マナビング情報セキュリティマネジメント

就業規則と個別合意、秘密保持の定め方はどこで判断するか

情報セキュリティマネジメント試験 令和元年度秋期 午前 問36 / 法務 › 労働関連・取引関連法規

過去問にチャレンジ

令和元年度秋期 午前 問36

常時10名以上の従業員を有するソフトウェア開発会社が,社内の情報セキュリティ管理を強化するために,秘密情報を扱う担当従業員の扱いを見直すこととした。労働法に照らし,適切な行為はどれか。

  1. ア

    就業規則に業務上知り得た秘密の漏えい禁止の一般的な規定があるときに,担当従業員の職務に即して秘密の内容を特定する個別合意を行う。

  2. イ

    就業規則には業務上知り得た秘密の漏えい禁止の規定がないときに,漏えい禁止と処分の規定を従業員の意見を聴かずに就業規則に追加する。

  3. ウ

    情報セキュリティ事故を起こした場合の処分について,担当従業員との間で,就業規則よりも処分の内容を重くした個別合意を行う。

  4. エ

    情報セキュリティに関連する規定は就業規則に記載してはいけないので,就業規則に規定を設けずに,各従業員と個別合意を行う。

会話形式の解説

講師講師
今回は、秘密保持や処分のルールを「就業規則」と「個別合意」のどちらで、どう定めるのが適切かを選ぶ労働法の問題です。判断の基準は二つあります。就業規則を変えるときの手続と、就業規則と個別合意の力関係です。
受験者受験者
情報セキュリティの試験で労働法が出ると少し身構えてしまいます。就業規則は、会社が決めれば自由に書き換えられるものではないのですか。
講師講師
そこが一つ目のポイントです。就業規則を作るときも変えるときも、過半数労働組合、組合がなければ過半数代表者の意見を聴く必要があります。労働基準法90条の定めです。
受験者受験者
それなら、従業員の意見を聴かずに漏えい禁止と処分の規定を追加するという選択肢は、中身が妥当でも手続違反になりますね。
講師講師
そのとおりです。規定の内容が正しくても、意見聴取の手続は省略できません。次に二つ目のポイントです。就業規則は労働条件の最低基準として働きます。それより労働者に不利な個別合意は、その部分が無効になり、就業規則の基準が適用されます。労働契約法12条の定めです。
受験者受験者
担当者との個別合意で、就業規則より重い処分を決めるという選択肢がありました。セキュリティを強化したい気持ちは分かりますが、労働者に不利になるので無効になるということですね。
講師講師
はい。処分を重くしたいなら、正規の手続を踏んで就業規則そのものを変更する必要があります。
受験者受験者
では、就業規則に一般的な漏えい禁止の規定があって、担当業務に合わせて秘密の内容を特定する個別合意をする選択肢はどうですか。これも個別合意なので、同じように無効になりそうで迷いました。
講師講師
そこが紛らわしいところです。この合意は、就業規則にある一般的な規定を、職務に即して具体化しているだけです。何が秘密に当たるかをはっきりさせても、労働条件が不利になるわけではありません。不利な合意ではないので、12条によって無効になることはないのです。従業員にとっても守る範囲が分かりやすくなるので、実務でもよく使われる方法です。これが正解です。
受験者受験者
最後の、情報セキュリティの規定は就業規則に書いてはいけないという選択肢は、前提がおかしい気がします。
講師講師
そうですね。そのような決まりはありません。守秘義務や違反時の懲戒を就業規則に定めるのはむしろ一般的です。懲戒をするには、その種類と事由をあらかじめ就業規則に定めておく必要があるとされています。
受験者受験者
整理すると、意見聴取を欠く追加は手続違反、就業規則より重い処分の合意は最低基準を下回るので無効、就業規則に書けないというのは誤った前提です。一般規定を具体化する個別合意だけが適切、という理解でよいですか。
講師講師
その理解で大丈夫です。補足すると、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成と労働基準監督署長への届出が必要です。また、この問題には出てきませんが、就業規則の変更で求められるのは労働者側の意見を「聴く」ことで、同意までは求められていません。他の問題でこの違いが問われることがあるので覚えておきましょう。個別合意が就業規則より労働者に有利な場合はその合意が優先され、無効になるのは不利な方向の合意だけです。

まとめ

秘密情報を扱う従業員のルールを定める問題は、二つの基準で判断します。一つは、就業規則の作成や変更には過半数労働組合または過半数代表者の意見聴取が必要だという手続です。もう一つは、就業規則が労働条件の最低基準になり、それより労働者に不利な個別合意はその部分が無効になるという関係です。就業規則の一般的な秘密保持規定を職務に合わせて個別合意で具体化しても労働者に不利にはならないので、適切な行為といえます。懲戒をするには、その種類と事由を就業規則にあらかじめ定めておく必要があります。

解答・解説

正解はアです

この問題のテーマ

秘密情報を扱う従業員について、秘密保持や処分のルールを就業規則と個別合意(会社と従業員一人ひとりの約束)のどちらでどう定めれば適切かを、労働基準法と労働契約法から選ぶ問題です。

解き方の考え方

まず、就業規則を作る、または変えるときの手続を確かめます。このとき、労働者側の意見を聴くことが必要です。次に、就業規則と個別合意の関係を確かめます。就業規則は労働条件の最低基準なので、それより労働者に不利な個別合意は、その部分が無効です。この二つを選択肢に当てはめ、手続を欠くものと最低基準を下回るものを外します。さらに、事実と違う前提に立つものも外せば、残った肢が答えです。

選択肢ごとの解説

  1. ○ア  就業規則に業務上知り得た秘密の漏えい禁止の一般的な規定があるときに,担当従業員の職務に即して秘密の内容を特定する個別合意を行う。
    一般的な漏えい禁止の規定を、個別合意で担当業務に合わせて具体化する行為です。秘密の範囲をはっきりさせても、労働条件が不利になるわけではありません。したがって、就業規則の基準を下回らず、適切です。従業員も守る範囲が分かりやすくなります。
  2. ×イ  就業規則には業務上知り得た秘密の漏えい禁止の規定がないときに,漏えい禁止と処分の規定を従業員の意見を聴かずに就業規則に追加する。
    従業員の意見を聴かずに、漏えい禁止と処分の規定を就業規則へ追加する行為です。就業規則は、作るときも変えるときも、過半数労働組合、なければ過半数代表者の意見を聴く必要があります。規定の中身が妥当でもこの手続は省けないので、不適切です。
  3. ×ウ  情報セキュリティ事故を起こした場合の処分について,担当従業員との間で,就業規則よりも処分の内容を重くした個別合意を行う。
    就業規則より重い処分を個別合意で定める行為です。就業規則は労働条件の最低基準なので、それより労働者に不利な合意は、その部分が無効になります。したがって不適切です。処分を重くするには、正規の手続で就業規則そのものを変更します。
  4. ×エ  情報セキュリティに関連する規定は就業規則に記載してはいけないので,就業規則に規定を設けずに,各従業員と個別合意を行う。
    「情報セキュリティの規定は就業規則に書けない」と考え、個別合意だけで定める行為です。しかし、そのような決まりはなく、守秘義務や違反時の懲戒は就業規則に定めるのが一般的です。懲戒をするには、あらかじめ就業規則に定めておく必要があります。したがって不適切です。

補足

就業規則の変更で求められるのは、労働者側の意見を「聴く」ことです。同意を得ることまでは求められていません。この「意見聴取」と「同意」の違いを押さえましょう。また、個別合意が就業規則より労働者に有利なら、その合意が優先されます。無効になるのは、不利な方向の合意だけです。

POINT

  • 常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成と労働基準監督署長への届出が必要です。
  • 就業規則を作るときや変えるときは、過半数労働組合または過半数代表者の意見を聴かなければなりません。
  • 就業規則の基準に達しない(労働者に不利な)個別合意は、その部分が無効になり、就業規則の基準が適用されます。
  • 一般的な秘密保持規定を、職務に合わせた個別合意で具体化することは適切です。
  • 懲戒処分をするには、その種類と事由をあらかじめ就業規則に定めておく必要があります。

※出典:令和元年度秋期 情報セキュリティマネジメント試験 午前 問36