マナビング情報セキュリティマネジメント

乗っ取り後の漏えい調査、現存メッセージだけで足りるか

情報セキュリティマネジメント試験 令和元年度秋期 午後 問19 / セキュリティ › 情報セキュリティ管理

過去問にチャレンジ

令和元年度秋期 午後 問19

問問2の共通の文

アカウント乗っ取りによる情報セキュリティインシデントに関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 P社は,従業員数300名の食品メーカーである。東京に本社があり,関東に営業所と工場が点在している。本社には,製造部,流通管理部,営業部,情報システム部などがある。営業所は,営業部の管轄であり,担当地域の取引店への営業,配送管理などを担当している。Q県を担当するR営業所には,所長と副所長のほかに,15名の営業担当者,2名の流通担当者,2名の事務担当者が配置されている。 P社では,最高情報セキュリティ責任者(CISO)を委員長とする情報セキュリティ委員会(以下,P社委員会という)を設置し,情報セキュリティポリシー及び情報セキュリティ関連規程を整備している。P社委員会の事務局は,情報システム部が担当し,情報システム部のL課長が情報セキュリティインシデント(以下,インシデントという)発生時のインシデント対応責任者を務めている。さらに,本社の各部の部長,各営業所の所長,及び各工場の工場長は,P社委員会の委員,及び自部署における情報セキュリティ責任者を務めている。各情報セキュリティ責任者は,自部署の情報セキュリティを確保,維持及び改善する役割を担っており,自部署の情報セキュリティに関わる実務を担当する情報セキュリティリーダーを選任している。R営業所の情報セキュリティ責任者はA所長であり,情報セキュリティリーダーはB副所長である。 P社では,全従業員が基盤情報システムを利用して日々の業務を行っている。基盤情報システムは,サーバ,ネットワーク及び各従業員に貸与される端末から構成され,設定と運用管理は,情報システム部が行っている。貸与される端末にはノートPC(以下,NPCという),デスクトップPC(以下,DPCという),及びスマートフォン(以下,スマホという)がある。図1にサーバの概要を,表1に端末の概要を示す。

図1 基盤情報システムのサーバの概要(抜粋)
表1 基盤情報システムの端末の概要(抜粋)と注1

〔チャットサービス〕 P社では,製造した食品の取引店への配送を,配送業者に委託している。交通事情などによって配送が遅延する場合,配送業者は,各営業所の流通担当者に電子メール(以下,電子メールをメールという)で連絡する。配送業者から連絡を受けた流通担当者は,メールで営業担当者に連絡し,営業担当者が各顧客に連絡している。 R営業所が担当する地域では,交通事情による遅延の頻度が高いので,流通担当者が営業担当者にメールを見たかどうかを電話で確認することも多く,連絡の煩雑さが問題となっている。R営業所の流通担当者であるKさんは,この問題を解決するために,V社が提供しているSaaS形式のチャットサービス(以下,Vサービスという)を配送の連絡に利用すること,及び業務効率化のためにVサービスをR営業所におけるその他の連絡にも利用することをA所長に提案した。A所長はこの提案をP社委員会に諮り,承認を得た。Vサービスのサービス仕様を図2に示す。

図2 Vサービスのサービス仕様(抜粋)1〜3
図2 Vサービスのサービス仕様(抜粋)続き・4

B副所長は,A所長の指示を受け,図3に示すR営業所でのVサービスの利用ルール(以下,Vサービス利用ルールという)を策定した。

図3 Vサービス利用ルール(抜粋)

A所長は,Vサービスの利用開始をB副所長に指示した。B副所長は,VサービスでR営業所用のWSを作成し,R営業所の全従業員をWSに参加させ,自身のほか事務担当者だけにWSの管理者権限を付与した。また,表2に示すGCを作成した上で,R営業所の全従業員に,Vサービス利用ルールを周知した。次に,R営業所の全てのNPC,DPC及びスマホのWebブラウザのブックマークにVサービスのURLを登録してもらった上で,6月1日に利用を開始した。

表2 R営業所で利用するGC

〔インシデント発生〕 7月3日の15時5分,B副所長のもとにKさんが報告に来た。報告内容は次のとおりであった。 営業担当者であるDさんから,表3に示すGCメッセージが送られてきた。不審に思ったので,Dさん本人が送信したGCメッセージであるかどうかを同日15時に①Dさんに電話で確認したところ,本日は,社外研修を受講しており,当該GCメッセージは送信していないとの回答であった。

表3 Dさんのアカウントから送信されたGCメッセージ

B副所長は,Dさんになりすました何者か(以下,なりすまし者という)がDさんのアカウントに不正にログインしたおそれがあると考え,A所長に報告した。 報告を受けたA所長は,インシデントの発生を宣言し,VサービスのGCを利用しないようR営業所の全従業員に通知するとともに,このインシデントについてCISO及びL課長に報告した。B副所長はL課長と協力し,②被害拡大の防止策を実施した。 〔被害状況の把握と影響範囲の調査〕 次は,インシデントの被害状況と影響範囲に関するL課長とB副所長の会話である。 L課長: 表3のGCメッセージ中のURL(以下,URL-Pという)はVサービスのURLではありません。悪意のあるサイトのURLと考えられるので,URL-Pへのアクセスの成功が記録されている可能性のある[a]のログについて調査しましたが,該当する記録はありませんでした。[a]のログだけでは確認できないので,③R営業所の従業員のうち,必要がある者に対してURL-Pにアクセスしたかどうかをヒアリングしましたが,全員がアクセスしていないという回答でした。Dさんのアカウントへの不正ログインによる情報漏えいの有無についてはどうでしたか。 B副所長: 事務担当者からの報告によると,なりすまし者がアクセスした可能性のある[b]のGCメッセージを調査した結果,P社の業務に関する情報はありましたが,会社が秘密と規定した情報(以下,秘密情報という)は含まれていませんでした。しかし,④現時点で確認可能なGCメッセージの調査だけでは十分な調査とはいえません。 L課長: [b]を利用していた利用者にヒアリングが必要ですね。ところで,GCに送信されたファイルはどうでしたか。 B副所長: 10ファイルありましたが,全てVサービス利用ルールを満たしたパスワードで保護されていました。 L課長: 今回の場合,パスワードで保護されていても,⑤なりすまし者が短時間にパスワードを入手又は特定して,ファイルの内容を閲覧できたと思われます。ファイルにはどのような情報が含まれていたのでしょうか。 B副所長: 業務に関する情報は含まれていましたが,秘密情報は含まれていませんでした。 L課長: 分かりました。調査結果をA所長及びCISOに報告しましょう。 〔原因調査〕 次は,原因に関するB副所長とL課長の会話である。 B副所長: Dさんにヒアリングしたところ,Vサービスにアクセスしてアカウントの確認をするように求めるメールがVサービスから来たので,すぐにNPCでメール中のURL(以下,URL-Rという)にアクセスし,メールアドレスとパスワードを入力したとのことでした。調べてみると,メールの時刻は7月3日11時22分でした。 L課長: URL-Rはフィッシングサイトと考えられます。URL-PとURL-Rは,DさんがURL-Rにアクセスした時点では,URLフィルタリングサービスに悪意のあるサイトのURLとして登録されていませんでした。しかし,現在は登録されていますし,フィッシング対策協議会のサイトに緊急情報として掲載されています。他の従業員が同様のメールを受信し,URL-Rにアクセスしていないかも調査します。念のため,Dさんが利用していたNPC(以下,NPC-Dという)は,証拠として保全し,詳細に調査します。詳細調査には,1週間掛かります。 B副所長: 1週間掛かると,⑥Dさんの業務に影響があります。 L課長: NPC-Dを初期化し,セキュリティ修正プログラムを適用してから,文書作成ソフトなどのアプリケーションソフトウェアを再インストールするという対応も考えられます。しかし,NPC-Dを初期化すると,⑦詳細調査に影響があります。⑧Dさんの業務への影響を軽減する策を講じれば大丈夫ですか。 B副所長: それなら大丈夫です。 〔対策の検討〕 B副所長及びL課長は,詳細調査の結果を基に,R営業所でのVサービス利用における問題点と対策を表4のように整理した。

表4 R営業所でのVサービス利用における問題点と対策(抜粋)

次は,表4に関するB副所長とL課長の会話である。 B副所長: 番号2の対策では,ログインが煩雑になり利便性が低下してしまうことを懸念しています。 L課長: それでは,[d]ことにすれば,利便性も保てます。 B副所長とL課長は,詳細調査の結果と今後の対策をA所長に報告し,承認を得た。また,A所長はP社委員会に報告し,承認を得た。その後,必要な対策を実施し,Vサービスの業務利用を再開した。今回のVサービス活用による業務効率化は,高く評価された。その後,VサービスはP社全体に導入され,業務効率向上に貢献した。

設問2〔被害状況の把握と影響範囲の調査〕について,(1)~(5)に答えよ。 (4) 本文中の下線④について,十分な調査とはいえない理由はどれか。解答群のうち,最も適切なものを選べ。

  1. ア

    Dさんのアカウントでは確認できないGCメッセージがあるから

  2. イ

    URL-Pにアクセスした結果,マルウェアをダウンロードした従業員がいる可能性があるから

  3. ウ

    なりすまし者がDさんのアカウントに不正にログインした後,GCメッセージのうち秘密情報を含むものを選んで削除した可能性があるから

  4. エ

    なりすまし者がDさんのアカウントに不正にログインしていた間は閲覧可能であったが,その後に削除されたGCメッセージがあった可能性があるから

  5. オ

    表3に示すGCメッセージを閲覧していない従業員がいるから

会話形式の解説

講師講師
今回は、アカウントを乗っ取られた後の情報漏えい調査がテーマです。注目するのは「なりすまし者が見られたもの」と「今、調査で確認できるもの」が同じかどうかです。チャットサービスの仕様をまとめた図2と合わせて考えましょう。
受験者受験者
本文では、今あるGCメッセージを調べたら秘密情報はなかったとあります。それでも足りない理由ということは、調べられていないメッセージがあるということでしょうか。
講師講師
そのとおりです。図2の3.5を見てください。GCメッセージは、GC(グループチャット)ごとに直近1,000件だけが保存され、それより古いものは自動的に削除されます。
受験者受験者
なるほど。不正ログインされた時点では残っていて見られたメッセージが、調査の時点ではもう消えている可能性があるのですね。
講師講師
はい。「不正ログイン中は閲覧できたが、その後に削除されたメッセージがあった可能性がある」という選択肢が、このずれを説明しています。消えたメッセージに秘密情報があったかどうかは、今残っているデータからは分かりません。だからこれが正解です。
受験者受験者
私は「なりすまし者が秘密情報を含むメッセージを選んで削除した」という選択肢にも惹かれました。攻撃者が証拠を消すのは、よくある話だと思ったので。
講師講師
一般論としてはもっともらしいですね。ただ、図2の3.6では、GCメッセージを削除できるのはWS管理者、つまりワークスペースの管理者権限を持つ利用者だけです。本文によると、管理者権限があるのはB副所長と事務担当者だけで、Dさんは含まれません。Dさんのアカウントでは削除できないので、本文の設定と合いません。
受験者受験者
仕様と権限設定で判断するのですね。では「Dさんのアカウントでは確認できないメッセージがある」という選択肢はどうでしょうか。確認できないものがあるなら、調査は不十分に思えます。
講師講師
Dさんのアカウントで見られないメッセージは、そのアカウントを使うなりすまし者にも見られません。たとえば表2の管理職用のGCには、営業担当者であるDさんは参加していません。漏えいを調べる対象にはならないので、調査が不十分な理由にはなりません。
受験者受験者
残りの、マルウェアをダウンロードした従業員がいるかもしれないという選択肢と、表3のメッセージを見ていない従業員がいるという選択肢は、話がずれている気がします。
講師講師
そのとおりです。マルウェアの件は、URL-Pへのアクセスに関する別の調査です。表3のメッセージを読んでいない人がいるかどうかも、なりすまし者が過去のメッセージを見たかどうかとは関係ありません。どちらも、現存メッセージの調査だけでは足りない理由の説明になっていません。
受験者受験者
整理すると、なりすまし者が見られた範囲と、今調べられる範囲がずれる原因は、保存件数の上限による自動削除だということですね。
講師講師
はい。「今あるデータに秘密情報がない」ことは「漏えいがなかった」ことの証明になりません。本文で、利用者へのヒアリングが必要だとされたのも、削除されたメッセージに秘密情報が含まれていなかったかを確かめるためです。午後問題では、選択肢を一般論で判断せず、サービス仕様や権限の記述と照らし合わせる習慣をつけましょう。

まとめ

アカウント乗っ取りの漏えい調査では、攻撃者が見られた範囲と、調査の時点で確認できる範囲が一致しているかを確かめる必要があります。この問題のチャットサービスは、GCごとに直近1,000件のメッセージだけを保存し、古いものは自動で削除します。そのため、不正ログイン中は閲覧できたのに、調査時にはもう消えているメッセージがあり得ます。これが正解の根拠です。攻撃者が秘密情報を選んで削除したという選択肢は、削除できるのはWS管理者だけで、Dさんには管理者権限がないという本文の設定と矛盾します。

解答・解説

正解はエです

この問題のテーマ

アカウントが乗っ取られたとき、今残っているGCメッセージを調べるだけでは情報漏えいの有無を判断しきれない理由を問う問題です。手がかりは、図2にあるVサービスの保存仕様です。

解き方の考え方

まず「なりすまし者が見られたもの」と「今調べられるもの」が一致しているかを考えます。図2の3.5によると、GCメッセージはGCごとに直近1,000件だけが保存され、それより古いものは自動で削除されます。そのため、不正ログインの時点では閲覧できたのに、調査の時点ではもう消えているメッセージがあり得ます。このずれを説明している選択肢を選びます。

選択肢ごとの解説

  1. ×ア  Dさんのアカウントでは確認できないGCメッセージがあるから
    Dさんのアカウントでは確認できないGCメッセージがある、という説明です。しかし、Dさんのアカウントで見られないメッセージは、なりすまし者にも見られません。漏えいの調査対象にはならないので、調査が不十分な理由にはなりません。
  2. ×イ  URL-Pにアクセスした結果,マルウェアをダウンロードした従業員がいる可能性があるから
    URL-Pにアクセスしてマルウェアをダウンロードした従業員がいるかもしれない、という説明です。これはURL-Pへのアクセスに関する別の調査事項です。Dさんのアカウントからの情報漏えいを調べる際に、現存メッセージだけでは足りない理由にはなりません。
  3. ×ウ  なりすまし者がDさんのアカウントに不正にログインした後,GCメッセージのうち秘密情報を含むものを選んで削除した可能性があるから
    なりすまし者が秘密情報を含むメッセージを選んで削除した、という説明です。図2の3.6では、メッセージを削除できるのはWS管理者だけです。WS管理者はB副所長と事務担当者だけで、Dさんは含まれません。したがって、Dさんのアカウントでは削除できません。
  4. ○エ  なりすまし者がDさんのアカウントに不正にログインしていた間は閲覧可能であったが,その後に削除されたGCメッセージがあった可能性があるから
    不正ログイン中は閲覧できたが、その後に削除されたメッセージがあり得る、という説明です。図2の3.5のとおり、直近1,000件を超えた古いメッセージは自動で削除されます。そのため、閲覧された時点で秘密情報があっても、今は残っていない可能性があります。現存分だけでは漏えいがなかったと断定できないので、これが正解です。
  5. ×オ  表3に示すGCメッセージを閲覧していない従業員がいるから
    表3のメッセージを読んでいない従業員がいる、という説明です。これは、なりすまし者が過去のメッセージを閲覧したかどうかとは関係ありません。漏えい調査が不十分な理由にはなりません。

補足

ウは「攻撃者が証拠を隠滅した」というもっともらしい筋書きですが、本文の権限設定と矛盾します。午後問題では、選択肢を一般論で判断せず、サービス仕様や運用ルールの記述と照らし合わせることが大切です。この問題で、B副所長と事務担当者が利用者へのヒアリングを必要としたのも、消えたメッセージの内容を記憶から補うためです。

POINT

  • 漏えい調査では、攻撃者が見られた範囲と、調査時に確認できる範囲が一致しているかを確かめます。
  • 保存件数の上限による自動削除があると、過去に閲覧可能だった情報が証拠として残らないことがあります。
  • メッセージの削除権限が誰にあるかは、本文の仕様(ここではWS管理者だけ)で判断します。
  • 「現存データに秘密情報がない」ことは、「漏えいがなかった」ことの証明にはなりません。

※出典:令和元年度秋期 情報セキュリティマネジメント試験 午後 問2 設問2(4)(一部改変)