マナビング情報セキュリティマネジメント

リスクの回避と移転の違いを、案1と案2の比較から読み解く

情報セキュリティマネジメント試験 令和元年度秋期 午後 問26 / セキュリティ › 情報セキュリティ管理

過去問にチャレンジ

令和元年度秋期 午後 問26

問問3の共通の文

業務委託先への情報セキュリティ要求事項に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 X社は,携帯通信事業者から通信回線設備を借り受け,データ通信サービス及び通話サービス(以下,両サービスを併せてXサービスという)を提供している従業員数70名の企業である。X社には,法務部,サービスマーケティング部,情報システム部,利用者サポート部(以下,利用者サポート部をUS部という)などがある。X社では,最高情報セキュリティ責任者(CISO)を委員長とした情報セキュリティ委員会(以下,X社委員会という)を設置している。X社委員会では,情報セキュリティ管理規程の整備,情報セキュリティ対策の強化などが審議される。X社委員会の事務局長はUS部のS部長である。各部の部長は,X社委員会の委員及び自部における情報セキュリティ責任者を務め,自部の情報セキュリティに関わる実務を担当する情報セキュリティリーダーを選任している。US部の情報セキュリティリーダーはG課長である。 US部には,25名の従業員が所属している。主な業務は,Xサービスを利用している顧客,及びXサービスへの新規の申込みを検討している潜在顧客(以下,Xサービスを利用している顧客及び潜在顧客を併せてX顧客という)からの問合せへの対応業務(以下,X業務という)である。 〔US部が利用しているコールセンタ用サービスの概要〕 US部では,X業務を遂行するためにクラウドサービスプロバイダN社のSaaSのコールセンタ用サービス(以下,Nサービスという)を利用している。NサービスはISMS認証及びISMSクラウドセキュリティ認証を取得している。Nサービスには,会社から貸与されたPCのWebブラウザから,暗号化された通信プロトコルである[a]を使ってアクセスする。Nサービスは,図1の基本機能及びセキュリティ機能を提供している。

図1 Nサービスの基本機能及びセキュリティ機能

Nサービスのデータベース(以下,NDBという)に,氏名,年齢,住所,利用中のサービスプラン,問合せ対応記録その他のX顧客に関する情報(以下,X情報という)は暗号化されて,また,検索用キーは平文で保存されている。①X情報は,US部の従業員に貸与しているPCにだけ格納した暗号鍵を用いて,US部の従業員が復号できる仕組みになっている。PCへのログインには利用者IDとパスワードが必要である。 X社では,Nサービスのセキュリティ機能のうち手動実行機能は,管理者アカウントをもつUS部の特定の従業員だけが実行できる。X社利用分の監査ログは,X社の情報システム部が常時監視している。 US部では,業務効率化の一環として,2019年10月にX業務の3割を外部に委託し,残りの業務は継続してNサービスを利用しながらUS部内で遂行することにした。その委託先の第一候補がY社である。Y社を選んだ理由は,次の2点である。 他の候補と比較してサービス内容に遜色がなく,しかも低価格であること秘密保持契約を締結した上で,業務委託に関わる範囲を対象とした,情報セキュリティ対策の評価に協力してくれること 〔Y社の概要〕 Y社は,次のコールセンタサービス(以下,Yサービスという)を提供する従業員数200名の企業である。 委託元に代わって顧客からの製品やサービスに関する様々な問合せや苦情などを受け付ける。委託元の製品やサービスの評判を新聞,雑誌などのメディア,インターネット上のSNS,掲示板などを基に調査し,委託元に報告する。著作物を複製する場合は,著作権者の許諾を得て行う。 Y社はコールセンタシステム(以下,Yシステムという)を構築し,通常はそれを利用してYサービスを提供している。 Y社の組織の主な業務及び体制を表1に示す。

表1 Y社の組織の主な業務及び体制(抜粋)、注記・注1

Y社は,従業員を対象に,原則4月及び10月の1日に社内の定期人事異動がある。また,これらの時期以外でも組織再編,業務の見直しなどの理由で人事異動がある。Y-CS部のパートタイマは,1年間で約2割が退職する。人事総務部は,欠員補充のために,ほぼ同数を新規に採用している。 〔Y社の情報セキュリティ対策〕 Y社は,東京都内の7階建てビルの3~5階に入居しており,他の階には別の企業が入居している。ビルの出入りは誰でも可能であり,階段やエレベータを使用して,各階に移動できる。Y社の入退管理を図2に示す。

図2 Y社の入退管理

3階はY-CS部の,また,4階及び5階は他部の業務エリアである。 Y-CS部の管理職及び一般従業員は,5階の会議室で営業部の従業員と会議をすることが多いので,3階及び5階への入室権限が与えられている。 3~5階には,複合機が2台ずつ設置されており,コピー,プリント,スキャンの機能が使用できる。Y-CS部はスキャンの機能を使用して,新聞,雑誌などに紹介された委託元の製品やサービスに関する記事をPDF化し,委託元に報告している。スキャンしたPDFファイルは電子メール(以下,電子メールをメールという)にパスワードなしで添付されて,スキャンを実行した本人だけに送信される。PDFファイルの容量が大きい場合は,PDFファイルを添付する代わりにプリントサーバ内の共有フォルダに自動的に保存され,保存先のURLがメールの本文に記載されて送信される。その際,メールの送信者名,件名,本文及び添付ファイル名の命名規則などは,複合機の初期設定のまま使用している。そのため,誰がスキャンを実行しても,メールの送信者名などは同じになる。複合機のマニュアルはインターネットに掲載されている。 管理職にはデスクトップPC及びノートPCが,その他の従業員にはデスクトップPCが貸与されている。ノートPCは,社内会議での資料のプロジェクタによる投影,在宅での資料作成などに利用する。Y社が貸与しているPC(以下,Y-PCという)の仕様及び利用状況を表2に示す。

表2 Y-PCの仕様及び利用状況(抜粋)

プロキシサーバには次の機能があるが,現在は使用していない。 指定されたURLへのアクセスを許可又は禁止する機能(以下,プロキシ制御機能という)利用者ID及びパスワードによる認証機能(以下,利用者認証機能という) プロキシサーバのログ(以下,プロキシログという)はログサーバに転送され,3か月間保存される。プロキシログは,ネットワーク障害,不審な通信などの原因を調査する場合に利用する。プロキシログには,アクセス日時及びアクセス先IPアドレスが記録されるが,利用者認証機能を使用すると,Webサイトにアクセスした従業員の利用者IDも記録される。 VPNサーバにはパケットフィルタリングの機能及びあらかじめ設定したドメインへの通信を禁止する機能(以下,両機能を併せてVPN制御機能という)があるが,現在は使用していない。 〔Y社からの提案〕 Y社がX業務に利用するシステム又はサービスは表3に示す2案がある。X社から特段の要求がなければ,Y社は案1を採用する。

表3 Y社がX業務に利用するシステム又はサービス

〔X社委員会における案1及び案2の検討〕 X社委員会は,案2では,案1のもつ[b]できるので,案2の採否について議論した。X社委員会では,業務委託後の残留リスクを受容できると判断できた場合は,Y社に委託することにした。そこで,CISOは,業務委託に関わる範囲を対象としてY社の情報セキュリティ対策を確認し,X社委員会に報告するようS部長に指示した。 S部長は,G課長にY社の情報セキュリティ対策を確認して報告するよう指示した。S部長は,情報システム部に技術面での協力を依頼し,同部のH主任がG課長に協力することになった。 〔X社の情報セキュリティ要求事項と評価〕 G課長とH主任は,自社の情報セキュリティ管理規程を基に,X業務の外部への委託における情報セキュリティ要求事項(以下,X要求事項という)を取りまとめた。 X社とY社間で秘密保持契約を締結した後,G課長は,Y社を訪問した。G課長はY社の承諾を得た上で,X要求事項を基に,Y-CS部従業員へのヒアリング及び設備状況の目視による確認などを行った。その際,T部長及びF課長に同行を依頼した。その後,表4のとおり評価結果と評価根拠をまとめてY社に事実確認を依頼したところ,"事実だ"との回答があった。評価結果は次のルールに従って記入した。 要求事項を満たす場合:"OK"要求事項を満たさない場合:"NG"

表4 X要求事項に対するY社の対策の評価結果と評価根拠(抜粋)、空欄c・d・e・下線②

〔評価結果に対する対応案の検討〕 後日,G課長はT部長とF課長に,Y社と業務委託契約をしたいと伝え,その前提として,評価結果が"NG"の要求事項への対応を依頼した。Y社はG課長に③対応案を伝えた。G課長はH主任と相談の上,対応案をS部長に報告した。 S部長が表4及び対応案をX社委員会に報告したところ,Y社にX業務を委託することが承認され,無事に業務が開始された。X社はY社への業務委託によって業務の効率化を進めることができた。

設問2本文中の[b]に入れる字句はどれか。解答群のうち,最も適切なものを選べ。

  1. ア

    X業務に従事しないY-CS部の従業員によるX情報の不正な持出しリスクを低減

  2. イ

    X業務に従事するY-CS部の従業員によるX情報の不正な持出しリスクをN社に移転

  3. ウ

    X業務に従事するY-CS部の従業員によるX情報の不正な持出しリスクを回避

  4. エ

    システム管理部の従業員によるX情報の不正な持出しリスクを回避

会話形式の解説

講師講師
今回は、Y社がX業務に使うシステムを、案1の自社のYシステムにするか、案2のNサービスにするかを比べる問題です。案2を選ぶと、どの持出しリスクにどう対応できるのかを空欄に入れます。
受験者受験者
選択肢を見ると、「低減」「移転」「回避」という言葉が並んでいます。どれも似ていて、違いがよく分かりません。
講師講師
言葉の意味はあとで確かめましょう。まずは表3で、案1と案2の違いを探します。アクセスできる従業員の欄を比べてみてください。
受験者受験者
どちらの案でも、Y-CS部の主任2名、一般従業員2名、パートタイマ4名です。人数は変わりません。案2には、主任2名が監査ログで操作履歴を確認できるという記載が加わっています。
講師講師
そうです。X業務を担当する人は、どちらの案でもX情報を扱います。では、X業務に従事しないY-CS部の従業員のリスクを低減する、という選択肢はどうでしょうか。
受験者受験者
表3に載っているのは、どちらの案でも同じ8名だけです。それ以外の従業員の扱いは両案で差がないので、案2を選ぶ理由にはならないと思います。
講師講師
そのとおりです。比較する問題では、両案で変わらない点は外し、変わる点だけに注目します。次に、X業務に従事する従業員のリスクを回避する、という選択肢を考えます。
受験者受験者
案2では監査ログで履歴を確認できるので、担当者による持出しが防げそうに見えます。これは回避にはならないのでしょうか。
講師講師
回避とは、リスクの原因そのものをなくすことです。案2でも担当者はNサービスでX情報を閲覧するので、持出しのリスクは残ります。監査ログは、リスクが残ったまま監視する仕組みです。
受験者受験者
では、Nサービスは外部のサービスなので、リスクをN社に移転する、という選択肢が正しいのでしょうか。
講師講師
移転は、保険や契約によって損失の負担を他者に移すことです。サービスを替えても、閲覧権限を持つY-CS部の従業員はX情報を扱えます。その人による持出しのリスクがN社に移るわけではありません。
受験者受験者
担当者のリスクは、どの案でも残るのですね。そうすると、両案で何が違うのでしょうか。
講師講師
違うのは、X情報を置く場所です。表1のシステム管理部の欄を見てください。Yシステムのデータベース管理や障害対応の業務に注記があり、その際にデータへアクセスすることがあると書かれています。
受験者受験者
案1ではX情報がYシステムに入るので、システム管理部の従業員もX情報に触れる可能性があります。案2ならX情報はYシステムに置かれないので、その経路がなくなります。
講師講師
そうです。経路そのものがなくなるので、リスクの「回避」と言えます。正解は、システム管理部の従業員による持出しリスクを回避する、という選択肢です。
受験者受験者
整理すると、担当者のリスクは残り、自社のシステムに情報を置かないことで、システム管理者からの漏えいの経路だけがなくなるのですね。
講師講師
はい。表の注記が決め手になることもあります。また、外部のサービスを使うと「移転」と考えたくなりますが、移転は損失の負担を移すことなので、混同しないようにしましょう。

まとめ

この問題は、業務委託先のY社がX業務に使うシステムを、自社のYシステム(案1)からNサービス(案2)に替えたときに、どの持出しリスクにどう対応できるかを問うものです。表3を見ると、アクセスできるY-CS部の従業員はどちらの案でも同じなので、担当者による持出しリスクは残り、回避も移転もされません。両案で違うのはX情報を置く場所です。表1の注記から、システム管理部はYシステムのデータベース管理などの際にデータへアクセスすることがあると分かります。案2ではX情報がYシステムに置かれず、この経路そのものがなくなるので、「システム管理部の従業員による持出しリスクを回避」が正解です。

解答・解説

正解はエです

この問題のテーマ

X業務の委託先システムを、Y社の自社システム(案1)からN社のNサービス(案2)に替えたとき、X情報の不正な持出しリスクのうち、どの従業員によるものを回避できるかを選ぶ問題です。

解き方の考え方

最初に、表3で案1と案2を並べ、違う点だけを探します。アクセスできるY-CS部の従業員は、どちらの案でも主任2名・一般従業員2名・パートタイマ4名で同じで、違うのはX情報を置く場所です。次に表1の注記を見ると、システム管理部はYシステムのデータベース管理や障害対応の際にデータへアクセスすることがあります。案2ではX情報がYシステムに置かれないので、システム管理部からの持出しの経路がなくなります。したがって、この状態を「回避」と言い表した選択肢を選びます。

選択肢ごとの解説

  1. ×ア  X業務に従事しないY-CS部の従業員によるX情報の不正な持出しリスクを低減
    X業務に従事しない従業員のリスクを低減する、という肢です。表3では、どちらの案でもアクセスできるのは主任2名・一般従業員2名・パートタイマ4名に限られ、それ以外の従業員はアクセスできません。つまり案1と案2で差がありません。したがって、案2を選ぶ理由にならず、誤りです。
  2. ×イ  X業務に従事するY-CS部の従業員によるX情報の不正な持出しリスクをN社に移転
    リスクをN社に移転する、という肢です。Nサービスを使っても、閲覧権限を持つY-CS部の従業員はX情報を扱えます。そのため、その人による持出しのリスクがN社へ移るわけではありません。したがって誤りです。
  3. ×ウ  X業務に従事するY-CS部の従業員によるX情報の不正な持出しリスクを回避
    X業務に従事する従業員のリスクを回避する、という肢です。案2でも、この従業員たちはNサービスでX情報を閲覧するので、持出しのリスクは残ります。案2の主任2名が監査ログで操作履歴を確認できる点も、リスクを残したまま監視する仕組みです。回避にはならないため、誤りです。
  4. ○エ  システム管理部の従業員によるX情報の不正な持出しリスクを回避
    システム管理部の従業員のリスクを回避する、という肢です。案1では、Yシステムのデータベースを管理するシステム管理部がX情報に触れる可能性があります。案2ではX情報がYシステムに置かれないため、その経路そのものがなくなります。したがって、エが正しいです。

補足

リスク対応には、低減、回避、移転、受容があります。外部のサービスを使うと「移転」と考えたくなりますが、移転は保険や契約によって損失の負担を他者に移すことを指します。サービスを替えただけで、自社の利用者による持出しの責任が移るわけではありません。
※情報セキュリティマネジメント試験は令和5年度から出題形式が変わり、午前・午後の区分は科目A・科目Bになりました。この問題のような中問形式の午後問題は、現在は出題されていません。

POINT

  • 選択肢の比較問題では、両案で変わらない点を除き、変わる点だけに注目します。
  • 表の注記(今回はシステム管理部がデータベースのデータにアクセスすることがあるという注)が解答の決め手になることがあります。
  • 情報を自社のシステムに置かなければ、自社のシステム管理者からの漏えい経路がなくなり、リスク回避になります。
  • 業務担当者が引き続き情報を扱う限り、担当者による持出しリスクは回避も移転もされず、残ります。

※出典:令和元年度秋期 情報セキュリティマネジメント試験 午後 問3 設問2(一部改変)