マナビング情報セキュリティマネジメント

追加認証を残したまま利便性を保つ設定をどう選ぶか

情報セキュリティマネジメント試験 令和元年度秋期 午後 問23 / セキュリティ › 情報セキュリティ対策

過去問にチャレンジ

令和元年度秋期 午後 問23

問問2の共通の文

アカウント乗っ取りによる情報セキュリティインシデントに関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 P社は,従業員数300名の食品メーカーである。東京に本社があり,関東に営業所と工場が点在している。本社には,製造部,流通管理部,営業部,情報システム部などがある。営業所は,営業部の管轄であり,担当地域の取引店への営業,配送管理などを担当している。Q県を担当するR営業所には,所長と副所長のほかに,15名の営業担当者,2名の流通担当者,2名の事務担当者が配置されている。 P社では,最高情報セキュリティ責任者(CISO)を委員長とする情報セキュリティ委員会(以下,P社委員会という)を設置し,情報セキュリティポリシー及び情報セキュリティ関連規程を整備している。P社委員会の事務局は,情報システム部が担当し,情報システム部のL課長が情報セキュリティインシデント(以下,インシデントという)発生時のインシデント対応責任者を務めている。さらに,本社の各部の部長,各営業所の所長,及び各工場の工場長は,P社委員会の委員,及び自部署における情報セキュリティ責任者を務めている。各情報セキュリティ責任者は,自部署の情報セキュリティを確保,維持及び改善する役割を担っており,自部署の情報セキュリティに関わる実務を担当する情報セキュリティリーダーを選任している。R営業所の情報セキュリティ責任者はA所長であり,情報セキュリティリーダーはB副所長である。 P社では,全従業員が基盤情報システムを利用して日々の業務を行っている。基盤情報システムは,サーバ,ネットワーク及び各従業員に貸与される端末から構成され,設定と運用管理は,情報システム部が行っている。貸与される端末にはノートPC(以下,NPCという),デスクトップPC(以下,DPCという),及びスマートフォン(以下,スマホという)がある。図1にサーバの概要を,表1に端末の概要を示す。

図1 基盤情報システムのサーバの概要(抜粋)
表1 基盤情報システムの端末の概要(抜粋)と注1

〔チャットサービス〕 P社では,製造した食品の取引店への配送を,配送業者に委託している。交通事情などによって配送が遅延する場合,配送業者は,各営業所の流通担当者に電子メール(以下,電子メールをメールという)で連絡する。配送業者から連絡を受けた流通担当者は,メールで営業担当者に連絡し,営業担当者が各顧客に連絡している。 R営業所が担当する地域では,交通事情による遅延の頻度が高いので,流通担当者が営業担当者にメールを見たかどうかを電話で確認することも多く,連絡の煩雑さが問題となっている。R営業所の流通担当者であるKさんは,この問題を解決するために,V社が提供しているSaaS形式のチャットサービス(以下,Vサービスという)を配送の連絡に利用すること,及び業務効率化のためにVサービスをR営業所におけるその他の連絡にも利用することをA所長に提案した。A所長はこの提案をP社委員会に諮り,承認を得た。Vサービスのサービス仕様を図2に示す。

図2 Vサービスのサービス仕様(抜粋)1〜3
図2 Vサービスのサービス仕様(抜粋)続き・4

B副所長は,A所長の指示を受け,図3に示すR営業所でのVサービスの利用ルール(以下,Vサービス利用ルールという)を策定した。

図3 Vサービス利用ルール(抜粋)

A所長は,Vサービスの利用開始をB副所長に指示した。B副所長は,VサービスでR営業所用のWSを作成し,R営業所の全従業員をWSに参加させ,自身のほか事務担当者だけにWSの管理者権限を付与した。また,表2に示すGCを作成した上で,R営業所の全従業員に,Vサービス利用ルールを周知した。次に,R営業所の全てのNPC,DPC及びスマホのWebブラウザのブックマークにVサービスのURLを登録してもらった上で,6月1日に利用を開始した。

表2 R営業所で利用するGC

〔インシデント発生〕 7月3日の15時5分,B副所長のもとにKさんが報告に来た。報告内容は次のとおりであった。 営業担当者であるDさんから,表3に示すGCメッセージが送られてきた。不審に思ったので,Dさん本人が送信したGCメッセージであるかどうかを同日15時に①Dさんに電話で確認したところ,本日は,社外研修を受講しており,当該GCメッセージは送信していないとの回答であった。

表3 Dさんのアカウントから送信されたGCメッセージ

B副所長は,Dさんになりすました何者か(以下,なりすまし者という)がDさんのアカウントに不正にログインしたおそれがあると考え,A所長に報告した。 報告を受けたA所長は,インシデントの発生を宣言し,VサービスのGCを利用しないようR営業所の全従業員に通知するとともに,このインシデントについてCISO及びL課長に報告した。B副所長はL課長と協力し,②被害拡大の防止策を実施した。 〔被害状況の把握と影響範囲の調査〕 次は,インシデントの被害状況と影響範囲に関するL課長とB副所長の会話である。 L課長: 表3のGCメッセージ中のURL(以下,URL-Pという)はVサービスのURLではありません。悪意のあるサイトのURLと考えられるので,URL-Pへのアクセスの成功が記録されている可能性のある[a]のログについて調査しましたが,該当する記録はありませんでした。[a]のログだけでは確認できないので,③R営業所の従業員のうち,必要がある者に対してURL-Pにアクセスしたかどうかをヒアリングしましたが,全員がアクセスしていないという回答でした。Dさんのアカウントへの不正ログインによる情報漏えいの有無についてはどうでしたか。 B副所長: 事務担当者からの報告によると,なりすまし者がアクセスした可能性のある[b]のGCメッセージを調査した結果,P社の業務に関する情報はありましたが,会社が秘密と規定した情報(以下,秘密情報という)は含まれていませんでした。しかし,④現時点で確認可能なGCメッセージの調査だけでは十分な調査とはいえません。 L課長: [b]を利用していた利用者にヒアリングが必要ですね。ところで,GCに送信されたファイルはどうでしたか。 B副所長: 10ファイルありましたが,全てVサービス利用ルールを満たしたパスワードで保護されていました。 L課長: 今回の場合,パスワードで保護されていても,⑤なりすまし者が短時間にパスワードを入手又は特定して,ファイルの内容を閲覧できたと思われます。ファイルにはどのような情報が含まれていたのでしょうか。 B副所長: 業務に関する情報は含まれていましたが,秘密情報は含まれていませんでした。 L課長: 分かりました。調査結果をA所長及びCISOに報告しましょう。 〔原因調査〕 次は,原因に関するB副所長とL課長の会話である。 B副所長: Dさんにヒアリングしたところ,Vサービスにアクセスしてアカウントの確認をするように求めるメールがVサービスから来たので,すぐにNPCでメール中のURL(以下,URL-Rという)にアクセスし,メールアドレスとパスワードを入力したとのことでした。調べてみると,メールの時刻は7月3日11時22分でした。 L課長: URL-Rはフィッシングサイトと考えられます。URL-PとURL-Rは,DさんがURL-Rにアクセスした時点では,URLフィルタリングサービスに悪意のあるサイトのURLとして登録されていませんでした。しかし,現在は登録されていますし,フィッシング対策協議会のサイトに緊急情報として掲載されています。他の従業員が同様のメールを受信し,URL-Rにアクセスしていないかも調査します。念のため,Dさんが利用していたNPC(以下,NPC-Dという)は,証拠として保全し,詳細に調査します。詳細調査には,1週間掛かります。 B副所長: 1週間掛かると,⑥Dさんの業務に影響があります。 L課長: NPC-Dを初期化し,セキュリティ修正プログラムを適用してから,文書作成ソフトなどのアプリケーションソフトウェアを再インストールするという対応も考えられます。しかし,NPC-Dを初期化すると,⑦詳細調査に影響があります。⑧Dさんの業務への影響を軽減する策を講じれば大丈夫ですか。 B副所長: それなら大丈夫です。 〔対策の検討〕 B副所長及びL課長は,詳細調査の結果を基に,R営業所でのVサービス利用における問題点と対策を表4のように整理した。

表4 R営業所でのVサービス利用における問題点と対策(抜粋)

次は,表4に関するB副所長とL課長の会話である。 B副所長: 番号2の対策では,ログインが煩雑になり利便性が低下してしまうことを懸念しています。 L課長: それでは,[d]ことにすれば,利便性も保てます。 B副所長とL課長は,詳細調査の結果と今後の対策をA所長に報告し,承認を得た。また,A所長はP社委員会に報告し,承認を得た。その後,必要な対策を実施し,Vサービスの業務利用を再開した。今回のVサービス活用による業務効率化は,高く評価された。その後,VサービスはP社全体に導入され,業務効率向上に貢献した。

設問4〔対策の検討〕について,(1),(2)に答えよ。 (2) 本文中の[d]に入れる字句はどれか。解答群のうち,最も適切なものを選べ。

  1. ア

    P社内でフィッシング対策についての従業員研修を行い,研修を終えた従業員は,V認証機能を無効のままにできるようVサービス利用ルールを更新する

  2. イ

    R営業所の全従業員についてV認証機能及びV省略機能を有効にする

  3. ウ

    R営業所の全従業員についてV認証機能を有効にし,Vサービスのパスワードの長さを32文字以上に設定した従業員だけ,V省略機能を有効にする

  4. エ

    Vサービスのパスワードを30日ごとに変更するようVサービス利用ルールに定め,V認証機能を有効にしない

  5. オ

    Vサービス利用ルールを満たしたパスワードを利用しているか,ツールによって確認し,満たしている従業員は,V認証機能を無効にする

会話形式の解説

講師講師
この設問では、Vサービスの追加認証を残したまま、ログインの面倒さをどう減らすかを選びます。表4の番号2にある「V認証機能を有効にする」という対策が前提で、手がかりは図2の4.5です。
受験者受験者
V認証機能は、パスワードに加えてSMSかメールで届く6桁の数字を入力する仕組みですよね。毎回入力するのは確かに面倒そうです。それなら、パスワードを強くした人だけでも追加認証を外せば楽になる気がします。
講師講師
そこが落とし穴です。まず、今回の原因は何だったか、思い出してみてください。
受験者受験者
フィッシングでした。偽のサイトにメールアドレスとパスワードを入力してしまったのが原因です。
講師講師
そうです。フィッシングで偽サイトに入力すれば、どれほど強いパスワードでもそのまま盗まれます。ツールでルールに合ったパスワードだと確認できた人は追加認証を無効にする案も、研修を終えた人は無効のままでよいとする案も、追加認証を外してしまいます。研修を受けても、精巧なフィッシングメールにだまされる可能性はなくなりません。どちらも番号2の対策を崩すことになります。
受験者受験者
30日ごとにパスワードを変える案はどうでしょうか。盗まれても、いずれ使えなくなりそうです。
講師講師
盗まれてから次に変更するまでの間は、そのパスワードでログインできてしまいます。本文では、フィッシングメールが届いたのが11時22分で、約2時間後の13時35分にはなりすましの投稿がされています。しかもこの案は追加認証を有効にしないので、番号2の対策にもなっていません。
受験者受験者
では、追加認証は全員有効にして、パスワードを32文字以上にした人だけ省略機能を使える案はどうですか。番号2は守っていますよね。
講師講師
はい、V認証機能を有効にしている点では番号2を満たしています。ただ、32文字のパスワードでも偽サイトに入力すれば盗まれます。パスワードの長さで省略してよいかどうかを分ける合理的な理由がありません。
受験者受験者
そうすると、全員について追加認証と省略機能の両方を有効にする案が残ります。省略機能を使っても安全なのでしょうか。
講師講師
図2の4.5を見ると、V省略機能はV認証機能を有効にしたときだけ使えます。省略できるのは、同じ端末での2度目以降のログインだけで、期間は30日間です。初めて使う端末では6桁の数字の入力が必要なので、パスワードだけを盗んだ攻撃者は自分の端末からログインできません。
受験者受験者
利用者はいつもの端末なら手間が減り、攻撃者は追加認証を突破できないということですね。安全性と利便性を両方満たすのは、この案だけだと分かりました。
講師講師
その理解で大丈夫です。補足すると、初めて使う端末かどうかは、スマホの端末識別番号か、ログイン時に発行されるCookieの有無で判断されます。安全性と利便性の両立を問われたら、まず対策の中心となる機能を外していない選択肢に絞り込むと解きやすくなります。

まとめ

この問題では、フィッシングによるアカウント乗っ取りへの対策としてV認証機能(追加認証)を有効にしたうえで、ログインの手間を減らす方法を選びます。パスワードがどれほど強くても、定期的に変えていても、偽サイトに入力すれば盗まれます。そのため、パスワードの強さや研修を理由に追加認証を外す案は適切ではありません。正しいのは、全従業員について追加認証とV省略機能をそろって有効にする案です。初めて使う端末では追加認証が必要なまま、同じ端末での2度目以降のログインでは追加認証を30日間省略できます。

解答・解説

正解はイです

この問題のテーマ

追加認証で不正ログインを防ぐという表4番号2の対策を守りつつ、「ログインが煩雑になる」という懸念に応える設定を、図2のVサービスの仕様から選ぶ問題です。

解き方の考え方

まず、空欄dに入れる内容が満たす条件を2つ確かめます。1つは、表4番号2の「V認証機能を有効にする」という対策を崩さないこと。もう1つは、利便性を保つことです。次に、図2の4.5を読みます。V認証機能を有効にした場合だけ使えるV省略機能があり、同じ端末での2度目以降のログインでは追加認証を30日間省略できます。したがって、2つの条件を両方満たすのは、V認証機能とV省略機能をそろって有効にする選択肢だけです。なお、V認証機能を無効にする選択肢は、最初の条件に反するので先に外せます。

選択肢ごとの解説

  1. ×ア  P社内でフィッシング対策についての従業員研修を行い,研修を終えた従業員は,V認証機能を無効のままにできるようVサービス利用ルールを更新する
    研修を終えた従業員にV認証機能の無効を認める案です。研修を受けても、精巧なフィッシングメールにだまされる可能性はなくなりません。追加認証がなければ、盗まれたパスワードだけでログインされてしまうため、表4番号2の対策を崩すことになります。
  2. ○イ  R営業所の全従業員についてV認証機能及びV省略機能を有効にする
    全従業員についてV認証機能とV省略機能を有効にする案です。初めて使う端末では、SMSかメールで届く6桁の数字の入力が引き続き必要なので、パスワードだけを盗んだ攻撃者によるログインを防げます。一方、すでに認証を済ませた同じ端末では、2度目以降の追加認証を30日間省略できるため、利便性も保てます。
  3. ×ウ  R営業所の全従業員についてV認証機能を有効にし,Vサービスのパスワードの長さを32文字以上に設定した従業員だけ,V省略機能を有効にする
    パスワードを32文字以上にした人だけにV省略機能を認める案です。どれほど長いパスワードでも、偽サイトに入力すればそのまま盗まれます。今回の原因はフィッシングであり、パスワードの長さで省略の可否を分ける合理的な理由がありません。
  4. ×エ  Vサービスのパスワードを30日ごとに変更するようVサービス利用ルールに定め,V認証機能を有効にしない
    30日ごとにパスワードを変更させ、V認証機能は有効にしない案です。定期的に変更しても、盗まれてから次に変更するまでの間は、そのパスワードでログインされてしまいます。今回も、フィッシングに遭ってから数時間でなりすましの投稿がされています。V認証機能を使わないので、表4番号2の対策にもなっていません。
  5. ×オ  Vサービス利用ルールを満たしたパスワードを利用しているか,ツールによって確認し,満たしている従業員は,V認証機能を無効にする
    ツールでルールに合ったパスワードだと確認できた人については、V認証機能を無効にする案です。ルールを満たす強いパスワードでも、フィッシングで入力してしまえば盗まれます。パスワードの強さを理由に追加認証を不要にすることはできません。

補足

研修やパスワードの強化を条件に追加認証を外すアやオのような案は、もっともらしく見えるため引っかけになりやすい選択肢です。図2では、初めて使う端末かどうかを、スマホの端末識別番号やログイン時に発行されるCookieの有無で判断するとされています。V省略機能で省けるのは、こうして判断された「同じ端末」での追加認証だけです。

POINT

  • パスワードが強いか、定期的に変えているかに関係なく、偽サイトに入力すればパスワードは盗まれます。
  • V認証機能を有効にすると、初めて使う端末ではSMSかメールで届く6桁の数字の入力も必要になるため、パスワードだけを盗んだ攻撃者による不正ログインを防げます。
  • V省略機能はV認証機能を有効にしている場合だけ使え、同じ端末での2度目以降のログインでは追加認証を30日間省略できます。
  • 安全性と利便性を両立させる問題では、まず対策の中心となる機能を外していない選択肢に絞り込むのが近道です。

※出典:令和元年度秋期 情報セキュリティマネジメント試験 午後 問2 設問4(2)(一部改変)