マナビング情報セキュリティマネジメント

情報資産目録の見直しで何をするのかを見分ける

情報セキュリティマネジメント試験 平成31年度春期 午後 問11 / セキュリティ › 情報セキュリティ管理

過去問にチャレンジ

平成31年度春期 午後 問11

問問2の共通の文

企業における情報セキュリティ管理に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 X社は,機械製品及び産業用資材の輸入及び国内販売業務を行う従業員数1,000名の商社であり,機械営業部,資材営業部,総務部,情報システム部などがある。 X社は,数年前に同業他社で発生した情報セキュリティ事故を機に,情報セキュリティ管理に力を入れるようになり,JIS Q 27001に基づく情報セキュリティマネジメントシステム(以下,X社ISMSという)を構築し,ISMS認証を取得している。 X社ISMSでは,副社長である最高情報セキュリティ責任者(CISO)を委員長とする情報セキュリティ委員会を設置し,各部の部長が情報セキュリティ委員会の委員を務めている。また,各部の部長は自部の情報セキュリティリーダーを指名する。情報セキュリティ委員会はX社ISMSの年間活動計画を決定する。 X社ISMSの活動の実務は,各部の情報セキュリティリーダーから構成されるISMSワーキンググループ(以下,ISMS-WGという)が行っている。ISMS-WGのリーダーは,情報システム部のS課長である。ISMS-WGは,年間活動計画に基づき活動するほか,X社ISMS規程などの文書(以下,X社ISMS文書という)の改定案の検討を行う。 〔X社ISMSの年間活動計画〕 4月のある日,今年度初めてのISMS-WG会合が開催され,その席上で,表1に示すX社ISMSの年間活動計画が提示された。また,6月に実施される情報資産目録の見直しについてS課長から説明があった。X社ISMSでは各部において情報資産の名称,管理責任者,重要度,保管場所,保管期間を記した情報資産目録を作成し,毎年見直すことになっている。しかし,毎年見直し後に幾つかの記載の過不足が見つかっていることから,見直し後の記載に過不足がないことをよく確認するよう,改めてS課長がISMS-WGのメンバーに対して注意を促した。

表1 X社ISMSの年間活動計画(抜粋)、下線①・注1

〔販路拡大のための施策〕 最近になって,主な取引先である海外のY社が,新製品として個人向けの3Dプリンタ(以下,3DPという)を開発した。これまでX社は個人向けには製品を販売していなかったが,機械営業部では3DPの個人向け販売を販路拡大の機会と捉え,そのための施策を検討した。その結果を表2に示す。

表2 販路拡大のための施策

機械営業部の情報セキュリティリーダーであるT課長は,これらの施策に係る情報セキュリティリスクアセスメントの実施とリスク対応が必要と考え,S課長に相談したところ,表3のようなアドバイスを受けた。

表3 S課長のアドバイス(抜粋)、下線②・空欄a

S課長のアドバイスを受け,T課長は個人向け通信販売については,案2を採用し,外部のオンラインショッピングサイトを利用するのがよいと考えた。利用するシステムの詳細が固まった後に改めて情報セキュリティリスクアセスメントを行い,ISMS-WGに確認してもらうことにした。 次に,S課長とT課長はSNSを利用した情報提供に起因するリスクについて検討することにした。S課長は,T課長に次のリスクを説明した。 リスク1 X社の従業員が,X社公式アカウントを用いてX社の信用及び評判を低下させるような投稿を行う。 リスク2 第三者がX社公式アカウントを装い,X社の信用及び評判を低下させるような投稿を行う。 リスク3 第三者がX社公式アカウントを乗っ取り,X社の信用及び評判を低下させるような投稿を行う。 S課長の説明を聞いたT課長は,機械営業部だけでこれらのリスクに対応することは困難と判断した。そこで,SNSを利用した情報提供に起因するリスクについては,全社的な対策を立案するようS課長に依頼した。 また,S課長は,業務外でのSNSの個人利用についても,次のようなリスクがあることをT課長に説明した。 リスク4 X社の従業員が,X社の信用及び評判を損なうような不用意な投稿を行う。 リスク5 X社の従業員が,その投稿から③X社及び従業員の情報を攻撃者に推測され,X社に対する標的型攻撃の手掛かりにされるような不用意な投稿を行う。 これらのリスクを踏まえ,T課長は,業務外でのSNSの個人利用についても,従業員向けに何らかの指針を示すのがよいのではないかとS課長に提言した。S課長は,SNSの利用に関するルールを立案し,ISMS-WGで検討することにした。 〔SNSの利用に関する情報セキュリティ対策〕 数日後,S課長はX社公式アカウントの運用に関する情報セキュリティ対策の案を作成した。その内容を表4に示す。

表4 公式アカウントの情報セキュリティ対策、空欄b1〜c3

また,S課長は,SNSの個人利用に関する指針を策定し,12月に実施する従業員向け情報セキュリティ教育の内容に含めることにした。SNSの個人利用を一律に禁止することは適切でないので,この指針では,法令及び雇用契約上の要求事項の観点から従業員が順守すべき事項と,SNSの利用に当たって従業員が実施することが推奨される事項に分けて記載することにした。その概要を表5に示す。

表5 個人アカウントの利用指針、空欄d1〜e3

X社公式アカウントの運用に関する情報セキュリティ対策及びSNSの個人利用に関する指針は,ISMS-WGでの検討を経て情報セキュリティ委員会において承認された。 〔オンラインショッピングサイトの利用〕 機械営業部は,大手通信販売業者であるZ社のオンラインショッピングサイト(以下,Zショップという)を利用して個人向けに3DP及びオプション品を販売することにした。Zショップでは,消費者向けサイト以外にも各出品者用にポータルサイトを提供している。 X社には,Z社からX社専用のポータルサイト(以下,X社ポータルという)へのアクセス権が付与され,X社ポータルを利用する業務担当者用アカウントを追加又は削除可能な管理者用アカウントが一つ設定された。この管理者用アカウントでは,X社ポータルの他の機能を利用する個々の業務担当者用アカウントの管理だけを行うことにした。X社ポータルで業務担当者用アカウントを追加すると,その業務担当者のメールアドレスに対して電子メールが送信され,初期パスワードの変更が促される。X社ポータルで利用可能な機能とその内容を表6に示す。

表6 ポータルサイトの機能と内容

機械営業部では,X社ポータルで表7に示すロールを新たに登録することにした。

表7 ロールと作業内容

アカウントにロールを設定された業務担当者は,自分の業務用PCでX社ポータルにアクセスし,利用権限を付与された機能を利用して作業を行う。 機械営業部では,表6及び表7を基に,各ロールに付与する利用権限を検討することにした。その案を表8に示す。

表8 ロールの利用権限、◎・○・×の注記・注1

X社ISMSでは,今回のように業務を大きく変更する場合は,情報セキュリティリスクアセスメントを実施し,リスク対応を行うことになっている。そこで,この案について,T課長がS課長に相談したところ,次の指摘を受けた。 指摘1 発送担当者ロールを割り当てられた業務担当者は業務で購入者情報を扱うので,その業務担当者の業務用PCに購入者情報が蓄積されるおそれがあり,対策が必要である。 指摘2 X社ポータル管理者ロールの利用権限が過大であり,不正が起こるおそれがある。X社ポータル管理者ロールの利用権限を分割すべきである。 これらの指摘を受け,T課長は,指摘1については,発送担当者ロールを割り当てられた業務担当者に対して業務用PCに蓄積された購入者情報の利用後の削除を徹底させるとともに,購入者情報が蓄積されていないことを上長に定期的に点検させることにした。また,指摘2については,表8を見直してX社ポータル管理者ロールの利用はやめるとともに,アカウント管理を含むX社ポータルの各機能の利用状況のモニタリングを行うために,新たなロールを追加することにした。追加する新たなロールとそのロールに付与する利用権限の案を,表9に示す。

表9 新ロールの利用権限、空欄f1・f2・g1・g2

これらの案はISMS-WGで検討され,情報セキュリティ委員会の承認を得て,Zショップで3DPの販売が開始されることになった。 その後,Zショップからの新製品の販売は順調に進んでいる。

設問1表1中の下線①について,該当する作業を三つ,解答群の中から選べ。

  1. ア

    新たに追加された情報資産の名称と管理責任者を記載する。

  2. イ

    記載された情報資産の重要度が適切であるか確認する。

  3. ウ

    記載された情報資産のリスクを低減する。

  4. エ

    情報資産目録に対するアクセス権を設定する。

  5. オ

    情報資産目録の情報セキュリティパフォーマンス及びX社ISMSの有効性を評価する。

  6. カ

    廃棄された情報資産を情報資産目録から削除する。

会話形式の解説

講師講師
今回は、X社ISMSの年間計画で6月に予定されている「情報資産目録の見直し」で、具体的に何をするかを三つ選ぶ問題です。まず、目録に何が書かれているかを問題文で確かめましょう。
受験者受験者
情報資産の名称、管理責任者、重要度、保管場所、保管期間の五つが書かれています。
講師講師
そのとおりです。もう一つの手掛かりは、S課長が「見直し後の記載に過不足がないことをよく確認するよう」注意している点です。見直しとは、目録の記載を実態に合わせて、足りない記載も余分な記載もなくす作業です。
受験者受験者
そうすると、新しく増えた資産の名称と管理責任者を書き加える選択肢は、不足を埋める作業なので当てはまりますね。
講師講師
はい。名称も管理責任者も目録の記載項目です。新しい資産を書き加えなければ記載が不足するので、見直しで行う作業です。
受験者受験者
廃棄した資産を目録から削除する選択肢は、反対に余分な記載をなくす作業だと考えました。
講師講師
そのとおりです。もう持っていない資産が目録に残っていると、余分な記載になります。削除して実態に合わせるので、これも見直しの作業です。
受験者受験者
重要度が適切か確認する選択肢は少し迷いました。過不足というより、内容が正しいかの確認ですよね。
講師講師
重要度も目録の記載項目です。資産の重要度は時間がたつと変わることがあるので、今も適切かを確かめ、実態と違えば直します。これも目録を実態に合わせる作業なので、見直しに含まれます。
受験者受験者
資産のリスクを低減する選択肢はどうでしょうか。目録に載っている資産のことなので、関係がありそうに見えます。
講師講師
リスクを下げるのはリスク対応、つまりリスクへの対策を決めて実施することで、目録の記載を正す作業ではありません。表1を見ると、リスクアセスメントとリスク対応計画の策定は8月に別に計画されています。
受験者受験者
目録そのものにアクセス権を設定する選択肢も、目録に関する作業なので迷いました。
講師講師
アクセス権の設定は、目録という情報を守るための対策です。目録に書かれた内容の過不足を確かめる作業ではないので、見直しには含まれません。
受験者受験者
残りの、情報セキュリティパフォーマンスとISMSの有効性を評価する選択肢は、1月の内部監査で行う作業でしょうか。
講師講師
情報セキュリティパフォーマンスとは、対策による成果のことです。この評価はマネジメントシステム全体の働きを測るもので、目録の個々の記載を直す作業ではありません。
講師講師
なお、表1の1月の内部監査は「X社ISMS規程の順守状況」の確認なので、この評価とも厳密には別の活動です。いずれにしても、6月の目録見直しには当たりません。
受験者受験者
目録の記載を実態に合わせる作業かどうかで判断すると、新しい資産の追記、重要度の確認、廃棄した資産の削除の三つが残りますね。
講師講師
そのとおりです。JIS Q 27001は資産を特定し、目録を作成して維持することを求めています。表1で6月、8月、1月の活動がそれぞれ分かれていることを確かめると、紛らわしい選択肢を外しやすくなります。

まとめ

この問題は、ISMSの年間計画にある「情報資産目録の見直し」で行う作業を三つ選ぶものです。目録の見直しとは、名称・管理責任者・重要度・保管場所・保管期間といった記載を実態に合わせ、過不足をなくす作業です。新しい資産の追記、重要度の確認、廃棄した資産の削除がこれに当たり、正解はア・イ・カです。リスクの低減(リスク対応)、目録へのアクセス権の設定、ISMSの有効性の評価は、目録の見直しとは別の活動です。表1で各活動の時期が分かれていることを確かめると、判断しやすくなります。

解答・解説

正解はア、イ、カです

この問題のテーマ

表1の6月の作業「情報資産目録の見直し」で、具体的に何をするかを選ぶ問題です。目録の記載を実態に合わせる作業と、それ以外のISMS活動を区別できるかを問います。

解き方の考え方

まず問題文から、情報資産目録の記載項目を確認します。記載項目は名称・管理責任者・重要度・保管場所・保管期間です。次に、S課長が「見直し後の記載に過不足がないこと」を確かめるよう注意した点を押さえます。そのうえで、各選択肢が目録の記載の不足や余分を正す作業かどうかを判定します。リスク対応やISMS全体の評価のように、目録の記載とは別の活動は外します。

選択肢ごとの解説

  1. ○ア  新たに追加された情報資産の名称と管理責任者を記載する。
    アは、新たに増えた情報資産の名称と管理責任者を目録に書き加える作業です。名称と管理責任者は、目録に記載する項目に含まれています。新しい資産を書き加えなければ記載が不足します。したがって、アは見直しで行う作業です。
  2. ○イ  記載された情報資産の重要度が適切であるか確認する。
    イは、目録に書かれた重要度が今も適切かを確認する作業です。重要度も目録の記載項目です。資産の重要度は時間がたつと変わることがあるため、確認して実態と違えば直します。したがって、イは見直しで行う作業です。
  3. ×ウ  記載された情報資産のリスクを低減する。
    ウは、資産のリスクを下げる作業です。リスクを下げるのはリスク対応(リスクへの対策を決めて実施すること)であり、目録の記載を正す作業ではありません。表1でも、リスクアセスメントとリスク対応計画の策定は8月に別途行う計画です。したがって、ウは6月の見直しには当たりません。
  4. ×エ  情報資産目録に対するアクセス権を設定する。
    エは、目録そのものへのアクセス権を設定する作業です。アクセス権の設定は情報を守るための対策です。一方、目録の見直しは記載の過不足を確かめる作業です。したがって、エは見直しの作業には含まれません。
  5. ×オ  情報資産目録の情報セキュリティパフォーマンス及びX社ISMSの有効性を評価する。
    オは、情報セキュリティパフォーマンス(対策による成果)とISMSの有効性を評価する作業です。この評価はマネジメントシステム全体の働きを測るもので、目録の個々の記載を直す作業ではありません。したがって、オは見直しの作業には当たりません。
  6. ○カ  廃棄された情報資産を情報資産目録から削除する。
    カは、廃棄した情報資産を目録から消す作業です。廃棄済みの資産が目録に残っていると、持っていない資産が書かれた余分な記載になります。そのため、削除して実態に合わせます。したがって、カは見直しで行う作業です。

補足

表1では、6月の目録見直し、8月のリスクアセスメント、1月の内部監査が別々の時期に計画されています。各選択肢がどの活動に当たるかを表1と照らすと、目録見直しの作業を選びやすくなります。

POINT

  • JIS Q 27001は、資産を特定し、その目録を作成して維持することを求めています。
  • 目録の見直しは、記載内容を実態に合わせて、記載の過不足をなくす作業です。
  • 新しい資産の追記、重要度の再確認、廃棄した資産の削除が見直しの中身です。
  • リスクを下げる対策、アクセス権の設定、ISMSの有効性の評価は、目録の見直しとは別の活動です。

※出典:平成31年度春期 情報セキュリティマネジメント試験 午後 問2 設問1(一部改変)