電源ケーブルを抜いてバッテリも外すと定めています。理由の1つ目は、終了処理を待つ間にも暗号化が進み、被害が広がるのを防ぐことです。2つ目は、終了処理で一時ファイルなどが消え、後の調査に必要な情報が失われるのを防ぐことです。記憶媒体の異常、部品の故障、メーカーサポートの喪失は、通常のOS終了処理では起きないので理由になりません。したがって、正解は(ⅱ)と(ⅲ)の組合せのオです。

解答・解説

正解はオです

この問題のテーマ

ランサムウェア(ファイルを勝手に暗号化して身代金を求めるマルウェア)の感染が疑われるときに、なぜ通常のOS終了処理をせず電源を強制的に切るのかを問う問題です。

解き方の考え方

まず図1の注記を確かめます。ランサムウェア感染が疑われる場合は、通常のOS終了処理やスリープへの切替えをしません。代わりに電源ケーブルを抜き、NPCならバッテリも外すと定めています。次に、(ⅰ)〜(ⅴ)を「OS終了処理をすると何が困るか」に照らします。(ⅱ)は、終了処理には時間がかかり、その間も暗号化が進むので該当します。(ⅲ)は、終了処理で一時ファイルなどが削除され、調査に必要な情報が失われ得るので該当します。一方、(ⅰ)(ⅳ)(ⅴ)の記憶媒体の異常、部品の故障、メーカーサポートの喪失は、通常のOS終了処理では起きないので該当しません。

選択肢ごとの解説

  1. ×ア  (ⅰ),(ⅱ)
    アは(ⅰ)と(ⅱ)の組合せです。(ⅰ)の記憶媒体の異常について、通常のOS終了処理は安全な終わらせ方です。むしろ異常が生じやすいのは強制切断のほうなので、(ⅰ)は理由になりません。
  2. ×イ  (ⅰ),(ⅲ)
    イは(ⅰ)と(ⅲ)の組合せです。(ⅲ)は該当します。しかし(ⅰ)は、記憶媒体の異常という理由が通常終了には当てはまらないので誤りです。
  3. ×ウ  (ⅰ),(ⅳ)
    ウは(ⅰ)と(ⅳ)の組合せです。(ⅳ)について、通常のOS終了処理でバッテリやマザーボードが故障することはありません。そのため、(ⅰ)と(ⅳ)はどちらも理由になりません。
  4. ×エ  (ⅰ),(ⅴ)
    エは(ⅰ)と(ⅴ)の組合せです。(ⅴ)について、通常のOS終了処理をしてもメーカーのサポートを受けられなくなることはありません。したがって、エの2つはどちらも該当しません。
  5. ○オ  (ⅱ),(ⅲ)
    オは(ⅱ)と(ⅲ)の組合せです。(ⅱ)の被害拡大は、終了処理を待つ間にも暗号化が進むことに当たります。(ⅲ)は、後の調査に使う情報が終了処理で失われることに当たります。したがって、オが正解です。
  6. ×カ  (ⅱ),(ⅳ)
    カは(ⅱ)と(ⅳ)の組合せです。(ⅱ)は該当します。しかし(ⅳ)の部品の故障は通常終了では起きないので、カは誤りです。
  7. ×キ  (ⅱ),(ⅴ)
    キは(ⅱ)と(ⅴ)の組合せです。(ⅱ)は該当します。しかし(ⅴ)のサポートの喪失は通常終了とは関係がないので、キは誤りです。
  8. ×ク  (ⅲ),(ⅳ)
    クは(ⅲ)と(ⅳ)の組合せです。(ⅲ)は該当します。しかし(ⅳ)が該当しないので、クは誤りです。
  9. ×ケ  (ⅲ),(ⅴ)
    ケは(ⅲ)と(ⅴ)の組合せです。(ⅲ)は該当します。しかし(ⅴ)が該当しないので、ケは誤りです。
  10. ×コ  (ⅳ),(ⅴ)
    コは(ⅳ)と(ⅴ)の組合せです。部品の故障もサポートの喪失も通常終了では起きません。そのため、コは2つとも該当しません。

補足

ここでいう調査とは、デジタルフォレンジックス(証拠を保全して原因や経緯を分析すること)のことです。ただし、強制切断してもメモリ上の情報は失われ得ます。そのため、強制切断すれば証拠がすべて残るわけではありません。

POINT

  • ランサムウェアの感染が疑われるときは、まずネットワークから切り離します。そのうえで、通常の終了処理をせずに電源を強制的に切ります。
  • 強制切断する理由の1つ目は、終了処理を待つ間にも暗号化が進んで被害が広がるのを防ぐことです。
  • 2つ目の理由は、終了処理で一時ファイルなどが消え、後の調査に必要な情報が失われるのを防ぐことです。
  • NPC(ノートPC)は、電源ケーブルを抜いてもバッテリで動き続けます。そのため、バッテリも外します。

※出典:平成31年度春期 情報セキュリティマネジメント試験 午後 問1 設問2(4)(一部改変)