マナビング情報セキュリティマネジメント

自社でカード決済するとき準拠が必要な基準はどれか

情報セキュリティマネジメント試験 平成31年度春期 午後 問13 / セキュリティ › 情報セキュリティ管理

過去問にチャレンジ

平成31年度春期 午後 問13

問問2の共通の文

企業における情報セキュリティ管理に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 X社は,機械製品及び産業用資材の輸入及び国内販売業務を行う従業員数1,000名の商社であり,機械営業部,資材営業部,総務部,情報システム部などがある。 X社は,数年前に同業他社で発生した情報セキュリティ事故を機に,情報セキュリティ管理に力を入れるようになり,JIS Q 27001に基づく情報セキュリティマネジメントシステム(以下,X社ISMSという)を構築し,ISMS認証を取得している。 X社ISMSでは,副社長である最高情報セキュリティ責任者(CISO)を委員長とする情報セキュリティ委員会を設置し,各部の部長が情報セキュリティ委員会の委員を務めている。また,各部の部長は自部の情報セキュリティリーダーを指名する。情報セキュリティ委員会はX社ISMSの年間活動計画を決定する。 X社ISMSの活動の実務は,各部の情報セキュリティリーダーから構成されるISMSワーキンググループ(以下,ISMS-WGという)が行っている。ISMS-WGのリーダーは,情報システム部のS課長である。ISMS-WGは,年間活動計画に基づき活動するほか,X社ISMS規程などの文書(以下,X社ISMS文書という)の改定案の検討を行う。 〔X社ISMSの年間活動計画〕 4月のある日,今年度初めてのISMS-WG会合が開催され,その席上で,表1に示すX社ISMSの年間活動計画が提示された。また,6月に実施される情報資産目録の見直しについてS課長から説明があった。X社ISMSでは各部において情報資産の名称,管理責任者,重要度,保管場所,保管期間を記した情報資産目録を作成し,毎年見直すことになっている。しかし,毎年見直し後に幾つかの記載の過不足が見つかっていることから,見直し後の記載に過不足がないことをよく確認するよう,改めてS課長がISMS-WGのメンバーに対して注意を促した。

表1 X社ISMSの年間活動計画(抜粋)、下線①・注1

〔販路拡大のための施策〕 最近になって,主な取引先である海外のY社が,新製品として個人向けの3Dプリンタ(以下,3DPという)を開発した。これまでX社は個人向けには製品を販売していなかったが,機械営業部では3DPの個人向け販売を販路拡大の機会と捉え,そのための施策を検討した。その結果を表2に示す。

表2 販路拡大のための施策

機械営業部の情報セキュリティリーダーであるT課長は,これらの施策に係る情報セキュリティリスクアセスメントの実施とリスク対応が必要と考え,S課長に相談したところ,表3のようなアドバイスを受けた。

表3 S課長のアドバイス(抜粋)、下線②・空欄a

S課長のアドバイスを受け,T課長は個人向け通信販売については,案2を採用し,外部のオンラインショッピングサイトを利用するのがよいと考えた。利用するシステムの詳細が固まった後に改めて情報セキュリティリスクアセスメントを行い,ISMS-WGに確認してもらうことにした。 次に,S課長とT課長はSNSを利用した情報提供に起因するリスクについて検討することにした。S課長は,T課長に次のリスクを説明した。 リスク1 X社の従業員が,X社公式アカウントを用いてX社の信用及び評判を低下させるような投稿を行う。 リスク2 第三者がX社公式アカウントを装い,X社の信用及び評判を低下させるような投稿を行う。 リスク3 第三者がX社公式アカウントを乗っ取り,X社の信用及び評判を低下させるような投稿を行う。 S課長の説明を聞いたT課長は,機械営業部だけでこれらのリスクに対応することは困難と判断した。そこで,SNSを利用した情報提供に起因するリスクについては,全社的な対策を立案するようS課長に依頼した。 また,S課長は,業務外でのSNSの個人利用についても,次のようなリスクがあることをT課長に説明した。 リスク4 X社の従業員が,X社の信用及び評判を損なうような不用意な投稿を行う。 リスク5 X社の従業員が,その投稿から③X社及び従業員の情報を攻撃者に推測され,X社に対する標的型攻撃の手掛かりにされるような不用意な投稿を行う。 これらのリスクを踏まえ,T課長は,業務外でのSNSの個人利用についても,従業員向けに何らかの指針を示すのがよいのではないかとS課長に提言した。S課長は,SNSの利用に関するルールを立案し,ISMS-WGで検討することにした。 〔SNSの利用に関する情報セキュリティ対策〕 数日後,S課長はX社公式アカウントの運用に関する情報セキュリティ対策の案を作成した。その内容を表4に示す。

表4 公式アカウントの情報セキュリティ対策、空欄b1〜c3

また,S課長は,SNSの個人利用に関する指針を策定し,12月に実施する従業員向け情報セキュリティ教育の内容に含めることにした。SNSの個人利用を一律に禁止することは適切でないので,この指針では,法令及び雇用契約上の要求事項の観点から従業員が順守すべき事項と,SNSの利用に当たって従業員が実施することが推奨される事項に分けて記載することにした。その概要を表5に示す。

表5 個人アカウントの利用指針、空欄d1〜e3

X社公式アカウントの運用に関する情報セキュリティ対策及びSNSの個人利用に関する指針は,ISMS-WGでの検討を経て情報セキュリティ委員会において承認された。 〔オンラインショッピングサイトの利用〕 機械営業部は,大手通信販売業者であるZ社のオンラインショッピングサイト(以下,Zショップという)を利用して個人向けに3DP及びオプション品を販売することにした。Zショップでは,消費者向けサイト以外にも各出品者用にポータルサイトを提供している。 X社には,Z社からX社専用のポータルサイト(以下,X社ポータルという)へのアクセス権が付与され,X社ポータルを利用する業務担当者用アカウントを追加又は削除可能な管理者用アカウントが一つ設定された。この管理者用アカウントでは,X社ポータルの他の機能を利用する個々の業務担当者用アカウントの管理だけを行うことにした。X社ポータルで業務担当者用アカウントを追加すると,その業務担当者のメールアドレスに対して電子メールが送信され,初期パスワードの変更が促される。X社ポータルで利用可能な機能とその内容を表6に示す。

表6 ポータルサイトの機能と内容

機械営業部では,X社ポータルで表7に示すロールを新たに登録することにした。

表7 ロールと作業内容

アカウントにロールを設定された業務担当者は,自分の業務用PCでX社ポータルにアクセスし,利用権限を付与された機能を利用して作業を行う。 機械営業部では,表6及び表7を基に,各ロールに付与する利用権限を検討することにした。その案を表8に示す。

表8 ロールの利用権限、◎・○・×の注記・注1

X社ISMSでは,今回のように業務を大きく変更する場合は,情報セキュリティリスクアセスメントを実施し,リスク対応を行うことになっている。そこで,この案について,T課長がS課長に相談したところ,次の指摘を受けた。 指摘1 発送担当者ロールを割り当てられた業務担当者は業務で購入者情報を扱うので,その業務担当者の業務用PCに購入者情報が蓄積されるおそれがあり,対策が必要である。 指摘2 X社ポータル管理者ロールの利用権限が過大であり,不正が起こるおそれがある。X社ポータル管理者ロールの利用権限を分割すべきである。 これらの指摘を受け,T課長は,指摘1については,発送担当者ロールを割り当てられた業務担当者に対して業務用PCに蓄積された購入者情報の利用後の削除を徹底させるとともに,購入者情報が蓄積されていないことを上長に定期的に点検させることにした。また,指摘2については,表8を見直してX社ポータル管理者ロールの利用はやめるとともに,アカウント管理を含むX社ポータルの各機能の利用状況のモニタリングを行うために,新たなロールを追加することにした。追加する新たなロールとそのロールに付与する利用権限の案を,表9に示す。

表9 新ロールの利用権限、空欄f1・f2・g1・g2

これらの案はISMS-WGで検討され,情報セキュリティ委員会の承認を得て,Zショップで3DPの販売が開始されることになった。 その後,Zショップからの新製品の販売は順調に進んでいる。

設問2〔販路拡大のための施策〕について,(1)~(3)に答えよ。 (2) 表3中の[a]に入れる適切な字句を,解答群の中から選べ。

  1. ア

    JIS Q 15001

  2. イ

    JIS Q 20000

  3. ウ

    JIS Q 27017

  4. エ

    NIST SP 800-171

  5. オ

    PCI DSS

  6. カ

    情報セキュリティサービス基準

会話形式の解説

講師講師
この設問では、S課長のアドバイスを示した表3の空欄aに入る基準を選びます。空欄aがあるのは、クレジットカード決済の案1と案2のうち、案1の説明です。まず、二つの案の違いを見てみましょう。
受験者受験者
案1はX社のWebサイトを改修して、X社が自分でカード決済を行う案です。案2は、カード情報をX社では持たずに、外部のオンラインショッピングサイトを使う案ですね。
講師講師
そのとおりです。案2のように、カード情報を自社で持たないようにすることを「非保持化」と言います。では、案1だとX社は何を扱うことになるでしょうか。
受験者受験者
自社で決済するので、お客様のカード番号などの情報をX社が扱うことになると思います。
講師講師
はい。つまり空欄aには、カード会員データを守るための基準が入ります。ここからは、解答群の規格や基準がそれぞれ何を対象にしているかを確かめていきましょう。
受験者受験者
カード番号も個人情報なので、私は個人情報保護のJIS Q 15001が正解かと思いました。
講師講師
迷いやすいところです。JIS Q 15001は、個人情報を組織的に守る仕組み(個人情報保護マネジメントシステム)の要求事項を定めた規格です。対象は個人情報全般で、カード決済に特化した基準ではありません。
受験者受験者
なるほど。では、JIS Q 27017はどうでしょうか。ISMSと同じ27000番台なので、情報セキュリティの規格に見えます。
講師講師
JIS Q 27017は、クラウドサービスの利用と提供に関する情報セキュリティ管理策を定めた規格です。カード会員データの保護を定めた基準ではないので、空欄aには入りません。
受験者受験者
JIS Q 20000とNIST SP 800-171も、カードとは関係がなさそうですね。
講師講師
はい。JIS Q 20000は、ITサービスを提供・管理する仕組み(サービスマネジメントシステム)の規格です。NIST SP 800-171は米国の文書で、政府が保護を求める機密指定外の情報を、連邦政府以外の組織が守るための指針です。
受験者受験者
情報セキュリティサービス基準も、名前だけだとカード情報に関係がありそうに見えてしまいます。
講師講師
情報セキュリティサービス基準は、情報セキュリティサービスの品質を第三者が客観的に判断するための基準です。対象はサービス事業者の品質なので、カード情報を保護する基準ではありません。
受験者受験者
そうすると残るのはPCI DSSですね。カード会員データを安全に扱うために、クレジット業界が定めたセキュリティ基準だから、自社でカード情報を扱う案1に合う、という理解でよいでしょうか。
講師講師
そのとおりで、正解はPCI DSSです。カード情報を自社で扱うならPCI DSSへの準拠が必要で、扱わないようにする非保持化もカード情報を守る選択肢の一つです。
講師講師
補足です。2018年6月施行の改正割賦販売法で、カード加盟店にはカード番号などの適切な管理が義務付けられました。実務指針の実行計画は、非保持化かPCI DSS準拠のどちらかを求めています。表3では、案1が準拠の側、案2が非保持化の側に当たります。

まとめ

この問題は、X社が自社のWebサイトでクレジットカード決済を行う案で準拠が必要になる基準を選ぶものです。自社で決済すればX社がカード会員データを扱うことになるため、クレジット業界がカード会員データの保護のために定めたPCI DSSへの準拠が必要になり、正解はオです。JIS Q 15001は個人情報保護、JIS Q 20000はサービスマネジメント、JIS Q 27017はクラウドサービスのセキュリティ管理策を扱う規格で、いずれもカード決済に特化した基準ではありません。カード情報を自社で持たない「非保持化」も、カード情報を守るための選択肢の一つです。

解答・解説

正解はオです

この問題のテーマ

表3の案1は、X社が自社のWebサイトで自らクレジットカード決済を行う案です。この案1で準拠が必要になる基準を、空欄aに選ぶ問題です。

解き方の考え方

最初に、表3の案1と案2の違いを確かめます。案1は、X社のWebサイトを改修して、X社自身がカード決済を行う案です。一方、案2は、X社がクレジットカード情報を保持しない(非保持化する)案です。つまり、案1ではX社がカード会員の情報を扱うことになります。次に、解答群の各規格・基準が何を対象にしているかを確かめ、カード会員データの保護を定めたものを選びます。

選択肢ごとの解説

  1. ×ア  JIS Q 15001
    アのJIS Q 15001は、個人情報保護マネジメントシステム(個人情報を組織的に守る仕組み)の要求事項を定めた規格です。個人情報全般を対象にしており、カード決済に特化した基準ではありません。したがって、カード決済を自社で行う案1で準拠が必要とされる基準としては当てはまりません。
  2. ×イ  JIS Q 20000
    イのJIS Q 20000は、ITサービスを提供・管理する仕組み(サービスマネジメントシステム)の要求事項を定めた規格です。カード会員データの保護を定めたものではありません。そのため、空欄aには入りません。
  3. ×ウ  JIS Q 27017
    ウのJIS Q 27017は、クラウドサービス向けの情報セキュリティ管理策を定めた規格です。案1は自社のWebサイトでカード決済を行う案です。そのため、カード情報の保護基準が求められる場面には合いません。
  4. ×エ  NIST SP 800-171
    エのNIST SP 800-171は、米国の文書です。連邦政府以外の組織が、管理された非格付け情報(政府が保護を求める機密指定外の情報)を守るための指針を扱っています。カード会員データの保護基準ではないため、空欄aには入りません。
  5. ○オ  PCI DSS
    オのPCI DSSは、カード会員データを安全に扱うためにクレジット業界が定めたセキュリティ基準です。案1では、X社が自らカード決済を行い、カード情報を扱います。そのため、案1ではPCI DSSへの準拠が必要になります。したがって、オが正解です。
  6. ×カ  情報セキュリティサービス基準
    カの情報セキュリティサービス基準は、情報セキュリティサービスの品質を第三者が客観的に判断するための基準です。サービスを提供する事業者の品質を対象にしており、カード決済情報の保護基準ではありません。そのため、空欄aには入りません。

補足

2018年6月に施行された改正割賦販売法は、カード加盟店にカード番号などの適切な管理を義務付けました。この法律の実務上の指針である実行計画では、加盟店に対して、カード情報の非保持化かPCI DSSへの準拠を求めています。表3の案1はPCI DSSへの準拠に、案2は非保持化に当たります。

POINT

  • PCI DSSは、カード会員データを保護するためのクレジット業界のセキュリティ基準です。
  • カード情報を自社で扱う場合はPCI DSSへの準拠が必要になります。
  • カード情報を自社で保持しない非保持化も、カード情報を守るための選択肢の一つです。
  • JIS Q 15001は個人情報保護、JIS Q 20000はサービスマネジメント、JIS Q 27017はクラウドのセキュリティを扱う規格です。

※出典:平成31年度春期 情報セキュリティマネジメント試験 午後 問2 設問2(2)(一部改変)