著作権を譲り受けても残る著作者人格権の制約とは
基本情報技術者試験 令和8年度 問20 / 法務 › 知的財産権
過去問にチャレンジ
A社は,自社の業務可視化をB社に委託しその成果物として納品された業務フロー図をC社に提示することによって,業務システムの開発をC社に委託することを検討している。A社がこの業務フロー図を使用する上で生じる制約として,適切なものはどれか。なお,B社への委託に当たって締結された契約には,著作権は全てA社に譲渡する旨の記述があり,著作者人格権については特段の記述はない。
- ア
C社と守秘義務契約を締結したとしても,C社に対して,納品された業務フロー図の電子データを提供することはできない。
- イ
納品された業務フロー図の各ページに作成者名として記されているB社の企業名をA社の企業名に変更し,C社に提示することはできない。
- ウ
納品された業務フロー図を印刷し,社内資料としてA社の社員に配布することはできない。
- エ
バックアップの目的で,納品された業務フロー図の電子データを複製し,A社だけがアクセス可能なクラウドストレージに保管することはできない。
会話形式の解説
講師この問題の論点は、委託して作ってもらった成果物の著作権を契約で全部譲り受けた会社に、それでも残る制約は何か、です。著作権と著作者人格権の違いに注目してください。
受験者契約に「著作権は全てA社に譲渡」と書いてあるので、A社は何でもできるように思えます。それなのに制約が残るのですか。
講師そこが引っかけです。著作権には、複製などで成果物を利用する財産的な権利と、作った人の名誉や思いを守る著作者人格権があります。財産権のほうは契約で譲り渡せますが、著作者人格権は譲り渡せません。作ったB社に残ります。
受験者では、選択肢の行為が財産権の話なのか、人格権の話なのかを見分ければよいのですね。
講師そのとおりです。まず、C社と守秘義務契約を結んでも電子データを提供できない、という選択肢はどうでしょうか。
受験者守秘義務契約という言葉があるので、何か制限がかかりそうな気がしました。
講師守秘義務契約は、情報の秘密を守るための取り決めです。著作権の行使を妨げるものではありません。著作権を譲り受けたA社は、著作権者として成果物を複製したり他社に提供したりできるので、この選択肢は誤りです。
受験者印刷して社内の社員に配る選択肢も、印刷は複製にあたるので、複製権を持っているA社なら自由にできるということですか。
講師はい。複製権はすでにA社に移っているので、印刷して社内で配布できます。「できない」という説明は誤りです。
受験者バックアップのためにクラウドへコピーする選択肢も複製なので、同じく誤りだと考えました。
講師その判断で正しいです。しかも保管先はA社だけがアクセスできる場所なので、第三者に公開するわけでもありません。
受験者残るのは、作成者名のB社をA社の名前に書き換えて提示できない、という選択肢です。名前の表示は利用とは違う話に見えます。
講師よいところに気づきました。著作物にどの名前を作成者として表示するかは、著作者人格権のうち氏名表示権にあたります。この権利はB社に残っており、契約には人格権を行使しないという定めもありません。B社の同意なしに名前を変えるとB社の人格権を侵害するので、これが正解です。
受験者財産権は譲渡で移るけれど、名前の表示のような人格権はB社に残るので、そこだけがA社の制約になるということですね。
講師そのとおりです。補足すると、著作者人格権には公表権、氏名表示権、同一性保持権の三つがあります。名前の書き換えや削除は氏名表示権、内容の改変は同一性保持権にかかわります。実務では、委託契約に著作者人格権の不行使特約を入れて、こうした制約を調整します。
受験者問われている行為が複製や提供などの利用なのか、表示や内容の改変なのかで判断すれば迷わずに済みそうです。
講師はい。「全て譲渡」で何でもできると思い込むのも、守秘義務や社内利用という言葉で財産権の行使まで制限されると考えるのも、どちらもよくある誤りです。権利の種類で切り分けて考えましょう。
まとめ
業務委託の成果物について、契約で著作権を全て譲り受けた発注者でも、作成者名をB社から自社名に書き換えることはできません。著作権のうち財産権は契約で譲渡できますが、著作者人格権は譲渡できず、作成した側に残るためです。作成者名の表示は著作者人格権のうち氏名表示権にあたり、不行使の定めがなければ制約になります。一方、本問の場面での複製や社内配布、他社への提供、バックアップなどは財産権の範囲の行為なので、著作権者であるA社が自由に行えます。
解答・解説
正解はイです
この問題のテーマ
業務委託で作られた成果物について、契約で著作権をすべて譲り受けた発注者でも、なお受ける制約は何かを問う問題です。著作権(財産権)と著作者人格権の違いが論点です。
解き方の考え方
まず、契約で移る権利と移らない権利を分けて考えます。著作権(財産権)は契約で譲り渡せますが、著作者人格権は譲り渡せず、作ったB社に残ります。そのうえで、各選択肢の行為が複製や提供などの財産権の話なのか、作成者名の表示のような人格権の話なのかを見分けます。財産権の話であれば、著作権を持つA社が自由に行えるので「できない」は誤りです。人格権にかかわる行為だけが、A社にとっての制約になります。
選択肢ごとの解説
- ×ア C社と守秘義務契約を締結したとしても,C社に対して,納品された業務フロー図の電子データを提供することはできない。C社へ電子データを提供できないという説明は誤りです。著作権を譲り受けたA社は、著作権者として成果物を複製したり、他者に提供したりできます。守秘義務契約は情報の秘密を守るための取り決めであり、著作権の行使を妨げるものではありません。
- ○イ 納品された業務フロー図の各ページに作成者名として記されているB社の企業名をA社の企業名に変更し,C社に提示することはできない。作成者名のB社をA社に書き換えて提示できないという説明は正しく、これが正解です。著作物にどの名前を作成者として表示するかは、著作者人格権のうち氏名表示権の範囲にあたります。著作者人格権は譲渡できないためB社に残っており、契約には不行使の定めもありません。そのため、B社の同意なしに名前を変えるとB社の人格権の侵害になります。
- ×ウ 納品された業務フロー図を印刷し,社内資料としてA社の社員に配布することはできない。印刷して社内の社員に配布できないという説明は誤りです。印刷は複製にあたり、複製権はすでにA社に移っています。したがって、A社は自由に印刷して社内で配布できます。
- ×エ バックアップの目的で,納品された業務フロー図の電子データを複製し,A社だけがアクセス可能なクラウドストレージに保管することはできない。バックアップのためにクラウドへ複製して保管できないという説明は誤りです。電子データのコピーは複製にあたりますが、複製権を持つA社は自由に行えます。また、保管先はA社だけがアクセスできる場所なので、第三者に公開することにもなりません。
補足
「著作権を全て譲渡」と書かれていると、何でもできると考えてしまいがちですが、そこに人格権は含まれていない点が引っかけです。逆に、守秘義務契約や社内利用といった言葉に気を取られて、財産権の行使まで制限されると考えるのも誤りです。設問の行為が「利用(複製・提供)」なのか「表示や内容の改変」なのかで判断すると、迷いにくくなります。
POINT
- 著作権(財産権)は契約で譲渡できますが、著作者人格権は譲渡できず、作った人や会社に残ります。
- 著作者人格権には、公表権・氏名表示権・同一性保持権の三つがあります。
- 作成者名を書き換えたり消したりする行為は、氏名表示権にかかわります。
- 複製・印刷・配布・提供は財産権の範囲なので、著作権を譲り受けた側が自由に行えます。
- 実務では、委託契約に著作者人格権の不行使特約を入れて、人格権による制約を調整します。
