マナビング情報セキュリティマネジメント

アカウント乗っ取りの影響範囲をGCの参加者から絞り込む

情報セキュリティマネジメント試験 令和元年度秋期 午後 問18 / セキュリティ › 情報セキュリティ管理

過去問にチャレンジ

令和元年度秋期 午後 問18

問問2の共通の文

アカウント乗っ取りによる情報セキュリティインシデントに関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 P社は,従業員数300名の食品メーカーである。東京に本社があり,関東に営業所と工場が点在している。本社には,製造部,流通管理部,営業部,情報システム部などがある。営業所は,営業部の管轄であり,担当地域の取引店への営業,配送管理などを担当している。Q県を担当するR営業所には,所長と副所長のほかに,15名の営業担当者,2名の流通担当者,2名の事務担当者が配置されている。 P社では,最高情報セキュリティ責任者(CISO)を委員長とする情報セキュリティ委員会(以下,P社委員会という)を設置し,情報セキュリティポリシー及び情報セキュリティ関連規程を整備している。P社委員会の事務局は,情報システム部が担当し,情報システム部のL課長が情報セキュリティインシデント(以下,インシデントという)発生時のインシデント対応責任者を務めている。さらに,本社の各部の部長,各営業所の所長,及び各工場の工場長は,P社委員会の委員,及び自部署における情報セキュリティ責任者を務めている。各情報セキュリティ責任者は,自部署の情報セキュリティを確保,維持及び改善する役割を担っており,自部署の情報セキュリティに関わる実務を担当する情報セキュリティリーダーを選任している。R営業所の情報セキュリティ責任者はA所長であり,情報セキュリティリーダーはB副所長である。 P社では,全従業員が基盤情報システムを利用して日々の業務を行っている。基盤情報システムは,サーバ,ネットワーク及び各従業員に貸与される端末から構成され,設定と運用管理は,情報システム部が行っている。貸与される端末にはノートPC(以下,NPCという),デスクトップPC(以下,DPCという),及びスマートフォン(以下,スマホという)がある。図1にサーバの概要を,表1に端末の概要を示す。

図1 基盤情報システムのサーバの概要(抜粋)
表1 基盤情報システムの端末の概要(抜粋)と注1

〔チャットサービス〕 P社では,製造した食品の取引店への配送を,配送業者に委託している。交通事情などによって配送が遅延する場合,配送業者は,各営業所の流通担当者に電子メール(以下,電子メールをメールという)で連絡する。配送業者から連絡を受けた流通担当者は,メールで営業担当者に連絡し,営業担当者が各顧客に連絡している。 R営業所が担当する地域では,交通事情による遅延の頻度が高いので,流通担当者が営業担当者にメールを見たかどうかを電話で確認することも多く,連絡の煩雑さが問題となっている。R営業所の流通担当者であるKさんは,この問題を解決するために,V社が提供しているSaaS形式のチャットサービス(以下,Vサービスという)を配送の連絡に利用すること,及び業務効率化のためにVサービスをR営業所におけるその他の連絡にも利用することをA所長に提案した。A所長はこの提案をP社委員会に諮り,承認を得た。Vサービスのサービス仕様を図2に示す。

図2 Vサービスのサービス仕様(抜粋)1〜3
図2 Vサービスのサービス仕様(抜粋)続き・4

B副所長は,A所長の指示を受け,図3に示すR営業所でのVサービスの利用ルール(以下,Vサービス利用ルールという)を策定した。

図3 Vサービス利用ルール(抜粋)

A所長は,Vサービスの利用開始をB副所長に指示した。B副所長は,VサービスでR営業所用のWSを作成し,R営業所の全従業員をWSに参加させ,自身のほか事務担当者だけにWSの管理者権限を付与した。また,表2に示すGCを作成した上で,R営業所の全従業員に,Vサービス利用ルールを周知した。次に,R営業所の全てのNPC,DPC及びスマホのWebブラウザのブックマークにVサービスのURLを登録してもらった上で,6月1日に利用を開始した。

表2 R営業所で利用するGC

〔インシデント発生〕 7月3日の15時5分,B副所長のもとにKさんが報告に来た。報告内容は次のとおりであった。 営業担当者であるDさんから,表3に示すGCメッセージが送られてきた。不審に思ったので,Dさん本人が送信したGCメッセージであるかどうかを同日15時に①Dさんに電話で確認したところ,本日は,社外研修を受講しており,当該GCメッセージは送信していないとの回答であった。

表3 Dさんのアカウントから送信されたGCメッセージ

B副所長は,Dさんになりすました何者か(以下,なりすまし者という)がDさんのアカウントに不正にログインしたおそれがあると考え,A所長に報告した。 報告を受けたA所長は,インシデントの発生を宣言し,VサービスのGCを利用しないようR営業所の全従業員に通知するとともに,このインシデントについてCISO及びL課長に報告した。B副所長はL課長と協力し,②被害拡大の防止策を実施した。 〔被害状況の把握と影響範囲の調査〕 次は,インシデントの被害状況と影響範囲に関するL課長とB副所長の会話である。 L課長: 表3のGCメッセージ中のURL(以下,URL-Pという)はVサービスのURLではありません。悪意のあるサイトのURLと考えられるので,URL-Pへのアクセスの成功が記録されている可能性のある[a]のログについて調査しましたが,該当する記録はありませんでした。[a]のログだけでは確認できないので,③R営業所の従業員のうち,必要がある者に対してURL-Pにアクセスしたかどうかをヒアリングしましたが,全員がアクセスしていないという回答でした。Dさんのアカウントへの不正ログインによる情報漏えいの有無についてはどうでしたか。 B副所長: 事務担当者からの報告によると,なりすまし者がアクセスした可能性のある[b]のGCメッセージを調査した結果,P社の業務に関する情報はありましたが,会社が秘密と規定した情報(以下,秘密情報という)は含まれていませんでした。しかし,④現時点で確認可能なGCメッセージの調査だけでは十分な調査とはいえません。 L課長: [b]を利用していた利用者にヒアリングが必要ですね。ところで,GCに送信されたファイルはどうでしたか。 B副所長: 10ファイルありましたが,全てVサービス利用ルールを満たしたパスワードで保護されていました。 L課長: 今回の場合,パスワードで保護されていても,⑤なりすまし者が短時間にパスワードを入手又は特定して,ファイルの内容を閲覧できたと思われます。ファイルにはどのような情報が含まれていたのでしょうか。 B副所長: 業務に関する情報は含まれていましたが,秘密情報は含まれていませんでした。 L課長: 分かりました。調査結果をA所長及びCISOに報告しましょう。 〔原因調査〕 次は,原因に関するB副所長とL課長の会話である。 B副所長: Dさんにヒアリングしたところ,Vサービスにアクセスしてアカウントの確認をするように求めるメールがVサービスから来たので,すぐにNPCでメール中のURL(以下,URL-Rという)にアクセスし,メールアドレスとパスワードを入力したとのことでした。調べてみると,メールの時刻は7月3日11時22分でした。 L課長: URL-Rはフィッシングサイトと考えられます。URL-PとURL-Rは,DさんがURL-Rにアクセスした時点では,URLフィルタリングサービスに悪意のあるサイトのURLとして登録されていませんでした。しかし,現在は登録されていますし,フィッシング対策協議会のサイトに緊急情報として掲載されています。他の従業員が同様のメールを受信し,URL-Rにアクセスしていないかも調査します。念のため,Dさんが利用していたNPC(以下,NPC-Dという)は,証拠として保全し,詳細に調査します。詳細調査には,1週間掛かります。 B副所長: 1週間掛かると,⑥Dさんの業務に影響があります。 L課長: NPC-Dを初期化し,セキュリティ修正プログラムを適用してから,文書作成ソフトなどのアプリケーションソフトウェアを再インストールするという対応も考えられます。しかし,NPC-Dを初期化すると,⑦詳細調査に影響があります。⑧Dさんの業務への影響を軽減する策を講じれば大丈夫ですか。 B副所長: それなら大丈夫です。 〔対策の検討〕 B副所長及びL課長は,詳細調査の結果を基に,R営業所でのVサービス利用における問題点と対策を表4のように整理した。

表4 R営業所でのVサービス利用における問題点と対策(抜粋)

次は,表4に関するB副所長とL課長の会話である。 B副所長: 番号2の対策では,ログインが煩雑になり利便性が低下してしまうことを懸念しています。 L課長: それでは,[d]ことにすれば,利便性も保てます。 B副所長とL課長は,詳細調査の結果と今後の対策をA所長に報告し,承認を得た。また,A所長はP社委員会に報告し,承認を得た。その後,必要な対策を実施し,Vサービスの業務利用を再開した。今回のVサービス活用による業務効率化は,高く評価された。その後,VサービスはP社全体に導入され,業務効率向上に貢献した。

設問2〔被害状況の把握と影響範囲の調査〕について,(1)~(5)に答えよ。 (3) 本文中の[b]に入れる適切な字句を,解答群の中から選べ。

  1. ア

    GC-1,GC-2及びGC-3

  2. イ

    GC-1,GC-2及びGC-4

  3. ウ

    GC-1,GC-3及びGC-4

  4. エ

    GC-2

  5. オ

    GC-2及びGC-3

  6. カ

    GC-2,GC-3及びGC-4

  7. キ

    GC-2及びGC-4

  8. ク

    GC-3

  9. ケ

    GC-3及びGC-4

  10. コ

    GC-4

会話形式の解説

講師講師
今回は、アカウントを乗っ取られた営業担当者について、なりすまし者がアクセスできた可能性のあるGC、つまりグループチャットを選ぶ問題です。見るのは、サービス仕様の図2と、GCの参加者をまとめた表2の二つです。
受験者受験者
不審なメッセージはGC-4に送られていました。なので、まずGC-4を調べればいいと考えました。
講師講師
GC-4は確かに調査対象です。ただ、ここで問われているのはメッセージの送信先ではありません。なりすまし者が閲覧できた範囲です。図2の3.2と3.3には何と書いてありますか。
受験者受験者
利用者は自分が参加しているGCにアクセスできて、GCメッセージを閲覧できるのはそのGCの参加者だけ、とあります。
講師講師
そのとおりです。乗っ取られたアカウントで見られるのは、本人が参加しているすべてのGCです。なので、表2の参加者欄に「全従業員」か「営業担当者」が入っているGCを探せば答えが出ます。
受験者受験者
GC-2は全従業員なので入ります。GC-3は所長、副所長、営業担当者、事務担当者なので入ります。GC-4も流通担当者、営業担当者、事務担当者なので入ります。GC-2、GC-3、GC-4の三つですね。
講師講師
正解です。では、GC-1はどうでしょう。管理職用のGCですが、迷いませんでしたか。
受験者受験者
業務連絡用なので、何となく含めたくなりました。でも参加者は所長、副所長、事務担当者だけで、営業担当者は入っていません。
講師講師
はい。なので、GC-1を含む三つの組合せはどれも誤りです。しかも、どれもGC-2、GC-3、GC-4のうちどれかが抜けています。
受験者受験者
範囲が狭い選択肢も確認します。GC-2だけ、GC-4だけ、GC-3だけでは、それぞれ残りの二つが抜けます。GC-2とGC-3ではGC-4が、GC-2とGC-4ではGC-3が、GC-3とGC-4ではGC-2が抜けてしまいます。
講師講師
整理できていますね。特にGC-4を外した組合せは、不審なメッセージが送られた場所そのものを調べないことになります。それに、参加者欄が「全従業員」のGC-2は、誰のアカウントが乗っ取られても調査対象になります。
受験者受験者
影響範囲は、そのアカウントでアクセスできる範囲全部で考える、ということですね。
講師講師
そうです。実務でも、乗っ取られたアカウントの権限で届く範囲を洗い出すのが調査の基本です。試験では、メッセージが送られたGC-4だけを選ばないよう注意しましょう。なお、この後の会話で「現時点で確認可能なメッセージだけでは十分ではない」と続きます。その理由としては、図2の3.5にあるように古いメッセージが自動削除されることなどが考えられます。

まとめ

アカウントが乗っ取られた場合、情報漏えいの可能性がある範囲は、そのアカウントでアクセスできる範囲全体になります。このサービスでは、利用者がアクセス・閲覧できるのは自分が参加しているGCだけです(図2の3.2・3.3)。表2で参加者に「全従業員」か「営業担当者」を含むGCはGC-2、GC-3、GC-4なので、正解はカです。管理職用のGC-1には営業担当者が参加していないため、対象外です。不審なメッセージの送信先であるGC-4だけに絞らず、閲覧できたGCをすべて調べることが大切です。

解答・解説

正解はカです

この問題のテーマ

アカウントを乗っ取られたDさんについて、なりすまし者が見られた可能性のあるGC(グループチャット)を選ぶ問題です。表2の参加者欄と図2のサービス仕様を照らして、調べるべき範囲を絞り込みます。

解き方の考え方

最初に、図2の3.2と3.3を確認します。利用者がアクセスできるのは自分が参加しているGCだけで、GCメッセージを閲覧できるのもそのGCの参加者だけです。したがって、なりすまし者が見られた範囲は、Dさんが参加しているGCと同じになります。次に、Dさんが営業担当者であることを押さえ、表2の参加者欄に「全従業員」または「営業担当者」が入っているGCを選びます。

選択肢ごとの解説

  1. ×ア  GC-1,GC-2及びGC-3
    GC-1、GC-2、GC-3の組合せは、GC-1を含んでいる点が誤りです。管理職用のGC-1の参加者は所長・副所長・事務担当者だけで、営業担当者のDさんは入っていません。また、Dさんが参加している配送用のGC-4が抜けています。
  2. ×イ  GC-1,GC-2及びGC-4
    GC-1、GC-2、GC-4の組合せです。Dさんが参加していないGC-1を含んでいます。さらに、営業担当者が参加する営業用のGC-3が抜けているので、誤りです。
  3. ×ウ  GC-1,GC-3及びGC-4
    GC-1、GC-3、GC-4の組合せです。Dさんが参加していないGC-1を含んでいます。さらに、全従業員が参加するR営業所用のGC-2が抜けているので、誤りです。
  4. ×エ  GC-2
    GC-2だけの組合せです。Dさんは、営業用のGC-3と配送用のGC-4にも参加しています。これらも調べる必要があり、範囲が狭すぎるので誤りです。
  5. ×オ  GC-2及びGC-3
    GC-2とGC-3の組合せでは、配送用のGC-4が抜けています。表3を見ると、不審なメッセージはまさにGC-4に送られており、GC-4を調査対象から外すことはできません。
  6. ○カ  GC-2,GC-3及びGC-4
    GC-2、GC-3、GC-4の組合せです。GC-2は全従業員が参加し、GC-3とGC-4も参加者に営業担当者を含みます。そのため、営業担当者のDさんはこの三つに参加しています。なりすまし者が閲覧できたのもこの三つなので、正しいです。
  7. ×キ  GC-2及びGC-4
    GC-2とGC-4の組合せです。営業担当者も参加する営業用のGC-3が抜けています。GC-3は勤務スケジュール連絡や業務連絡に使われます。したがって誤りです。
  8. ×ク  GC-3
    GC-3だけの組合せです。全従業員が参加するGC-2と、配送用のGC-4が抜けています。したがって誤りです。
  9. ×ケ  GC-3及びGC-4
    GC-3とGC-4の組合せです。参加者欄が「全従業員」のGC-2が抜けています。このGCは、どの従業員のアカウントが乗っ取られても調査対象になります。したがって誤りです。
  10. ×コ  GC-4
    GC-4だけの組合せです。GC-4は不審なメッセージの送信先ですが、なりすまし者はDさんが参加しているGC-2とGC-3も閲覧できました。範囲が狭すぎるので、誤りです。

補足

不審なメッセージが送られたGC-4だけを答えにしないよう注意しましょう。メッセージの送信先と閲覧できる範囲は別物なので、分けて考えます。管理職用のGC-1は名前から含めたくなりますが、参加者欄に営業担当者はいません。なお、この会話の後で「現時点で確認可能なGCメッセージの調査だけでは十分ではない」と続くのは、図2の3.5により古いメッセージが自動的に削除されるためです。

POINT

  • アカウントが乗っ取られた場合、その利用者がアクセスできる範囲すべてが、情報漏えいの可能性がある範囲になります。
  • Vサービスでは、利用者がアクセス・閲覧できるのは自分が参加しているGCだけです(図2の3.2・3.3)。
  • 表2の参加者欄にある「全従業員」「営業担当者」は、乗っ取られた人の役職と照らして、参加しているGCを読み取ります。
  • 不審なメッセージが送られたGCだけでなく、乗っ取られたアカウントが閲覧できたGCをすべて調べることが、影響範囲の調査の基本です。

※出典:令和元年度秋期 情報セキュリティマネジメント試験 午後 問2 設問2(3)(一部改変)