マナビング情報セキュリティマネジメント

職務分離と最小権限からモニタリングロールの権限を決める

情報セキュリティマネジメント試験 平成31年度春期 午後 問20 / セキュリティ › 情報セキュリティ管理

過去問にチャレンジ

平成31年度春期 午後 問20

問問2の共通の文

企業における情報セキュリティ管理に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 X社は,機械製品及び産業用資材の輸入及び国内販売業務を行う従業員数1,000名の商社であり,機械営業部,資材営業部,総務部,情報システム部などがある。 X社は,数年前に同業他社で発生した情報セキュリティ事故を機に,情報セキュリティ管理に力を入れるようになり,JIS Q 27001に基づく情報セキュリティマネジメントシステム(以下,X社ISMSという)を構築し,ISMS認証を取得している。 X社ISMSでは,副社長である最高情報セキュリティ責任者(CISO)を委員長とする情報セキュリティ委員会を設置し,各部の部長が情報セキュリティ委員会の委員を務めている。また,各部の部長は自部の情報セキュリティリーダーを指名する。情報セキュリティ委員会はX社ISMSの年間活動計画を決定する。 X社ISMSの活動の実務は,各部の情報セキュリティリーダーから構成されるISMSワーキンググループ(以下,ISMS-WGという)が行っている。ISMS-WGのリーダーは,情報システム部のS課長である。ISMS-WGは,年間活動計画に基づき活動するほか,X社ISMS規程などの文書(以下,X社ISMS文書という)の改定案の検討を行う。 〔X社ISMSの年間活動計画〕 4月のある日,今年度初めてのISMS-WG会合が開催され,その席上で,表1に示すX社ISMSの年間活動計画が提示された。また,6月に実施される情報資産目録の見直しについてS課長から説明があった。X社ISMSでは各部において情報資産の名称,管理責任者,重要度,保管場所,保管期間を記した情報資産目録を作成し,毎年見直すことになっている。しかし,毎年見直し後に幾つかの記載の過不足が見つかっていることから,見直し後の記載に過不足がないことをよく確認するよう,改めてS課長がISMS-WGのメンバーに対して注意を促した。

表1 X社ISMSの年間活動計画(抜粋)、下線①・注1

〔販路拡大のための施策〕 最近になって,主な取引先である海外のY社が,新製品として個人向けの3Dプリンタ(以下,3DPという)を開発した。これまでX社は個人向けには製品を販売していなかったが,機械営業部では3DPの個人向け販売を販路拡大の機会と捉え,そのための施策を検討した。その結果を表2に示す。

表2 販路拡大のための施策

機械営業部の情報セキュリティリーダーであるT課長は,これらの施策に係る情報セキュリティリスクアセスメントの実施とリスク対応が必要と考え,S課長に相談したところ,表3のようなアドバイスを受けた。

表3 S課長のアドバイス(抜粋)、下線②・空欄a

S課長のアドバイスを受け,T課長は個人向け通信販売については,案2を採用し,外部のオンラインショッピングサイトを利用するのがよいと考えた。利用するシステムの詳細が固まった後に改めて情報セキュリティリスクアセスメントを行い,ISMS-WGに確認してもらうことにした。 次に,S課長とT課長はSNSを利用した情報提供に起因するリスクについて検討することにした。S課長は,T課長に次のリスクを説明した。 リスク1 X社の従業員が,X社公式アカウントを用いてX社の信用及び評判を低下させるような投稿を行う。 リスク2 第三者がX社公式アカウントを装い,X社の信用及び評判を低下させるような投稿を行う。 リスク3 第三者がX社公式アカウントを乗っ取り,X社の信用及び評判を低下させるような投稿を行う。 S課長の説明を聞いたT課長は,機械営業部だけでこれらのリスクに対応することは困難と判断した。そこで,SNSを利用した情報提供に起因するリスクについては,全社的な対策を立案するようS課長に依頼した。 また,S課長は,業務外でのSNSの個人利用についても,次のようなリスクがあることをT課長に説明した。 リスク4 X社の従業員が,X社の信用及び評判を損なうような不用意な投稿を行う。 リスク5 X社の従業員が,その投稿から③X社及び従業員の情報を攻撃者に推測され,X社に対する標的型攻撃の手掛かりにされるような不用意な投稿を行う。 これらのリスクを踏まえ,T課長は,業務外でのSNSの個人利用についても,従業員向けに何らかの指針を示すのがよいのではないかとS課長に提言した。S課長は,SNSの利用に関するルールを立案し,ISMS-WGで検討することにした。 〔SNSの利用に関する情報セキュリティ対策〕 数日後,S課長はX社公式アカウントの運用に関する情報セキュリティ対策の案を作成した。その内容を表4に示す。

表4 公式アカウントの情報セキュリティ対策、空欄b1〜c3

また,S課長は,SNSの個人利用に関する指針を策定し,12月に実施する従業員向け情報セキュリティ教育の内容に含めることにした。SNSの個人利用を一律に禁止することは適切でないので,この指針では,法令及び雇用契約上の要求事項の観点から従業員が順守すべき事項と,SNSの利用に当たって従業員が実施することが推奨される事項に分けて記載することにした。その概要を表5に示す。

表5 個人アカウントの利用指針、空欄d1〜e3

X社公式アカウントの運用に関する情報セキュリティ対策及びSNSの個人利用に関する指針は,ISMS-WGでの検討を経て情報セキュリティ委員会において承認された。 〔オンラインショッピングサイトの利用〕 機械営業部は,大手通信販売業者であるZ社のオンラインショッピングサイト(以下,Zショップという)を利用して個人向けに3DP及びオプション品を販売することにした。Zショップでは,消費者向けサイト以外にも各出品者用にポータルサイトを提供している。 X社には,Z社からX社専用のポータルサイト(以下,X社ポータルという)へのアクセス権が付与され,X社ポータルを利用する業務担当者用アカウントを追加又は削除可能な管理者用アカウントが一つ設定された。この管理者用アカウントでは,X社ポータルの他の機能を利用する個々の業務担当者用アカウントの管理だけを行うことにした。X社ポータルで業務担当者用アカウントを追加すると,その業務担当者のメールアドレスに対して電子メールが送信され,初期パスワードの変更が促される。X社ポータルで利用可能な機能とその内容を表6に示す。

表6 ポータルサイトの機能と内容

機械営業部では,X社ポータルで表7に示すロールを新たに登録することにした。

表7 ロールと作業内容

アカウントにロールを設定された業務担当者は,自分の業務用PCでX社ポータルにアクセスし,利用権限を付与された機能を利用して作業を行う。 機械営業部では,表6及び表7を基に,各ロールに付与する利用権限を検討することにした。その案を表8に示す。

表8 ロールの利用権限、◎・○・×の注記・注1

X社ISMSでは,今回のように業務を大きく変更する場合は,情報セキュリティリスクアセスメントを実施し,リスク対応を行うことになっている。そこで,この案について,T課長がS課長に相談したところ,次の指摘を受けた。 指摘1 発送担当者ロールを割り当てられた業務担当者は業務で購入者情報を扱うので,その業務担当者の業務用PCに購入者情報が蓄積されるおそれがあり,対策が必要である。 指摘2 X社ポータル管理者ロールの利用権限が過大であり,不正が起こるおそれがある。X社ポータル管理者ロールの利用権限を分割すべきである。 これらの指摘を受け,T課長は,指摘1については,発送担当者ロールを割り当てられた業務担当者に対して業務用PCに蓄積された購入者情報の利用後の削除を徹底させるとともに,購入者情報が蓄積されていないことを上長に定期的に点検させることにした。また,指摘2については,表8を見直してX社ポータル管理者ロールの利用はやめるとともに,アカウント管理を含むX社ポータルの各機能の利用状況のモニタリングを行うために,新たなロールを追加することにした。追加する新たなロールとそのロールに付与する利用権限の案を,表9に示す。

表9 新ロールの利用権限、空欄f1・f2・g1・g2

これらの案はISMS-WGで検討され,情報セキュリティ委員会の承認を得て,Zショップで3DPの販売が開始されることになった。 その後,Zショップからの新製品の販売は順調に進んでいる。

設問4〔オンラインショッピングサイトの利用〕について,(1),(2)に答えよ。 (2) 表9中の[g1],[g2]に入れる記号の適切な組合せを,gに関する解答群の中から選べ。ここで,◎,○及び×は表8の注記と同一である。

  1. ア

    g1:◎、g2:◎

  2. イ

    g1:◎、g2:○

  3. ウ

    g1:◎、g2:×

  4. エ

    g1:○、g2:◎

  5. オ

    g1:○、g2:○

  6. カ

    g1:○、g2:×

  7. キ

    g1:×、g2:◎

  8. ク

    g1:×、g2:○

  9. ケ

    g1:×、g2:×

会話形式の解説

講師講師
この問題では、X社ポータルに新しく作るモニタリングロールに、売上管理とアカウント管理のどの権限を与えるかを選びます。まず、権限を表す記号の意味から確かめましょう。
受験者受験者
表8の注記を見ると、◎が編集、○が閲覧、×が権限なしでした。編集と閲覧はどう違うのですか。
講師講師
表6に書かれています。編集なら閲覧・ダウンロード・編集ができます。閲覧は見ることはできますが、ダウンロードと編集はできません。
受験者受験者
では、モニタリングロールは何のために作られるのでしょうか。
講師講師
本文によると、アカウント管理を含むX社ポータルの各機能の利用状況をモニタリング、つまり監視するために追加されます。きっかけは、管理者ロールの権限が大きすぎて不正のおそれがあるという指摘でした。
受験者受験者
監視するなら、何かあったときに直せるよう、編集権限もあったほうが便利な気がします。
講師講師
そこが引っかかりやすい点です。監視役が売上情報やアカウント設定を書き換えられると、チェックする人とされる人が同じ操作をできてしまいます。これでは職務分離が成り立ちません。
受験者受験者
職務分離とは、どういう考え方ですか。
講師講師
1人に権限を集めず、役割を分けて互いにチェックさせる仕組みです。相互牽制とも言います。売上管理とアカウント管理の両方を◎にすると、分割前の管理者ロールと変わらなくなります。
受験者受験者
売上管理だけ◎にする組合せはどうでしょうか。
講師講師
管理者ロールをやめた後は、売上管理を編集できるのは経理担当者ロールだけです。監視役も売上情報を変えられると、監視される側と同じ操作ができてしまうので誤りです。
受験者受験者
アカウント管理だけ◎の組合せも同じ理由で駄目ですね。監視役がロールを変更できたら、自分の権限を広げられてしまいます。
講師講師
そのとおりです。アカウント管理の編集は、新設のアカウント管理ロールが担います。では逆に、×を含む組合せはどう考えますか。
受験者受験者
本文では売上管理もアカウント管理も監視の対象です。どちらかが×だとその機能の利用状況を確認できないので、監視の目的を果たせないと思います。
講師講師
正しい判断です。監視には見られることが必要で、変えられる必要はありません。両方を○の閲覧にするオなら、状況を確認でき、ダウンロードも編集もできない最小限の権限に収まります。
受験者受験者
必要な分だけ権限を与えるのが、最小権限の原則ということですね。
講師講師
はい。権限は職務に必要な最小限だけ与えます。全機能の編集権限を1つのロールに集めず、複数のロールに分けることもあわせて押さえておきましょう。

まとめ

X社ポータルに追加するモニタリングロールは、アカウント管理を含む各機能の利用状況を監視するためのロールです。監視には対象を確認できる閲覧権限(○)があれば足り、編集権限(◎)を与えると監視役が売上情報やアカウント設定を書き換えられ、職務分離(相互牽制)が崩れます。一方、権限なし(×)では、その機能の利用状況を監視できません。したがって、売上管理とアカウント管理の両方を閲覧にする組合せ(オ)が、最小権限の原則にも合う正解です。

解答・解説

正解はオです

この問題のテーマ

X社ポータルに追加するモニタリングロールに、売上管理とアカウント管理のどの権限を与えるかを問う問題です。論点は、職務分離(1人に権限を集中させず、互いにチェックさせる仕組み)と最小権限の原則です。

解き方の考え方

最初に、表6の注記で権限の意味を確かめます。◎は編集(閲覧・ダウンロード・編集ができる)、○は閲覧(見られるが、ダウンロードと編集はできない)、×は権限なしです。次に、本文から新しいロールの目的を確かめます。モニタリングロールは、アカウント管理を含む各機能の利用状況を監視するために追加されます。最後に、監視に必要な権限が「見られること」だけで足りるかを、g1(売上管理)とg2(アカウント管理)のそれぞれで判断します。

選択肢ごとの解説

  1. ×ア  g1:◎、g2:◎
    アは、売上管理とアカウント管理の両方に編集権限(◎)を与える組合せです。監視役が両方を編集できると、売上情報もアカウント設定も自分で書き換えられます。そのため、管理者ロールの過大な権限を分けた意味がなくなり、誤りです。
  2. ×イ  g1:◎、g2:○
    イは、売上管理だけを編集(◎)にする組合せです。表8で売上管理を編集できるのは経理担当者ロールだけです。監視役も売上情報を変更できると、監視される側と同じ操作ができてしまうため、誤りです。
  3. ×ウ  g1:◎、g2:×
    ウは、売上管理を編集(◎)、アカウント管理を権限なし(×)にする組合せです。売上情報を変更できてしまううえ、アカウント管理の利用状況も確認できません。監視の目的と権限の制限のどちらも満たさないので、誤りです。
  4. ×エ  g1:○、g2:◎
    エは、アカウント管理だけを編集(◎)にする組合せです。アカウント管理の編集は、新設のアカウント管理ロールが担う作業です。監視役がアカウントやロールを変更できると、自分の権限を広げることもできるため、誤りです。
  5. ○オ  g1:○、g2:○
    オは、売上管理とアカウント管理の両方を閲覧(○)にする組合せです。閲覧権限があれば、両方の機能の利用状況を確認できます。一方で、ダウンロードも編集もできないため、監視に必要な最小限の権限に収まります。したがって、オが正解です。
  6. ×カ  g1:○、g2:×
    カは、売上管理を閲覧(○)、アカウント管理を権限なし(×)にする組合せです。本文は、アカウント管理も監視の対象に含めています。アカウント管理を見られなければ、その利用状況を監視できないため、誤りです。
  7. ×キ  g1:×、g2:◎
    キは、売上管理を権限なし(×)、アカウント管理を編集(◎)にする組合せです。売上管理の状況を確認できないうえ、アカウント設定を変更できてしまいます。監視ができず、権限も過大になるため、誤りです。
  8. ×ク  g1:×、g2:○
    クは、売上管理を権限なし(×)、アカウント管理を閲覧(○)にする組合せです。売上管理も監視の対象である「各機能」に含まれます。売上管理の利用状況を確認できないため、誤りです。
  9. ×ケ  g1:×、g2:×
    ケは、両方とも権限なし(×)にする組合せです。どちらの機能の情報も見られないため、利用状況の監視ができません。したがって、ケは誤りです。

POINT

  • 監視用のロールに必要なのは、対象を確認できる閲覧権限で、編集権限は不要です。
  • 監視する人が対象を変更できると、職務分離(相互牽制)が成り立ちません。
  • 権限は、職務に必要な最小限だけを与えます(最小権限の原則)。
  • 1つのロールに全機能の編集権限を集めると、不正のおそれが高まります。そのため、権限を複数のロールに分けます。

※出典:平成31年度春期 情報セキュリティマネジメント試験 午後 問2 設問4(2)(一部改変)