マナビング情報セキュリティマネジメント

リスト型攻撃に効く追加認証と、その特有の課題を見抜く

情報セキュリティマネジメント試験 令和元年度秋期 午後 問3 / セキュリティ › セキュリティ実装技術

過去問にチャレンジ

令和元年度秋期 午後 問3

問問1の共通の文

ECサイトの情報セキュリティの改善に関する次の記述を読んで,設問1~5に答えよ。 J社は,従業員数90名の生活雑貨販売会社であり,店舗とECサイト(以下,J社のECサイトをJサイトという)で生活雑貨を販売している。Jサイトでの販売は5年前に開始され,現在はJ社の売上の7割を占めている。Jサイトに登録されたアカウント数は現在100万を超えている。Jサイトの顧客は幅広い年齢層にわたることから,ECサイトに不慣れな顧客でも容易に利用できるように,顧客からの問合せへの対応に力を入れており,問合せをJサイトの問合せフォーム及び電話で受け付けている。Jサイトに投稿された問合せは,カスタマサポート部に電子メール(以下,電子メールをメールという)で送信される。問合せには,通常,1日以内に対応している。 J社には,総務部,商品企画部,店舗営業部,EC営業部,情報システム部,カスタマサポート部の六つの部があり,EC営業部はJサイトの利用者の管理及び商品登録(以下,サイト運営という)並びにJサイトの情報セキュリティ対策を担当している。 J社では,3年前に最高情報セキュリティ責任者(CISO)を委員長とする情報セキュリティ委員会を設置し,情報セキュリティポリシー及び情報セキュリティ関連規程を整備した。J社のCISOは副社長である。情報セキュリティ委員会の事務局は,情報システム部が担当している。また,各部の部長は,情報セキュリティ委員会の委員,及び自部における情報セキュリティ責任者を務め,自部の情報セキュリティを確保し,維持,改善する役割を担っている。各情報セキュリティ責任者は,自部の情報セキュリティに関わる実務を担当する情報セキュリティリーダーを選任している。EC営業部のCさんは,同部の情報セキュリティリーダーに任命されている。 〔Jサイトの情報セキュリティ対策〕 Jサイトはインターネットからの通信を監視・制御するためにファイアウォール(以下,FWという),IPS及びWAFを導入している。Jサイトには,次の2種類のアカウントがある。 管理者がハードウェア,OS,ミドルウェア及びアプリケーションソフトウェアの運用管理,並びにサイト運営を行う際に用いる管理用アカウント顧客がJサイトで商品を購入する際に用いる顧客用アカウント 管理用アカウントでのログインには2要素認証を実装しており,パスワード及び携帯用トークンを使った時刻同期式ワンタイムパスワードを採用している。一方,顧客用アカウントとその認証の仕様は顧客の利便性を考慮し,次のようになっている。 利用者IDとパスワードの組み(以下,利用者IDとパスワードの組みを認証情報という)を採用パスワードは8文字以上で英数字混在が必要顧客が登録している情報を確認又は変更する際には認証情報の再入力が必要新規にアカウントを登録する際に,既に使われている利用者IDを指定すると,使用されている旨を画面に表示顧客用アカウントをもっていない者でも問合せを投稿できるようにするために,問合せを投稿する際には利用者認証が不要 〔Jサイトの顧客情報〕 J社の情報セキュリティリスクアセスメントの結果では,Jサイトの顧客の個人情報が,情報セキュリティ上,J社で最も重要な情報となっている。この個人情報には,顧客の氏名,配送先住所,連絡先電話番号,認証情報,メールアドレスが含まれており,それらは,Jサイト内のデータベースに保存されている。 なお,クレジットカード番号及びクレジットカード会員名は,外部の決済サービスを用いて非保持化を実現しており,Jサイトでは取り扱っていない。 〔情報セキュリティインシデントの発生〕 2018年11月7日,カスタマサポート部からCさんに連絡があった。偽ブランド品の販売サイトと思われるサイトに誘導するメッセージ(以下,誘導メッセージという)が書かれた問合せが数万件投稿されたので,通常の問合せへの対応が遅延しているとのことだった。Cさんが情報システム部にJサイトの調査を依頼したところ,誘導メッセージ以外にも,不正アクセスと思われるログイン試行があり,既に調査を開始しているとのことだった。この一連の情報セキュリティ事象を受けて臨時の情報セキュリティ委員会が開催され,情報セキュリティインシデント(以下,インシデントという)が宣言された。不正ログインが成功した顧客用アカウントについて更に詳細に調査したところ,購入していないものが届いたとか,購入していないのに請求が来たといった被害はなかった。顧客への影響は顧客用アカウントの認証情報を攻撃者に知られてしまったことだけであることが確認できたので,顧客への連絡とパスワードのリセットを実施した。不正ログインへの対応が完了した後に開催された情報セキュリティ委員会で,今回のインシデントについて,情報システム部のU部長及びカスタマサポート部のM部長から調査結果が表1のとおり報告された。

表1 調査結果

情報セキュリティ委員会は,EC営業部のE部長に対し,表1の攻撃について,対策を検討するよう指示した。E部長はCさんと協力し,対策を検討した。 〔攻撃1への対応〕 次は,攻撃1についてのE部長とCさんの会話である。 E部長: 攻撃1には,Jサイトから漏えいした顧客用アカウントの認証情報が利用されているとは考えられませんか。 Cさん: 考えられません。もし,漏えいした顧客用アカウントの認証情報が利用されているとしたら,ログインが全て成功しているはずです。しかし,ログインの9割は失敗しています。 E部長: 攻撃1では,どのような方法が使われたと考えられますか。 Cさん: 攻撃1では,最近よく聞く,[a]という方法が使われたと考えています。その方法を使った攻撃は,一般的に[b]場合に成功しやすいといわれています。 E部長: 攻撃1を防ぐにはどのような対策が考えられますか。 Cさん: 攻撃1の対策には複数ありますが,利用者本人かどうかを確認するために,認証情報による利用者認証に加え,[c1]を導入する方法が一般的だと考えます。この方法は,攻撃1の被害を未然に防ぐことができるというメリットがあり,かつ,他の多数のECサイトでも利用されています。 E部長: その対策には,[c2]という特有の課題があるのではないでしょうか。 Cさん: 可能性はありますが,多くの実績があるので問題はないでしょう。 Cさんは,攻撃1が成功したのは,顧客側にも問題があるので,その問題も解決する必要があると考え,顧客に①自衛のための対策を促すことを考えた。 〔攻撃2への対応〕 次は,攻撃2についてのE部長とCさんの会話である。 E部長: 攻撃2では何が行われたのでしょうか。 Cさん: アカウント新規登録画面へのアクセスのログを確認した範囲では,Jサイトに対して[d]が行われたと考えています。同様の事例が最近,他サイトでもあったという情報がありました。 E部長: 攻撃2を防ぐにはどのような対策が考えられますか。 Cさんは対策を説明した。 〔攻撃3への対応〕 Cさんは,今回,攻撃3は防ぐことができたものの,[e]場合には成功しやすいと考え,連続ログイン失敗回数の上限を超えたアカウントをロックする(以下,アカウントロックという)という対策をE部長に提案した。E部長は,対策としてはよいが,顧客に影響があるのでM部長に意見を求めるようにと指示した。次はCさんとM部長の会話である。 Cさん: アカウントロックは広く使われている技術です。 M部長: Jサイトの顧客は幅広い年齢層にわたるので,[f]状況が多数発生し,顧客がカスタマサポート部に電話をして対応を依頼するでしょう。問合せが大幅に増えるのは困ります。 Cさん: ②問合せがなるべく増えないよう,適切に対応します。 〔攻撃4への対応〕 Cさんは,攻撃4は,問合せフォームに自動で大量の投稿を試みる攻撃であり,大量の投稿が成功してしまった原因は[g]ことであると考え,対策について,U部長及びM部長に相談した。次はU部長,M部長及びCさんの会話である。 U部長: 問合せを投稿する際に,利用者認証をしてはどうでしょうか。 M部長: 問合せフォームは既存の顧客以外からも広く意見を集める重要な手段なので,誰でも投稿できるようにする必要があり,利用者認証をするのはよい方法とは言えません。 U部長: それでは,利用者本人かどうかを確認する代わりに,[h1]のはどうでしょうか。 Cさん: [h1]のは,利用者によっては[h2]という問題が起こる可能性があるので実装には十分注意する必要がありますね。 攻撃1から攻撃4への対応について検討した対策(以下,検討済対策という)をE部長は情報セキュリティ委員会に諮り,実施について承認を得た。ただし,検討済対策を実施したとしても,攻撃1から攻撃4を防ぐことができないこともあり得るので,追加の対策として,今回と同様のインシデントが発生したらすばやく対応できるようにするための対策を検討するよう指示があった。 〔追加の対策の検討〕 Cさんは,追加の対策として,表1の攻撃を検知するために監視することにし,監視すべき値を表2にまとめた。これらの値が単位時間当たり一定数以上となった場合,EC営業部の情報セキュリティ責任者と情報セキュリティリーダーにメールで通知する。

表2 監視すべき値と空欄i・j・k

J社は,検討済対策及び追加の対策を全て完了させた。その後,Jサイトは表1と同様の攻撃を受けたが,検討済対策が有効に機能していたので,攻撃が成功することは少なかった。また,攻撃が成功した場合でも,追加の対策が有効に機能したので,被害を最小限に抑えることができた。Jサイトの情報セキュリティは大きく向上した。

設問1〔攻撃1への対応〕について,(1)~(4)に答えよ。 (3) 本文中の[c1],[c2]に入れる技術と課題を,次の(ⅰ)~(ⅹ)の中から一つずつ挙げた組合せはどれか。cに関する解答群のうち,最も適切なものを選べ。 [技術] (ⅰ) Jサイトの顧客用アカウントの認証情報の複製を保存して利用するディレクトリシステム (ⅱ) 指紋,虹彩,静脈などを利用した生体認証 (ⅲ) ディジタル証明書を利用したクライアント認証 (ⅳ) ボットからの入力と人からの入力を判別するCAPTCHA (ⅴ) ログインごとにメールで通知される認証用キーによる利用者認証 [課題] (ⅵ) 顧客が意図せず利用者IDを複数回間違った場合にJサイトにログインできなくなる (ⅶ) 顧客がメールアドレスを変更した際にJサイトにログインできなくなる (ⅷ) 顧客の端末が変わった際に端末の設定に関する問合せがカスタマサポート部に入る (ⅸ) ボットの使い方についてカスタマサポート部に問合せが入る (ⅹ) 連続ログイン失敗回数が上限を超えてアカウントがロックされ,Jサイトにログインできなくなる

  1. ア

    c1:(ⅰ)、c2:(ⅹ)

  2. イ

    c1:(ⅱ)、c2:(ⅶ)

  3. ウ

    c1:(ⅱ)、c2:(ⅷ)

  4. エ

    c1:(ⅲ)、c2:(ⅹ)

  5. オ

    c1:(ⅳ)、c2:(ⅵ)

  6. カ

    c1:(ⅳ)、c2:(ⅸ)

  7. キ

    c1:(ⅴ)、c2:(ⅶ)

  8. ク

    c1:(ⅴ)、c2:(ⅸ)

会話形式の解説

講師講師
この問題では、攻撃1への対策として何を加えるかと、その対策に特有の課題は何かを、組合せで選びます。手がかりは、本文の「利用者本人かどうかを確認するために、認証情報による利用者認証に加え」という言い方です。
受験者受験者
攻撃1は、ほかで手に入れたIDとパスワードのリストを使うリスト型攻撃でした。ボットが自動でログインを試しているなら、人かボットかを見分けるCAPTCHAが効きそうだと考えました。
講師講師
その発想で迷う人は多いです。ただ、CAPTCHAが判別するのは「人かボットか」で、「本人かどうか」は判別できません。正しい認証情報を持っている攻撃者が自分の手で入力すれば、通過できてしまいます。
受験者受験者
本文が求めているのは本人確認の強化なので、CAPTCHAを使った二つの組合せはどちらも外れるのですね。
講師講師
そうです。課題の中身に関係なく、技術の段階で不適切になります。次に、認証情報の複製を保存して使うディレクトリシステムはどうでしょう。
受験者受験者
同じ認証情報を別の場所に置くだけなので、確認の要素は増えません。漏れたIDとパスワードがそのまま通用してしまうと思います。
講師講師
そのとおりです。では、生体認証とディジタル証明書を使ったクライアント認証です。どちらも本人確認としては強い技術ですが、何が問題になると思いますか。
受験者受験者
Jサイトの顧客は100万アカウントを超えていて、年齢層も幅広いです。指紋や静脈を読み取る仕組みや、証明書の設定を全員に求めるのは難しそうです。
講師講師
よい着眼点です。生体認証は顧客の端末や利用環境に左右されるので、幅広い顧客に共通して導入する対策には向きません。クライアント証明書も顧客の端末ごとに設定が必要で、多くの顧客に手軽には導入できません。また、生体認証はメールを使わないので、メールアドレスの変更でログインできなくなるという課題とは結び付きません。
受験者受験者
残るのは、ログインのたびにメールで届く認証用キーを使う方式です。IDとパスワードだけでは入れなくなるので、本文にある「多数のECサイトでも利用されています」とも合います。
講師講師
はい。あとは、この方式に特有の課題を選びます。認証用キーは登録されたメールアドレスに届きますね。
受験者受験者
メールアドレスを変えたのにJサイトの登録を更新していないと、キーを受け取れずログインできなくなります。これがこの方式に特有の課題ですね。ボットの使い方についての問合せは、この方式とは関係がありません。
講師講師
そうです。正解は、メールで通知される認証用キーと、メールアドレス変更時にログインできなくなるという課題の組合せです。技術は同じでも、ボットの問合せと組み合わせた選択肢は、課題が対応していないので誤りになります。
講師講師
組合せ問題では、技術が正しくても課題が対応していなければ誤りです。技術ごとに「その仕組みだから起こること」を一つ思い浮かべると、絞り込みやすくなります。なお、CAPTCHAは問合せフォームへの自動投稿対策(攻撃4)で出てくる技術なので、本人確認の技術と混同しないようにしましょう。

まとめ

リスト型攻撃では、他から入手した正しいIDとパスワードが使われるため、それとは別の確認要素を加える対策が有効です。本文が「利用者本人かどうかを確認する」手段を求めているので、人かボットかしか判別できないCAPTCHAは当てはまりません。ディレクトリシステムは確認の要素が増えず、生体認証やクライアント証明書は幅広い顧客に導入しにくいという点で外れます。ログインごとにメールで届く認証用キーが適切で、その特有の課題は、メールアドレスを変更したまま登録を更新しないとキーを受け取れず、ログインできなくなることです。組合せ問題では、技術と課題がきちんと対応しているかまで確かめることが大切です。

解答・解説

正解はキです

この問題のテーマ

リスト型攻撃(攻撃1)への対策として、認証情報に加える本人確認の技術と、その技術に特有の課題の組合せを問う問題です。

解き方の考え方

c1には「利用者本人かどうか」を確かめるための追加の手段で、多くのECサイトで使われているものが入ります。c2はその技術に「特有の課題」なので、技術と課題がきちんと対応しているかどうかで選択肢を絞り込みます。

選択肢ごとの解説

  1. ×ア  c1:(ⅰ)、c2:(ⅹ)
    認証情報の複製を持つディレクトリシステムでは、確認の要素が増えません。漏えいした認証情報がそのまま通用してしまいます。
  2. ×イ  c1:(ⅱ)、c2:(ⅶ)
    生体認証はメールを使わないため、メールアドレス変更という課題とは対応しません。
  3. ×ウ  c1:(ⅱ)、c2:(ⅷ)
    生体認証は顧客の端末や利用環境に左右されるため、幅広い顧客に共通して導入する対策には向きません。
  4. ×エ  c1:(ⅲ)、c2:(ⅹ)
    クライアント証明書は顧客の端末ごとに設定が必要で、多くの顧客に手軽に導入できません。また、アカウントロックの課題とも対応しません。
  5. ×オ  c1:(ⅳ)、c2:(ⅵ)
    CAPTCHAは人と自動操作を見分ける仕組みで、本人確認ではありません。正しい認証情報を持つ攻撃者が自分で入力すれば通過できます。
  6. ×カ  c1:(ⅳ)、c2:(ⅸ)
    オと同じく、CAPTCHAでは本人認証が強化されないため、c1として不適切です。
  7. ○キ  c1:(ⅴ)、c2:(ⅶ)
    ログインのたびに登録メールアドレスへ届く認証用キーを使えば、IDとパスワードだけでは侵入できなくなります。メールアドレスを変えたのに登録を更新していないとキーを受け取れず、ログインできなくなるという課題がこの方式に対応します。
  8. ×ク  c1:(ⅴ)、c2:(ⅸ)
    技術はキと同じく適切です。しかし、ボットの使い方に関する問合せはメール認証用キーの方式とは関係がなく、特有の課題になりません。

補足

組合せ問題では、技術が正しくても課題が対応していなければ誤りです。CAPTCHAは設問4の問合せフォーム対策で使われる技術なので、混同しないようにしましょう。

POINT

  • リスト型攻撃には、IDとパスワードとは別の確認要素を加える対策が有効です。
  • CAPTCHAが判別するのは「人かボットか」で、「本人かどうか」は判別できません。
  • メールで認証用キーを送る方式は、登録メールアドレスが古いままだとログインできなくなります。

※出典:令和元年度秋期 情報セキュリティマネジメント試験 午後 問1 設問1(3)(一部改変)